「テイワズ・オスカリウス」 呼ばれた名前に振り返った。 今日は社交界デビュー(デビュタント)の日で、名を呼ばれた金髪のドレスを着た女性は、今まさに今から婚約者であるこの男と踊るところだったのだ。 テイワズ・オスカリウス。 侯爵家の子女の十六歳。長い金髪と青い目が、シャンデリアの光で輝いた。 豪奢で華やかな王宮の広間。 賑やかなその場で、見知った声の異変を感じ、伸ばそうとした手を止める。 名前が聞こえて反応した家族の視線を感じた。が、それよりはこの目の前にいる婚約者の硬い面持ちの方が気になる。 婚約者のダグは彼女と──テイワズと同じ金髪碧眼の男だった。 今日のテイワズのドレスは、彼が青い服を纏うと聞いていたから、それに合わせた淡い青のドレスを選んだ。 なのに彼は、緑を基調とした正装をしてた。 (おかしい) 並べば一枚の絵画のようだと讃えられるほどお似合いだった婚約者だった。手の届く距離にいる。 なのに。 もうお互い違う額装の中にいるような違和感を、テイワズは感じた。 「ダグ……?」 「気安く呼ばないでくれ」 同じ色の青い目を信じて名を呼べば、ピシャリと冷たく放たれた。ダグは一歩引いて、目の前のテイワズを見つめた。 そして、高らかに、告げた。 「婚約を破棄にしよう、オスカリウス家のテイワズ嬢。僕ときみは、もう婚約者ではない」 周りがざわついた。 どうしよう、足元がふらつく。 立場を揺らがす出来事だった。 (……信じたくない) それでもテイワズが立てるのは、今日のために装い仕立てたドレスのおがげであり、なにより女として強靭に鍛えた矜持のおかげだった。 「他に愛する人ができたんだ」 泣くな、と拳を握る。 拳に爪が食い込む。泣かないように、心の痛みを誤魔化す。 ──泣いたら。 「はっ! テメェは俺様の妹に相応しくねぇよ」 ──泣いたら、大騒ぎになってしまう。 後ろから硬い体に引き寄せられた。 背中に正装の上からでもわかる硬い胸板があたって、目の端に銀色の光が輝いた。金髪のテイワズを抱き寄せる銀髪は、赤い目の持ち主。 犬歯を見せて敵意を露わに細い肩を抱き寄せた、彼女の兄。 「ヘルフィお兄様」 肩を抱き寄せた兄の手の力の強さに、大事になってしまったな、と
Terakhir Diperbarui : 2025-05-16 Baca selengkapnya