でも今は、そんなことでいちいち落ち込んでいられる状況ではなく。とにかく東雲《しののめ》社長をどうにかしなくてはと思ったが、いつの間にか私を庇うように立っていた朝陽《あさひ》さんに守られていて。 嬉しいけど、やっぱり胸が苦しい。 どうして貴方は、こんな風に私が期待してしまいそうになる事をするんですか? 本気で特別な感情なんて持ってはいけないって分かってるのに、これじゃあ自分が止められなくなるじゃない。 そんな私の葛藤も知らずに、朝陽さんは……「これは、私の自宅のポストにいつの間にか入れてあっただけで。そもそも、こんな事を会社でするようなこの女性が問題なんだろう!」「いつの間に、とは? 昨日の業務終了後に起こったことを、翌日の朝一番で証拠を持って文句を言い来るなんて早すぎるだろう? まあ、俺が帰る前に終わらせるように指示されてたんだろうがな」 『指示されて』朝陽さんの口からその言葉が出たと言うことは、やっぱりそうなんだ。あまりにもタイミングが良すぎるとは思ったけれど、こんな事まで平気でするなんて。 それでも朝陽さんが愛知からここまで戻って来れたのも、この状況を知っていた事も不思議で仕方ない。彼は一体どうやって今の私の現状を把握したのだろうか?「な、何のことです? いくら神楽《かぐら》の御曹司だと言っても、そんな言い掛かりはどうかと!」 東雲社長は簡単に引き下がるつもりはないようで、朝陽さんに対して言いがかりだと文句をつけ始めた。自分が私にしている事は、それと同じ事なのになんて人なんだろう。「ほう? 俺の言葉が言いがかりかどうかは、東雲社長の息子に証明してもらうとしようか」 空いたままの扉から部屋の中に入って来たのは、白澤《しらさわ》さんとまさかの東雲君本人で。私を真っ直ぐ見れないのか、彼は目を逸らして俯いている。 そんな東雲君に驚いた社長が、大きな声で彼を怒鳴り始めてしまった。「――なっ!? 亮太《りょうた》、今日は家から出るなとあれほど言ったのに……!」「仕方ないだろう! やったことを正直に話さないのなら、大学生時代のあれこれを俺の婚約者にばらすって……コイツが脅してきたんだから!」 やはりこの親子二人で計画したことだったようで、私達の存在を忘れたように言い争いを始めてしまう。今回の事を指示したのが誰であれ、すべて最初から仕組まれてい
最終更新日 : 2025-10-20 続きを読む