結婚式当日、両親が突然、婚約者を連れて私の部屋に現れた。そしてこう言った——「今日の花嫁、結月じゃなくて、思羽にしてほしいの。お姉ちゃん、もう長くないの。末期の病気で……彼女のたった一つの願いが、湊一と結婚することなの。実の妹でしょ?少しぐらい譲ってあげなさい。家族のために、お願い」婚約者の朝霧湊一(あさぎりそういち)も隣でこう続けた——「心配しないで。ただのセレモニーだよ。彼女が逝ったあと、正式に籍を入れればいい。ね?」私はもちろん、首を縦に振らなかった。すると、父と母は無言で私の手足を縛りあげた。「式が終わったら、ちゃんと出してあげるから」でも——彼らが家を出てから間もなく、部屋にひとりの男が押し入ってきた。知らない顔、知らない声。そして、私は……何の理由もなく、残酷に命を奪われた。私の魂は空中を彷徨いながら、冷ややかな眼差しで、本来は私のものであったはずの結婚式を見下ろしていた。式場の視線は、皆、ステージの中央に注がれている。本来なら私が着るはずだったウェディングドレスに身を包んだ綾瀬思羽(あやせしう)が、私の婚約者、湊一とともに、感動的な誓いの言葉を交わしていた。客席の最前列では、私の両親が目を潤ませながら「思羽がようやく幸せになれたのね」と、何度も何度も呟いている。拍手と歓声の渦の中、新郎新婦は幸せそうに笑いながら、彼らなりの「運命の物語」を語っていた。運命的な出会い、深い愛情——その一つ一つの言葉の中に、私という存在は欠片すらない。まるで最初からいなかったかのように。あのウェディングドレス。以前私が試着したときはきつくて呼吸も苦しかったのに、いま思羽が着ると、まるで彼女のために仕立てられたかのように完璧に似合っていた。私は宙を漂いながら、全身がどんどん冷えていくのを感じていた。そうか——最初から今日、湊一と結ばれるのは、私ではなかったのだ。思えば、式の準備中から、湊一はどこか上の空だった。スマホを見つめては、理由もなく微笑んでいたあの表情。いまなら、その意味がよくわかる。でも——どうして彼らは思羽を愛していながら、私を犠牲にする必要があったの?その答えを知る前に、私は命を落とした。場所は、あの安アパートの一室。両親に手足を縛
Read more