「うー、気持ち悪い」胃がムカムカするのを我慢しながら、結局一睡もすることなく私は出勤した。同じだけ飲んだはずの翼は全くいつもと変わらない顔をしていて、つきあってあげた私としてはなんだか悔しい。「山形先生、顔が怖ーい」病棟ですれ違った子供にまで言われてしまうなんて、まずいな。「2日酔い?部長が出張で良かったわね」偶然出会った夏美の嫌み。完全に部長に目をつけられてしまった私は、小児科の中では問題児扱いだ。本当に、今日部長がいたら大変だっただろうな。それだけでも幸運と思わなければいけないだろう。「でも、翼は紅羽よりももっとヤバそうよ」「えっ?」夏美の言葉に、顔を上げた。正直、今日は休むかもって思っていたのに、翼は出勤していった。今の状況は翼にとって針のむしろのはずで、きっとやり難いだろうなと想像できる。何とか早急に騒ぎが収まってくれれば良いけれど。***その日の夕方、私はたまたま救急外来に呼ばれた。時刻は午後6時。ちょうど開業医の受付が終わる時間とあって、かなりの患者で混雑している。「山形先生、お願いします」救急外来に入るとすぐに看護師から声がかかり、熱で元気のない赤ちゃんの診察をした。「お母さん、ミルクは飲めますか?」「いえ、あまり」「そうですか、水分は?」「飲めています」「じゃあ、無理せずに少しずつ水分を取らせてあげてください。今夜分の薬と座薬を出しますから明日外来に来ていただけますか?」「はい」何か変わったことがあれば救急を受診するようにと念を押し、私は赤ちゃんの元を離れた。あれ?その時、周囲の様子がおかしいことに気が付いた。みんなが遠巻きに翼を見ている。「なあ、検査急いでよ」「待ってください。今、準備します」不機嫌丸出しの翼に、若い放射線技師は慌てている。「だから、急いでっ」
Last Updated : 2025-04-26 Read more