(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~ のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

120 チャプター

心を抉る残酷さに 12

 でも今は、そんなことでいちいち落ち込んでいられる状況ではなく。とにかく東雲《しののめ》社長をどうにかしなくてはと思ったが、いつの間にか私を庇うように立っていた朝陽《あさひ》さんに守られていて。 嬉しいけど、やっぱり胸が苦しい。 どうして貴方は、こんな風に私が期待してしまいそうになる事をするんですか? 本気で特別な感情なんて持ってはいけないって分かってるのに、これじゃあ自分が止められなくなるじゃない。 そんな私の葛藤も知らずに、朝陽さんは……「これは、私の自宅のポストにいつの間にか入れてあっただけで。そもそも、こんな事を会社でするようなこの女性が問題なんだろう!」「いつの間に、とは? 昨日の業務終了後に起こったことを、翌日の朝一番で証拠を持って文句を言い来るなんて早すぎるだろう? まあ、俺が帰る前に終わらせるように指示されてたんだろうがな」 『指示されて』朝陽さんの口からその言葉が出たと言うことは、やっぱりそうなんだ。あまりにもタイミングが良すぎるとは思ったけれど、こんな事まで平気でするなんて。 それでも朝陽さんが愛知からここまで戻って来れたのも、この状況を知っていた事も不思議で仕方ない。彼は一体どうやって今の私の現状を把握したのだろうか?「な、何のことです? いくら神楽《かぐら》の御曹司だと言っても、そんな言い掛かりはどうかと!」 東雲社長は簡単に引き下がるつもりはないようで、朝陽さんに対して言いがかりだと文句をつけ始めた。自分が私にしている事は、それと同じ事なのになんて人なんだろう。「ほう? 俺の言葉が言いがかりかどうかは、東雲社長の息子に証明してもらうとしようか」 空いたままの扉から部屋の中に入って来たのは、白澤《しらさわ》さんとまさかの東雲君本人で。私を真っ直ぐ見れないのか、彼は目を逸らして俯いている。 そんな東雲君に驚いた社長が、大きな声で彼を怒鳴り始めてしまった。「――なっ!? 亮太《りょうた》、今日は家から出るなとあれほど言ったのに……!」「仕方ないだろう! やったことを正直に話さないのなら、大学生時代のあれこれを俺の婚約者にばらすって……コイツが脅してきたんだから!」 やはりこの親子二人で計画したことだったようで、私達の存在を忘れたように言い争いを始めてしまう。今回の事を指示したのが誰であれ、すべて最初から仕組まれてい
last update最終更新日 : 2025-10-20
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心を抉る残酷さに 13

 そんな醜い言い争いを初めた二人を前にしても、白澤《しらさわ》さんは普段と全く変わらない。東雲《しののめ》君の発言を、冷静に訂正しながら話すだけで。そういうところが白澤さんらしいと言えば、そうなのだけど。「バラす、とは人聞きが悪い言い方ですね? 私は貴方の婚約者やそのご家族へお伝えした方が良いのでは、とお話しただけでしたが」「それが脅してるって言ってるんだ! こいつら、いったい何なんだよ!?」 今見ている東雲君は、昨日までの彼とは別人のようで。自分が彼の表面しか見てなかったのだと気付いて、何とも言えない気持ちになった。 これじゃあ流《ながれ》の時と何も変わらない、簡単に騙されて周りに迷惑をけ手てしまっている自分のまま。それが悔しいと、こんなに感じてるのは初めてで。「こいつら、とは? それは俺のことを言っているのか、面白いな」「亮太《りょうた》! お前はこれ以上喋るんじゃない、私が話をするからそこで大人しく黙っていろ!」 東雲君を挑発するような態度の朝陽《あさひ》さんだが、東雲社長が二人の間に割って入りそれを止めようとする。社長はこのままではタダでは済まされないと感じたようで、急に朝陽さんや私に対する態度を変えてきた。「その……息子と私の勘違いだったようで、君にも神楽《かぐら》君にも迷惑をかけてしまったと思う。ただ亮太はまだ社会に不慣れなわけで、ここは今回は大目に見てもらえないだろうか?」「大目に、とは? 勝手に物事をでっち上げ鈴凪《すずな》を解雇しろとまで迫っておいて、よく言えたものだな」 朝陽さんのいう事はもっともだと思う。出された証拠も自分たちで用意したのだろうし、勘違いにするには無理があり過ぎて。謝罪の言葉も薄っぺらで、申し訳なさなど欠片も感じないのだから。 そんな私の気持ちを代弁するかのように、朝陽さんはハッキリと……「画像はスマホの遠隔操作を使ってデジカメで自分が撮ったと、こいつが白状している。今になって勘違いなんて言葉で、都合よく誤魔化せると思ってるのか?」 そうだったんだ、そのカメラも最初から用意されてたんだろう。全く気付かなかったけれど、そのために休憩室に隠してあったに違いない。 でもそんな朝陽さんの問い詰めに、東雲社長は息子へと怒りの矛先を向けて。「――亮太! お前っ!!」「何だよ! そもそも親父がこんなこと安請け
last update最終更新日 : 2025-10-21
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心を抉る残酷さに 14

 そんな二人をいつまで見ていても仕方ないと思ったのか、とうとう朝陽《あさひ》さんが口を開く。それも仕方ないと思う、このままではどれだけ待っても埒があきそうになかったから。「今さら仲間割れをしようと俺は一向に構わないが、今回の事はどう責任を取るつもりなんだ?」 容赦のない言葉に、一瞬だけ東雲《しののめ》社長は怯んだ様子を見せたがそう簡単には黙る気はないらしく。この期に及んで、まだこの偽装した写真で私を脅しすつもりのようだ。「責任だって、こっちにはこの写真があるんだぞ? 私達が周りに話してしまえば、こんな女性社員一人くらいどうとでも……ひっ!」「ほお? 別に俺や神楽《かぐら》ループを敵に回しても良いというのなら、それも良いんじゃないか」 小さな悲鳴を上げた東雲社長だが、それもそのはず。一瞬でその雰囲気を変えた朝陽さんは、私が見ても怖ろしい程だったから。普段でもドSだと思う事はあるが、それとは比べ物にならない程の威圧感。 私はまだ、朝陽さんを本当の意味では分かってなかったんだ。「こんな女一人に、どうしてそこまで……?」 確かに神楽グループの御曹司である朝陽さんが、私のようなどこにでもいるOLを特別扱いしていれば驚くだろう。ただそれは何も知らなければ、の話だけれど。「ああ、東雲社長は知らないのか。この女性、雨宮《あまみや》 鈴凪《すずな》は俺の婚約者だという事を」「な、なんだって!? そんな話は、私は少しも聞いてな――っ」 やっぱり東雲社長は知らなかったんだ、私と朝陽さんの関係について。そうなのだろうとは思ったが、黙っていて正解だったのかもしれない。 こうして朝陽さんが話したほうがずっと効果的でしょうから。その考えは、やはり当たっていたようで……「ああ、そうだろうな。そういう都合の悪い事は教えない奴だ、あんたの今回の取引相手は」 まるで今回の裏幕を知っているような朝陽さんの口調に、大体の想像はついてしまった。その人の性格も使いそうな手も、彼はよく知っている人物だという事だから。 ……そんなの、私には一人しか心当たりがいない。「そんな、じゃあ私はいったいどうすれば? この写真だって……」 そのままガクッと膝をつき、震えるような声で朝陽さんに懇願しだした東雲社長が少し気の毒にも感じたがどうすることも出来ない。 ここで口を出して、また
last update最終更新日 : 2025-10-22
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心を抉る残酷さに 15

 けれどもそんな東雲《しののめ》社長を相手に、朝陽《あさひ》さんは顔色一つ変えることなく毅然とした態度で答える。 大企業の御曹司である彼は、もしかしたらこんな場面は何度も見てきたのかもしれない。「その写真の元画像もどうせアイツに渡っているんだろうが、残りについては責任を持って処分するんだな」 その写真が悪用されないか不安ではあるが、朝陽さんには何か考えがあるのかもしれない。 今の私には何も出来ない事が、もどかしいけれど……「それはそうですが、このままでは私や家族と会社が……」「そんなこと俺が知るか。だがこれ以上、鈴凪《すずな》に手出しをするつもりならば俺も遠慮はしない」 何とかして欲しいと縋りつく東雲社長に、朝陽さんが揺らぐことはなく。ハッキリとこれから先、私に関わらないように釘を刺してくれた。 もちろんそれは嬉しいけれど、本当にこのまま朝陽さんに甘えていていいのか考えさせられる。 どう考えても、私が彼の足を引っ張って迷惑をかけ続けてしまっている現状に……あの人なら、こうならないんじゃないかって。 そんな私の思考を遮るかのように、今度は東雲君の焦った声が聞こえくる。「おい! これから俺たちはどうなるんだよ、なあ親父!?」「畜生、あんな奴の口車にのせられなければ。私達はアイツに騙されたんだ……」 私を騙してこの会社から出ていくように仕向けようとしたこの二人を許す気にはなれないけれど、これから彼らがどうなるのか少し気にはなって。 でもそんな事を朝陽さんに聞ける雰囲気でもなかったため、しばらく黙っていると……「お二人は先にマンションへ帰っていていてください、後始末は私がやっておきますから。ご心配なく」 いままで様子を見守っていた白澤《しらさわ》さんが、そう声をかけてきた。彼の後ろにいた部長や轟《とどろき》さんも、そうしなさいというように頷いている。 確かにこんな状況の後で作業に取り組むのは難しかったので、その提案は正直有難くて。「……ああ、悪いけど頼むぞ白澤。とりあえずマンションに帰るぞ、いいな鈴凪」「は、はい」 そう言って私の片手を掴んだ朝陽さんに連れられて、そのままオフィスを後にする。まだ混乱している私をタクシーの後部座席に座らせて、マンションへと向かうまで朝陽さんはずっとその手を繋いでいてくれた。 それだけのことでも、心が
last update最終更新日 : 2025-10-23
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心を抉る残酷さに 16

「予定より早く帰ってきて、本当に大丈夫だったんですか?」 マンションに戻ってきて一番心配だったことを朝陽《あさひ》さんに聞いてみたのだが、彼は不機嫌そうな様子で私を見つめてくる。「……は? 大丈夫でもないのに仕事を放り出して帰ってくると思っているのか、俺はそこまで無責任な男じゃない」「そうですよね、そんなの余計な心配でしたよね」 確かにそう言われればそうかもしれない。神楽《かぐら》の御曹司という立場も考えれば、その責任も大きいはずだからいい加減なことは出来ないだろう。 そもそもそれは私が口出すべきことではなかったかもしれない。そう黙って考えていると……「ああ、それにしても……あいつ等をそのままにしてきたが、鈴凪《すずな》は不安を感じてはいないのか?」 逆にそう訊ねられてキョトンとしてしまった。あの時は白澤《しらさわ》さんが「自分に任せて欲しい」と後始末を引き受けてくれたのだが、それに何か問題でもあったのだろうか? そう聞かれた理由が分からなくて、思ったままの返事をしたのだけれど。「白澤さんが任せろと言っていたので、特には。彼は信用出来る人だって、私も思っていますし」「へえ? その信用って……俺よりも、か?」 何故そうなるのだろうか? そもそも白澤さんは朝陽さんが信頼している相手だし、護衛をしてくれる中で私も同じように感じただけなのに。 それじゃあ、私が朝陽さんよりも白澤さんに信頼を寄せているみたいに聞こえるのだけど。「……え? いったい何を言ってるんですか、朝陽さん」「俺のいない間に白澤と随分と打ち解けたようだが、鈴凪は俺の花嫁になるという事を忘れてはいないよな?」 それは忘れていないけれど、どうしてそんな事を聞くの? それじゃあまるで……いいえ、そんな事あるわけないのに期待しそうになる。「え、ええ。でもそれは仮の話……ですよね?」 そう言いながら何故か距離を詰めてくる朝陽さん。 私はつい後ずさってしまい、その手がテーブルに置かれていたテレビのリモコンに触れて。『……ピッ』『特大スクープ! トップリーガ―、真岸 晴仁がまさかの電撃婚約!? そのお相手はなんと、女優の今牧さやか!! 熱愛報道のあった社長令嬢とは、実はすでに破局していた!?』 テレビから流れてきた芸能スクープの音声に、私達二人の動きがピタリと止まった。 ……
last update最終更新日 : 2025-10-24
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求められる復縁に 1

 テレビから流れてくるスクープの内容は、間違いなく鵜野宮《うのみや》さんがトップリーガーと破局したことを伝えている。画面に映っているのは仲良さげにおそろいの指輪を付けた二人で、女性は有名な女優さんだった。 じゃあ少し前に報道された、あの内容はいったい何だったというの?「ねえ? 朝陽《あさひ》さん、これってどういう……?」 もしかしたら私が知らないだけで、朝陽さんは何かを知っているかもしれない。そう思って訊ねてみたが、返事は酷くそっけないもので。「さあな。梨乃佳《りのか》の考えそうな事に想像はつくが、いったいどうするつもりなんだか」「どうするつもりかって、それでいいんですか? 鵜野宮さんはきっと、朝陽さんの事を……」 興味も無さそうに朝陽さんはそう言うが、そんなはずはない。あの日だって、あんなに落ち込んだ姿を私に見せたじゃない。朝陽さんがどれだけ鵜野宮さんを想ってるのか、私にだって分かる程なのに。 それなのにどうして素直にヨリを戻さないのか、私には分からなくて。「関係ない。これから俺たちは結婚式に向けての準備をする、それだけだ」「ですが、朝陽さんは……」 私が何を言っても、朝陽さんは聞く耳を持たないと言った様子で。こんな状況になってもまだ、私との結婚式を挙げる事に拘っている。 何が彼をそうさせているのか。「もう結婚式の招待状だって出し終わっているんだ、アイツが何をしようと……今更だろ?」「それは、そうかもしれもしれませんけど」 朝陽さんを説得する上手い言葉は見つからない。もし見つけたところで、今の彼が素直になってくれる気もしないのだけど。 それでもこのままで良いとは思えなくて、必死に言葉を探そうとするがダメで。「悪いが俺にはまだやることがあるが、疲れただろうから鈴凪《すずな》は少し部屋で休んだ方が良い」「はい、ありがとうございます」 結局、それから朝陽さんは自分の部屋にこもってしまった。仕方なく私も自室のベッドに横になったが、頭がまだ混乱していて。 正解が何かなんて私が決める事ではないけれど、これは何か違う気がする。「……私はどうするべきなんだろう? 本当にこのまま朝陽さんとの結婚式の日を迎えていいの?」 私一人で悩んでも、結局は堂々巡りで良い解決策は見つからない。 ただそうやってベッドで唸り続けていたせいで、鞄に入れたま
last update最終更新日 : 2025-10-25
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求められる復縁に 2

 昼過ぎには自室から出て、何となくキッチン周りの掃除を始めてみたりする。そんな私に気付いた朝陽《あさひ》さんが、心配して声をかけてくれて。「鈴凪《すずな》、もう平気なのか? もっとゆっくり休んでいた方が良いと思うんだが……」「いえ、もう大丈夫です。身体の方は元気ですし、何かやっていた方が気持ちは落ち着きますから」 意外と心配性な朝陽さんに、自分はもう大丈夫だと笑って見せる。 今回の事で精神的なダメージは受けたが、身体には何もされてない。ベッドでいつまでもジッとしていると、逆に考えすぎてしまって落ち込みそうだったし。「鈴凪がそう思うのなら、俺は構わないんだがな。それなら少し、これからの事についての話をしてもいいだろうか?」「はい、私もそう思ってたのでちょうど良かったです」 朝陽さんの言葉に、私は迷わず頷いた。婚約式も終わって、そろそろ次の段階に入るのだろうと心の準備はしていたし……きちんと話し合うべきこともあると思っていたから。 鵜野宮《うのみや》さんのことも、流《ながれ》からのメッセージについても。「じゃあ俺の部屋に来てくれるか? 見せたい資料の類もそっちに置いたままだから」「あ、はい」 まさか朝陽さんの自室で話を聞く事になるとは思っていなくて、少し戸惑ったが素直についていくことにする。変に意識している事を、朝陽さんには気付かれたくなかったから。 彼の部屋の中は以前とほとんど変わりはなく、あの日の事を思い出して何となく気まずい気持ちにもなったのだけど。 そのなかで一つだけ、変わっているところに気が付いた。 ……あの棚にあったはずの写真が無くなっている、この前に見た時は確かにあったはずなのに。いったい、どうして?「ああ、こっちまで来てくれ。こっ地の資料とそれを見て欲しいんだが……」 朝陽さんが机に広げている資料を指差して、私にそのうちの何枚かを見せてくる。海辺のお洒落なホテルに、嬉しそうな笑顔の新郎新婦の姿とそこに書かれた文字。「ええと……KAGURA・ロイヤルホテルでのスペシャルウエディングプラン、これってもしかして?」「……ああ。神楽《かぐら》グループの中でも一番と言われる、このホテルでの挙式を予定している。ここであれば多少の融通は利くし、色々と都合も良いはずだ」 確かに神楽グループがホテルを経営していることくらいは知ってい
last update最終更新日 : 2025-10-26
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求められる復縁に 3

「こ、こんな有名なホテルで挙式なんて……? 本気で言っているんですか、朝陽《あさひ》さん」 朝陽さんが冗談でこんなことを話すとは思えないが、そう確認せずにはいられない。やはり神楽《かぐら》の御曹司と、ごく普通の一般家庭で育った私では感覚が違いすぎて。 そんな私の不安な気持ちに気付いたのか、朝陽さんは真面目な表情で話を続けてくれる。「俺の立場上ある程度は仕方ないと思ってくれ、今後のことも考えて選んでいるんだ。今から変更するのは難しいが、鈴凪《すずな》がどうしても嫌だと言うのならば……」 そうよね。この人は冗談で無理をいう事はあっても、真面目な場面では相手の事を一番に考えてくれるような人だもの。 色々悩んで、これが一番だと判断したのだろうし。それなら、私もしっかりしなければと思って。「いえ、私は出来る限り頑張ります。朝陽さんが考えて決められている事であれば、問題ないと思いますから」 ただ、今は余計な事は話さない方が良さそう。 鵜野宮《うのみや》さんについての話も、そして流《ながれ》の事も出来るだけ自分で対処しなければ。これ以上は朝陽さんに負担をかけたくないもの。「結婚式で着るドレスや装飾品については、婚約式の服を用意したショップでと考えている。それでも構わないか?」「そうですね。私もあの店のスタッフさんならば、安心してお願い出来ます」 あのショップならきっと、私にも似合うようなドレスを提案してくれると思えた。もしかしたら朝陽さんの隣に堂々と立てるんじゃないかって、そんな勇気をくれるスタッフさんだから。「その他の細かい部分については、次の休みにホテルで決められればと思っている。鈴凪も一緒に来てくれれば助かるんだが、どうだろうか?」「それはもちろん大丈夫です、私もその日はついていきますね」 私で役に立つことがあれば、出来るだけ手伝いたい。 それで今までの恩が返せるとは思ってないけれど、何かしたい気持ちが大きくて。 そんな私の言葉に、朝陽さんは柔らかく微笑んで……「ああ、サンキューな」「……はい」 どうすればいいの? こんな優しい笑顔を見せられたら、なおさら胸が苦しくなるのに。他の誰かを想いながら、そんな表情をするなんて……本当に狡いです、朝陽さん。 私はこの気持ちを、彼と離れる時までちゃんと隠し続けられるだろうか? 伝えたくても、
last update最終更新日 : 2025-10-27
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求められる復縁に 4

「――鈴凪《すずな》! どうして返事をくれないんだ、何度もメッセージを送っているのに!」 白澤《しらさわ》さんと一緒に職場から帰っている途中で、聞きなれた声に呼び止められる。まさかと思ったが、振り向くとそこには元カレの流《ながれ》が立っていて。 職場を知っているから待ち伏せされても別におかしくはないのだけど、白澤さんが隣に居るのに堂々と声をかけてくるとは思わなかった。 しかも、それは流の一方的な都合でしかないのに。「何を言ってるの? 私達はもうとっくに別れていて、関係ない筈でしょう」 あんな酷い別れ方をしておいて、何を今さら話すことがあるのだろうか? また鵜野宮《うのみや》さんに私への嫌がらせでも頼まれたのかと、警戒しながら返事をしたのだが。「は!? それはあの男が勝手に鈴凪に言い寄っているからなんだろう、お前は今でも俺の事を愛しているに決まってる!」 いまさら何を言い出すのか? 私が今も流の事を愛しているなんて、どうしたらそんな発想になるのか訳が分からない。 流はあの時、私にどんなことをしたのか忘れたの? それとも何の罪悪感も持たない程、私はこの男に軽く見られていたのか。 「そんなわけないわ、馬鹿な事を言わないで。だいたい、流には鵜野宮さんがいるじゃない?」「何を言ってるんだ、あんな女なんて!! 俺を騙して、お前から引き離した『悪女』じゃないか。俺は全部……あいつに騙されていたんだよ」 あまりの馬鹿馬鹿しさに、もう会話を終わらせてさっさと流から離れたいと思う。あれほど鵜野宮さんを褒めて、私を馬鹿にしていたくせによく言えるわ。 まるで自分が被害者かのように話す流に、私も苛立ちを隠せなくなってくる。「今さらそんなこと関係ない。あの時に鵜野宮さんを選んだのは流だし、今の私には朝陽《あさひ》さんがいるもの」 むしろ自分から望んで彼女の方へと行ったのだから、もう戻ってきて欲しいなんて気持ちがあるわけないでしょう? 私の純粋な愛情を踏みにじったのは、間違いなく流の方なのだから。 それなのに、流は何故かしつこく離れようとする私に付きまとってくる。「間違ってる、鈴凪はあの男の口車にのせられてるんだよ! 目を覚ませよ、お前が愛しているのは俺なんだから!」「……」 眼は覚めている、守里 流という最低の元カレから裏切られた時にしっかりと。自分を大
last update最終更新日 : 2025-10-28
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求められる復縁に 5

「なあ、鈴凪《すずな》。俺達やり直そうぜ、俺はお前じゃなきゃダメなんだって気付いたんだ」 元カレのとんでもない発言に、さすがに唖然としてしまう。どうして今頃になってそんな事を言えるのか、逆になぜ私がそれに応じると思ってるのか全く理解出来ない。 ここまで常識のない人間だったなんて、付き合っている時にどうして自分は気付けなかったんだろうか。 流《ながれ》は黙った私が悩んでいると勘違いしたのか、その手を伸ばして腕を掴もうとしてくる。彼の手を避けようとすると、二人の間に白澤《しらさわ》さんが割って入ってきて。「いい加減にしてもらえませんか? 彼女が嫌がっているのにこれ以上しつこくするのなら、私が相手をして差し上げますよ」 白澤さんは流の手首を掴んで静かにそう話したのだが、見る見るうちに元カレの顔色が悪くなっていく。 ギリギリと音を立てそうなくらいに掴まれた手首が痛いのだろう、意外にも綺麗な顔をして白澤さんは怪力のようだ。「くそっ、またコイツが邪魔してくるのか。鈴凪、俺はお前を諦めるつもりはないからな!」 乱暴に手を振り回して白澤さんから逃れると、流は捨て台詞のような言葉を吐いてどこかへと行ってしまった。 どうやら自分に勝ち目がないと思ったのだろう、私一人だったら諦めなかったはずだから。 とりあえず危機回避が出来た事で、ホッとしていると……「鈴凪さん、大丈夫ですか? しかし、あの男も大概しつこいですね」「そうですね、彼が私から離れるときはあっさりしてたんですが……」 白澤さんは私を心配してくれているが、心の中は複雑で。流への想いはすでに吹っ切れているけれど、何年も真剣に付き合ってきて情のようなものは存在していた。 当時の良かった思い出も、段々悪い印象で塗りつぶされていくようで悲しくなる。そんな気持ちを抱えていた私に、白澤さんらしくない言葉で。「自己中で我儘。そんな自分勝手な男なら、あの女性とお似合いだと思うのですが。きっといつまでも鈴凪さんが自分に合わせてくれると思い込んでいるんでしょう、本当に図々しい」 普段はもっとオブラートに包んだ物言いをするのに、ここまでハッキリとした言い方は珍しい。それくらい白澤さんにとっても、流の言動は許せなかったのかもしれないが。 だけど、もともとは私が好きで付き合っていた相手だし。「私に見る目が無かったんで
last update最終更新日 : 2025-10-29
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