紗季は背を向け、振り返りもせずにその場を離れた。心が急に軽くなるのを感じた。オフィス内。翔太は、ずっと隅のソファに座って書類を処理していたため、隼人が入ってきた時、彼は全くその存在に気づかなかった。彼は信じられないという表情を浮かべ、隼人を見つめるその瞳には、驚きが満ちていた。「どうして彼女は、桜庭怜のことを全く気にしなくなったのか?いったい、どういう状況だ?」隼人は我に返り、彼を一瞥すると、淡々と言った。「俺も知らん。ここへ来る前に、彼女が誰と会っていたか調べてこい」翔太は仕方ないという表情を浮かべ、静かに言った。「もう彼女を射止めるのはおやめになったらどうだ?あんなふうに恋愛を強要したところで、二人の関係にとって何のプラスにもならない。かえって彼女を遠ざけるだけだ」隼人は彼を見つめ、その眼差しには警告の色が宿っていた。「こっちの事情は俺が判断する。どうすべきかも、俺が考える。今お前にやらせたことを、まずはさっさと調べてこい!」翔太もそれ以上は何も言えず、仕方なく頷くと、背を向けてその場を離れた。彼が去った後、隼人はようやく視線を戻し、立ち上がってオフィスを後にした。彼が家に戻ると、小さな人影が背を向けて、何かをこしらえているのが見えた。隼人は歩み寄り、声をかけた。「医者から言われただろう。療養中はしっかり休んで、動き回るなと。また何をやってるんだ?」その言葉に、陽向は振り返り、彼に満面の笑みを向けた。「隆之おじさんが細胞移植をしてくれたから、今、おじさんの体がすごく心配なんだ。だから、おじさんに手作りのプレゼントを渡したいんだけど、いい?」彼は顔を向け、恐る恐るといった表情を浮かべた。その純粋な瞳には、今、罪悪感が満ちていた。その物分かりの良さに、隼人の心はふと和らいだ。「陽向。俺たちは間違ったことをした。だから、その代償を払わなければならない。俺たちは、お前のママと、お前の叔父さんに申し訳ないことをした。彼らを裏切ったんだ。残りの人生で、償っていこう。いいな?」陽向は頷き、素直に言った。「パパは知らないだろうけど、今、ママに会えて、僕、すごく嬉しいんだ。ママが僕を許してくれなくてもいい。ママが、ちゃんと幸せに暮らしてくれれば、それでいいんだ。今、僕の一番の願いは、ママが
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