「愛奈ちゃん、ママが用意したお部屋、気に入った?」大学を卒業した後、うちのママが私、水木愛奈(みずき あいな)にマンションを一部屋買ってくれた。メゾネットタイプの間取りは確かにすごく気に入っている。ただ、どうも防音がイマイチみたいだ。毎晩、隣の部屋の物音が丸聞こえなのだ。こっちは徹夜で仕事の追い込みをかけてクタクタだというのに、やっと家に帰ってきてもこんな仕打ちを受けないといけない。我慢できない。まったくもって我慢の限界だ。「失礼しまーす、水道の点検でーす」私はボイスチェンジャーを使っておっさんの声に変え、ドアをノックする。誰かがドアを開けに出てくる気配がしたら、すぐに逃げる。しかし、しばらく静かになっても、またすぐに元通りだ。本当に、隣の住人は発情期の犬かなにかの生まれ変わりなんじゃないかと疑ってしまう。騒音公害には本気で耐えられない。馬車馬のように働いて、夜のこの時間だけが唯一静かに過ごせる時間なのに。「失礼しまーす、ガスの点検でーす」私は再び同じ手を使った。そっちがいつまで耐えられるか、見てやろう。今度はよほど焦れたのか、相手はそのままドアを開けた。私はドアスコープ越しに、真夜中に寝もしない精力絶倫男をこっそり覗き見た。おや、ちゃんと服を着てドアを開けた。案外、恥じらいはあるらしい。上品そうな顔立ちで、金縁の眼鏡までかけている。見た目に反して、やることはエグい。ドアが閉まった途端、またあいう声が響き始めた。この男、大したものだ。部屋から出てくるところなんて、ほとんど見たことがないのに。いっそ、ドアの前でコンドームでも売ってやろうか。そしたら彼のおかげで一儲けできるかもしれない。この精力男には感服する。この手まで通じないとは、さすがに予想外だった。仕方なく、私はママにテレビ電話をかけて愚痴をこぼすことにした。「ママ、この部屋すごく良いんだけど、隣に精力オバケが住んでる」電話の向こうで、ママは困惑した。「精力オバケ?」「そう。一日中ひっきりなしにやってるの。私、もうノイローゼになりそう。信じられないなら聞いてみてよ」私はこの機に乗じて大げさに嘆いてみせた。この部屋の内装が、ずっと前から気に入らなかったのだ。しめしめ、これを口実にリフォームしてもら
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