藤沢家の長男の妻――藤沢沙織(ふじさわ さおり)がまた調子を崩したとき、私はまた離婚になるのだとわかった。そっと目を閉じて心の中でつぶやく――「これで九回目」藤沢和幸(ふじさわ かずゆき)はこめかみを押さえ、申し訳なさそうに言う。「由依、兄があまりにも突然亡くなって、沙織とお腹の子を残したままだ。俺が放っておけるわけがないんだ。でも安心してくれ。子どもが生まれたら、すぐにまた籍を入れよう。今度こそ、二度と離れたりしないから」私はただ黙っている。だって、このセリフはもう八回も耳にしたんだから。最初の離婚は、和幸の兄が急に亡くなり、沙織が取り乱したのがきっかけだった。当時、彼女は妊娠していて、和幸は彼女を落ち着かせるため、いったん私と離婚し、後でまた夫婦に戻ろうと言い出したのだった。それから九か月の間に、私たちは八度も結婚と離婚を繰り返した。周りからは「八度離縁の名家」なんて揶揄され、自分でもさすがに馬鹿げてると思う。離婚届の受理証明書を受け取ったとき、隣の職員がそっと尋ねてくる。「次はいつ頃、ご再婚の手続きにいらっしゃいますか?」私は淡々と答える。「もう次なんてありません」私と和幸が役所を出ると、外で待ち構えていた和幸の義姉――沙織が、待ちきれない様子で駆け寄ってくる。「離婚届の受理証明書は?見せなさい!まさか、私を騙そうなんて思ってないよね?騙す気なら、川にでも飛び込んで、あなたの兄の血筋を絶ってやるわよ」和幸は困り果てた表情で、私の手から離婚届の受理証明書を取り上げ、彼女に渡す。そして、柔らかい声でなだめてあげる。「由依と本当に離婚したんだ。嘘なんてつかないよ。あなたはもうすぐ出産なんだから、家でゆっくりしてくれないか?」沙織は離婚届の受理証明書を三度も念入りに確かめ、目を細めて笑い、あごをしゃくって挑発的にこちらを見てくる。その笑みは勝ち誇ったものだ。「これならまあ、納得できるわ。これでようやく安心してお産に向かえそうだわ」私も思わず声を立てて笑ってしまう。けれど胸の奥には、どうしようもなく苦いものが広がっている。和幸の兄が亡くなってからというもの、沙織の情緒は不安定そのものだ。今回は、ただ私がうっかり彼女のおかゆをこぼしてしまっただけのことだった。それだけで、家
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