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All Chapters of 元夫、ナニが終わった日: Chapter 1011 - Chapter 1020

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第1011話

周りの学生たちはすぐに集まり、興味津々に噂を始めた。「どんなニュースなの?」「A大にそんなニュースあった?全然聞いてないけど?」「私も何も知らない」興奮気味の女子学生が胸を張った。「そりゃあそうよ!だってこの特大ニュースはさっき決まったばかりの話なんだもん。私は第一手の情報を手に入れたの!間違いなし!」「それなら早く教えてよ。もったいぶらないで!」「じゃあ言うわよ。ちゃんと聞いて!今日の午後、ビジネス界のエースがA大に講義に来るんだって!」「ビジネス界のエースが、A大に?」その言葉に、教室中が一気に沸いた。特に若くて綺麗な女子学生たちは目を輝かせている。「どんな人?かっこいいの?」「もしかして、イケメンでお金持ち?」「やめときなよ。私も何人か経営者を知ってるけど、だいたいは薄毛でお腹が出てて、脂ぎってるタイプよ!」噂を広めた女子学生は笑いながら首を振った。「それはビジネス界の年取った社長でしょ?私が言ってるのはビジネス界の次世代のエースよ。次世代のエースなんだからきっと若くて、もしかしたらイケメンでお金持ちかもしれないじゃない!」「確かに!その可能性はある!私、その人の講義、絶対聞きに行く!」「私も!」「じゃあ一緒に行こう!本当に若くてイケメンで金持ちなのか、午後に確かめに行けばいいじゃない!」そんなふうに女子学生たちは盛り上がり、一緒にそのビジネス界の次世代のエースの講義を聞きに行く約束をした。その会話を聞いていた佳子の頭に、自然と一つの顔が浮かんだ。若くて端正で、そして今もっとも注目を集めるビジネス界の次世代のエース。それは真司だ。今や真司は、誰もが名前を知るほどのビジネス界の次世代のエースだ。彼以上に注目されている人物はいない。まさか……彼なの?彼がA大に?佳子はすぐに、そんな突拍子もない考えを否定した。真司がA大で講義?ありえない。彼は今も会社で多忙を極めているはずだ。わざわざ時間を割いて大学に来るなんて、あるはずがない。その時、隣の女の子が声をかけた。「佳子、午後一緒に行こうよ!」「このビジネス界の次世代のエース、すごく才能があるらしいわ。話も面白いって評判なんだって!」もともと授業に出るつもりだった佳子は、せっかくの誘いを断る理由もなく、にっこりと頷いた。
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第1012話

真司【そう?】そう?それは彼のいつもの冷たく傲慢な調子に、ほんの少しの優しさが混じっている。佳子【約束する!】真司はそれ以上、返信をしなかった。佳子はスマホを置き、真面目に本を読み始めた。やがて午後の授業の時間になった。「佳子、行こう。授業始まるよ」佳子は立ち上がった。「うん、行こう」学生たちはみんな教室に集まっている。今日の午後は教室が満員で、みんなビジネス界の次世代のエースを見に来ているのだ。佳子はその人気ぶりに思わず感心した。授業が始まる直前、佳子はスマホを取り出し、真司にもう一通メッセージを送った。【藤村社長、今何してるの?】しかし、真司からの返事はなかった。どうして返信がないんだろう。きっと忙しいのだ。その時、隣の女子学生が興奮して声を上げた。「佳子、メッセージなんて送ってる場合じゃない!見て、あの次世代のエースが来た!」ビジネス界の次世代のエースが来た?教室のあちこちがざわめき始めた。「来た!次世代のエースだ!早く見て!」「かっこいいのかな?」「どこ?見えないんだけど!」ほどなくして、一人の端正で堂々とした男性が教室に入ってきた。瞬間、教室中から「わぁーっ!」という歓声が湧き上がった。「やばい、かっこよすぎる!」「どうしてこんなにイケメンなの!」佳子の澄んだ瞳が一瞬で見開かれた。彼女は信じられない思いで壇上のその姿を見つめている。そこにいるのはなんと……真司だ!真司だ!佳子は自分の目を疑った。どうして真司がここに?なんと、A大に講義に来たというビジネス界の次世代のエースは、まさに真司なのだ!そうだ、もっと早く気づくべきだった。今ビジネス界の次世代のエースと呼ばれる存在なんて、真司以外にいるはずがない。真司は壇上に上がり、マイクを手に取った。「皆さん、こんにちは。藤村真司です。今日は皆さんに授業をする講師です」パチパチパチ。会場はすぐに大きな拍手に包まれ、学生たちの興奮と歓迎の気持ちが伝わってきた。佳子の隣の女子学生は興奮のあまり足を踏み鳴らしている。「本当にかっこよすぎる!」「若くてイケメンでお金持ち……完璧すぎる!」「彼って、彼女いるのかな?」「ちょっと!藤村先生は講義しに来てるの!あなたの彼氏になるためじゃない!彼氏にす
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第1013話

真司が自分の名前を呼んだ!佳子の心臓が一気に早鐘を打ち始めた。彼女は顔を上げて真司を見た。二人の視線が人の波を越え、空中でぴたりと交わった。言葉は一つも交わさなくても、その一瞬の目と目の合図だけで千の言葉を語るように甘く、胸の奥がとろけるような感覚が広がった。佳子ははっきりとした声で答えた。「はい!」真司はごくわずかに唇を引き上げると、また出席を取り続けた。ドクンドクン。佳子は自分の心臓の激しい鼓動をはっきりと聞いた。点呼が終わると、真司は授業を始めた。端正で気品あるその男は、講壇の上で穏やかに語り始めた。ユーモアに富み、博識で、退屈になりがちな文章も彼の話術によって生き生きと蘇る。だからこそ、学生たちは皆、真剣に耳を傾けている。やがて真司が言った。「みなさんに一つ質問したいです。愛とは何だと思いますか?」それはつまりディスカッションの時間ということだ。すぐに多くの学生が手を挙げ、真司に当てられようとした。真司は前の方の男子学生を指名した。「そこの君、答えてみて」男子学生は笑いながら言った。「藤村先生には彼女がいますか?」その言葉が出た瞬間、教室中がどっと沸いた。男子学生が慌てて言い足した。「藤村先生、誤解しないでください!俺の性癖はいたって正常です!これは女子たちに無理やり聞けって言われたんです!」一人の女子学生が大胆に声を上げた。「藤村先生、愛について語るなら、まずは先生自身に彼女がいるのか教えてください!」「そうですよ、藤村先生!私たちみんな知りたいです!彼女いるんですか?」学生たちは口々に真司に詰め寄った。佳子の隣でも女子たちが興奮気味に話している。「ねぇ、藤村先生に彼女いると思う?」「そんなの決まってるじゃない!あんなにカッコよくてお金持ちな人がモテないわけないでしょ!」「でもさ、もしかしたら本当に独り身かもしれないよ?」「その『もしかして』を期待してるの、あなたでしょ?藤村先生の彼女になりたいんじゃない?」「だって、藤村先生のこと好きじゃないの?」女子たちの瞳はきらきらと輝いている。この世に男性は多いが、優秀な者はまさに少ない。だからこそ、争奪戦が起きるのだ。佳子は真司を見つめ、彼がどう答えるのか気になって仕方がない。真司は手を軽く上げ、皆に静かにするよう合図
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第1014話

真司が、「葉月佳子さん」と呼んだ。シュッ。一瞬にして、教室にいた全員の視線が一斉に佳子の顔に向けられた。隣の女子学生が興奮気味に彼女をつついた。「佳子、藤村先生があなたを呼んでる!」「ねぇ、どうして藤村先生、佳子の名前を覚えてるの?」佳子「……」突然みんなの前で名指しされた佳子は、戸惑いながら真司を見た。彼が何を意図しているのか、まるで分からない。真司は穏やかな声で言った。「葉月さんは、愛とは何だと思いますか?」彼が……自分に愛とは何かを尋ねている?佳子は少し考え、真剣な口調で答えた。「藤村先生、私は、愛というのは異性同士の相互の引き合いと、ホルモンの衝動であり、互いに惹かれ合う気持ちだと思います」真司は唇の端をゆるやかに上げ、低く艶のある声で言った。「実のところ、愛とはフェニルエチルアミンとドーパミンです。人と人が触れ合うことで分泌されるホルモンによって、愛という名の幻覚が生まれるんです」佳子は目を瞬いた。愛についての意見は数多く聞いたが、フェニルエチルアミンとドーパミンの幻覚という考えは初めてだ。彼女は眉を少し上げて言った。「つまり先生は、愛はドーパミンの幻覚だとお考えなんですね?」真司は頷いた。「俺の考えではなく、生理学的に見ればそういうものなんです」佳子が問い返した。「生理学がそう教えるなら、藤村先生はなんで恋をするんですか?」真司の美しい瞳に、柔らかな微笑が浮かんだ。「たとえ愛が幻覚であっても、俺はそのドーパミンに敗北しました。喜んでその幻に身を委ねます」わぁっ!教室が一気に湧き上がった。真司は、誰もがうっとりするような完璧な答えを出したのだ。佳子の瞳がきらきらと輝いている。うん、確かに彼の言うとおりかもしれない。「藤村先生、ご教示ありがとうございました!」真司は微笑みながら言った。「葉月さん、他に分からないことがあれば、授業の後に私のところへ来なさい。いつでも歓迎しますよ」わざとだ。彼はわざと、自分を招いたのだ。佳子は何も言い返さなかったが、周囲ではすでにざわめきが起きている。「ねぇ佳子、あなたと藤村先生って、もしかして知り合いなの?」「そうだよね。藤村先生の反応、ちょっとおかしくない?」「うん!藤村先生の、佳子のこと見る目が違う気がする!」「佳子って
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第1015話

佳子はオフィスの前に立ち、手を上げて扉を叩いた。扉は閉まっていなく、中の様子が見える。真司は教師用の椅子に腰をかけ、黒いスーツの上着を脱ぎ、白いシャツに黒いスラックス姿で、視線を伏せながら本を読んでいる。その端正で気品ある横顔に、思わず目を奪われる。ノックの音を聞いた真司が顔を上げた。「どうぞ」佳子は中に入り、「藤村先生」と言った。真司「ドアを閉めて」佳子は素直に従って扉を閉め、彼のそばへ歩み寄った。「藤村先生、私に何かご用ですか?」真司「葉月さん、今夜は時間がありますか?」佳子は唇を少し上げて微笑んだ。「藤村先生、今夜何か予定でも?」真司「今夜、君を食事に誘いたいです」「藤村先生が私を食事に?それは……よくないんじゃないですか?」真司は楽しげに眉を上げた。「どうしていけないんです?」「だって先生は教師ですし、もし他の学生に見られたら、きっと噂になりますよ」真司は手を伸ばし、彼女の細い手首を掴むと、そのまま軽く引き寄せ、彼の膝の上に彼女を座らせた。「噂されるなら、それでいい。ちょうどいいじゃないか。みんなに、俺の彼女が誰かを教えてやる」佳子の胸の奥に、甘さがじんわりと広がった。だが、彼女は慌てて身をよじった。「藤村先生、早く放して。誰かに見られたら困るじゃん」「ここは学長から貸してもらった個人オフィスだ。誰も入ってこない。安心しろ」A大の学長とそんなに親しい関係だなんて。「なんで今日A大で講義を?」と、佳子は目を輝かせながら尋ねた。真司はその問いに答えず、逆に問い返した。「君がここで授業を受けられるのに、俺がここで講義をしてはいけないのか?」「そんな意味じゃない」「じゃあ、どういう意味だ?俺が来るのが嫌なのか?」「そんなことない。藤村先生がA大に来たら、たちまち皆の心を奪ったよ。嫌う理由なんてない」真司は彼女をしっかりと抱き寄せ、膝の上で腕を回した。「じゃあ、君の心は奪えてないのか?」真司はまさに完璧な恋人だ。若くして気品があり、財もあり、知性も兼ね備えている。こんな人を拒める女性なんて、きっとそう多くない。少なくとも、佳子には無理だ。彼女は腕を伸ばして真司の首に抱きつき、顔を近づけ、その整った頬に軽くキスをした。真司の瞳に、微笑が揺らめいる。彼は彼女の紅い唇を見つめなが
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第1016話

真司「わかってる。全部葉月さんの言う通りにする」佳子は通話ボタンを押して電話をつなげた。電話の向こうで女の子の同級生が嬉しそうに言った。「佳子、もう学校を出たの?」佳子「うん、今出るところ。どうかしたの?」女子学生「今夜時間ある?一緒にご飯食べようよ」クラスメートが食事に誘ってきた。だが、今夜はすでに予定がある。佳子はやんわりと断るしかない。「今夜はちょっと用事があるの、ごめんね。今度は私がご馳走するから」「えー、佳子が来ないなんて残念。私たち、藤村先生のラインを聞く作戦を考えてたのに」真司のラインを聞く?佳子は思わず顔を上げて真司を見た。すると、彼もその涼やかな瞳を伏せながら彼女を見つめている。また彼の深くて真っ直ぐな視線にぶつかってしまった。佳子「藤村先生のラインを聞きたいの?でも、藤村先生には彼女がいるでしょ?」女子学生「藤村先生に彼女がいるのは知ってるけど、その人、まだ藤村先生のプロポーズを受けてないんだし、まだチャンスあるじゃん」佳子「……」まさか彼のような恋人のいる男が、まだ狙われているとは。佳子は思わず真司をにらみつけた。真司は唇をゆるめ、すぐに彼女の唇に軽くキスを落とし、小声で囁いた。「俺は君のものだ。他の誰にも奪わせない!」あの子たちは、きっと夢にも思わないだろう。自分こそ、彼女たちが「生意気な彼女」と噂する相手で、そして今まさに真司の膝の上に座っているなんて。佳子は嫉妬を隠れずに言った。「藤村先生ってほんとモテモテね」真司は甘い言葉を惜しまなかった。「俺が愛しているのは君だけだ」佳子「うまいこと言うわね」その時、電話の向こうの女子学生が何かに気づいたように声を上げた。「佳子、もしかして誰か一緒にいるの?今、誰といるの?」佳子「彼氏と一緒にいるの」「えっ、佳子、彼氏いるの?」と、相手は驚きの声を上げた。佳子「うん、いるよ」「どんな人なの?」佳子は真司に目をやった。真司は眉を少し上げ、まるで「どう言うつもり?」とでも言いたげに、興味深そうに彼女を見ている。佳子は堂々と答えた。「私の彼氏はね、若くてハンサムで、自分の会社を経営してるの。とっても有能な人よ」友達の前で真司を過剰に褒めるのも違う。だが、真司の前で褒めないのも違う。そのバランスが大事だ。
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第1017話

佳子の長いまつげがふるりと震えた。「……どんな呼び方?」真司は低く笑った。「知らない?それとも、わざと聞いてる?」その言葉に、佳子の胸がドキリと跳ねた。もう、彼の言うものが何なのか、ちゃんとわかった。佳子は小さな顔がみるみるうちに真っ赤になり、慌てて身を起こそうとした。「藤村先生、離して!」佳子の白く透き通るような肌が、頬を染めてますます愛らしく見える。うっすらと浮かんだ産毛が光を受けてきらめき、思わず触れたくなるほどだ。いや、ただのキスでは足りない。噛みしめたくなるほどに。真司は逞しい腕で彼女をさらに抱き締め、彼女がどんなにもがいても放そうとしない。薄い唇を歪めて笑い、からかうように言った。「葉月さん、先生が質問してるのに無視するなんて。それ、礼儀がなってないんじゃない?」佳子は眉をきりりと上げた。「じゃあ、先生が女の生徒を抱きしめるほうが、よっぽどおかしいでしょ?」真司は、その反論をする姿が可愛くてたまらない。そして、言葉の代わりに、彼女の唇を覆った。んっ……佳子は小さな手で彼の硬い胸を押し返し、必死に言った。「離して!」だが真司は、彼女が口を開いたその一瞬の隙を逃さず、唇を深く重ねた。佳子は羞恥と怒りで頬を真っ赤に染め、思い切り彼の唇を噛んだ。っ……真司が息を呑み、ようやく彼女を離した。指先で唇を拭うと、端の方がうっすらと血に染まっている。「噛まれたな……」と、彼は苦笑した。「他の生徒に聞かれたら、どう説明すればいい?」佳子の瞳がきらりと光っている。「強引にキスして罰を受けましたって言えばいいのよ!」真司は笑いながら首を傾げた。「妻に噛まれた跡って言うさ」妻。彼は、自分のことを「妻」と呼んだ。佳子は鼓動が早くなった。「だ、誰があなたの妻よ!」「妻はもちろん君だ。藤村真司の妻は、葉月佳子だ」その言葉に、佳子は胸の奥がふわりと甘くなった。「まだ結婚してないのに……恥ずかしいこと言わないで」真司は彼女をぎゅっと抱きしめた。「じゃあ、いつ結婚してくれる?」佳子「あなたの頑張り次第ね」真司「よし、期待してて」ちょうどその時、またスマホの着信音が響いた。まだ誰かが佳子に電話をかけてきた。「電話だ」真司は小さくため息をついた。「忙しいな。さっきのに続いて、もう二本目だ。今
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第1018話

栄一「覚えててくれてよかった。じゃあ、今夜会おう」電話が切れると、真司は佳子を見つめた。「……今夜、木村と約束してるのか?」佳子は素直にうなずいた。「うん。今日、学校で栄一に会ったの。今回A大に入れたのも、栄一が手伝ってくれたおかげだから。だからお礼に、今夜は私がご飯をご馳走するの」真司は、佳子が栄一に特別な感情を持っていないことをわかっている。だが、栄一のほうは明らかに佳子に好意を抱いている。その家柄の世界では、佳子のようなお嬢様はいつだって政略結婚の対象で、争奪戦の中心にいるのだ。それでも真司は止めようとはしない。彼にとって佳子はものではなく、人だ。彼女には自分の時間と交友関係がある。たとえそれが異性との関わりであっても、彼は理解し、受け止めたいと思っている。彼は本気で、彼女と長く生きていきたいと願っているのだ。「……じゃあ、今夜一人増えても、構わないか?」その言葉に、佳子は一瞬きょとんとした。「一人増える?誰?」「俺さ。今夜、予定が空いてるから、一緒に行こうと思って」「えっ?あなたも栄一と一緒に?」真司は軽くうなずいた。「どう?ダメか?」佳子は思わず笑った。「もちろんダメじゃないよ!ただ、意外だっただけ。あなたって、あんまり人付き合いが得意なタイプじゃないから」真司は穏やかに微笑んだ。「君の友達だろ?俺にも紹介してくれよ。それに、木村は君に恩がある。その恩は俺にとっても恩だ。感謝を伝えたい。だから今夜、一緒に行こう」佳子は嬉しそうにうなずいた。「うん、わかった!今もうお仕事はないの?ないなら、出発しよう?」真司は彼女を抱き寄せた。「もう終わったよ。行こう」……三十分後、高級車が南風荘に滑り込んだ。真司は車を降りると、佳子の小さな手を取って店内へと導いた。店内は次々と客が出入りし、活気に満ちている。真司は彼女の手を放すと、代わりにその細い腰に腕を回して支えた。「気をつけて。人が多いから」彼の優しさに、佳子はくすりと笑った。「大丈夫。自分とお腹の赤ちゃんは、ちゃんと守るから」「今は俺がいる。俺が君と赤ちゃんを守る」と、真司は優しく微笑みながら言った。きっとこの人は、良い夫になれる。良い父親にも、きっとなれる。そんな想いが、佳子の胸に広がった。二人が約束の個室に入ると、栄一はまだ
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第1019話

佳子は口元に笑みを浮かべた。「栄一、ちょうどよかった!メニューはここにあるよ。一緒に注文しよう!」彼女は手にしていたメニューを栄一に差し出した。栄一はそれを受け取り、ページを開いた。「佳子が子どもの頃、酢豚が好きだったのを覚えているよ」ちょうどその頃、真司は電話を終え、個室の前まで戻ってきた。扉は閉まっておらず、中から栄一の声が聞こえてくる。彼が佳子と子どもの頃の思い出を話している。真司は、手をドアノブにかけたまま、しばらく中に入らず立ち止まった。彼は、二人が何を話すのか聞いてみたいのだ。佳子はうなずいた。「私はね、子どもの頃だけじゃなくて、今でも酢豚が大好きなの!栄一がまだ覚えててくれてうれしい」栄一も穏やかに笑った。「もちろん覚えてるさ。でもあの頃、君は千代田さんと仲が良くて、二つの家は婚約までしていたよね」佳子は逸人の名を出したくない。あの人との思い出は、何一つ美しいものがないからだ。「栄一、あの人のこと、もう聞いたでしょ?もうみんな知っている。彼のことはもう過去の人よ。私はもう思い出したくないの」栄一「……そうか。それならもうやめよう。でもね、あのとき君が千代田さんと婚約したと聞いた時、俺はしばらく落ち込んだんだ」佳子は軽く目を瞬かせた。「なんで落ち込んだの?」栄一の言葉の調子、視線、その全てで彼女は察してしまった。栄一は、多分自分のことが好きなのだ。でも……あの時の自分は不細工だった。逸人も、ただ自分を利用したかっただけなのだ。「栄一、あの時、私ブスだったのに。誰も私を好きになるはずなかったわ」栄一「佳子、君は全然ブスなんかじゃなかった。君の目は星みたいに輝いていて、澄んでいて、とても可愛い。ただ君がいつも千代田さんばかり見ていたから、顔を上げてくれなかっただけなんだ。少しでも顔を上げてくれたら、ずっと君を見つめていた俺の存在に気づけたのに」その言葉に、佳子の胸が一瞬きゅっと鳴った。栄一が自分に好意を抱いている。まさかこんな展開になるなんて。栄一はまっすぐ彼女を見つめ、「佳子、実は俺は……」と口を開いた。扉の外で真司は息をのんだ。男として、次に何が言われるのか、もう十分に察している。栄一は今夜、佳子に想いを告げようとしているのだ。真司の指が再びドアノブを握った。彼が中に入ろうとした
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第1020話

佳子は、自分を愛していると、はっきりと言った。扉の外でその言葉を耳にした真司は、薄い唇の端をわずかに上げた。彼は知っている。ずっと、最初から。一方、栄一は衝撃を受けた。今夜、彼は告白するつもりだった。もし二人の家が結ばれれば、それは互いにとっても名実ともに良縁になるはずだった。だが今となっては、佳子はすでに他の人と結ばれている。佳子は自分のお腹にそっと手を添え、優しい眼差しを浮かべた。そのまなざしには、母性の温もりが滲んでいる。「栄一、私、妊娠してるの。真司との赤ちゃん、もう五ヶ月になるの」栄一はさらに驚いた。佳子の手足は細く、ゆったりとしたワンピースを着ているせいで、外からはまったく気づかなかったのだ。だが栄一は、潔く身を引ける男でもある。彼は苦笑を浮かべ、「佳子、おめでとう」と言った。佳子は笑った。「ありがとう、栄一。栄一のような友達がいてくれて、本当にうれしい」彼女は栄一が想いを口にする前に、自分の考えをはっきり伝えた。そうすることで、彼に恥をかかせることなく、きちんと区切りをつけたのだ。これからも、良い友人として付き合えるためなのだ。栄一はその意図を理解し、ただ静かに微笑んだ。そのとき、真司は手をあげてノックした。佳子「栄一、真司が来たわ」言葉と同時に、個室の扉が開いた。真司が姿を現した。真司は栄一を見つめながら挨拶した。「木村教授、こんばんは」栄一は素早く立ち上がった。「藤村社長、こんばんは。お噂はかねがね」栄一が手を伸べると、二人は握手を交わした。真司「木村教授、今回佳子をいろいろと助けてくれてありがとう。今夜はそのお礼も兼ねて、一緒に来たんだ」栄一は微笑みながら言った。「とんでもないさ」二人は手を離し、真司は佳子の隣に腰を下ろした。佳子「栄一、さぁ注文しよう。食べながらゆっくり話そう」真司は佳子の手を取り、指を絡めた。二人が見つめ合い、ふっと笑い合った。栄一は悟った。この女性とは、もう友人としてしか並べないのだ。その夜の食事は和やかに終わり、三人は外へ出た。栄一は微笑んで言った。「藤村社長、佳子、ご馳走さま」「こちらこそ、木村教授」「それではお先に」「栄一、じゃね」栄一は自分の車に乗り込み、静かに去っていった。真司は、まだ佳子の手をしっかりと握ってい
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