All Chapters of 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん: Chapter 171 - Chapter 180

そう言い残して、雅俊は去っていった。だがその場に残された蒼司は、頭の中で轟音が鳴り響いたように呆然と立ち尽くした。真理はさらに大きく目を見開き、瞬く間に血走った。ありえない……自分たちは聞き間違えたのか？彩乃が……雅俊が去って間もなく、医療チームも会場を離れ、人々はざわめき始めた。「もう行っちゃったのか？どこと提携するのか、一言もなかったな」「まさか、どこも選ばなかった？」「そんなはずない。桜峰市には医療機器の会社が揃ってる。国内なら中村家を除けば、ほとんど全部ここにある。外資を選ぶなら別だが……」ところが医療チームが出て十分ほどすると、一つの情報が流れた。「なに？！鳴海グ

彩乃はソファにもたれかかり、頭が割れるような痛みに顔をゆがめていた。若さゆえの愚かさ、曇った目に盲目な心――今さらになっても、どうしても悔やんでしまう。今日、蒼司の本性を突きつけられ、ただ吐き気がこみ上げてくるばかりだった。「私、先に行きますね、亮介さん」ふらつきを覚えて、彩乃はそう言った。「家に帰るのか？送ろうか」「帰らないです。送らなくていいです」彼女がふらりとバーに入っていくのを見て、尾行していた者が亮介に連絡を入れる。【彼女の様子を見ろ。安全も確保しろ】【承知しました】バーの中。流れていたのはラブソング。若い恋人たちが無鉄砲な日々を過ごし、やがて社会に出ていく姿を歌

「……」亮介は黙り込んだまま、やがて口を開いた。「そんな人やそんな出来事のせいで酔いつぶれるなんて、無駄だ」彩乃は自嘲気味に笑った。「まあ、ちょっと情けないですよね」亮介は彼女を真っ直ぐに見つめた。「無駄なんだ。情けないわけじゃない」「え……情けなくはないのですか？」彩乃は驚く。「大事な人のことで酔うのは、自然なことだ」その言葉に彩乃は何かを察した。「……もしかして、そういう経験があったんですか？」意外にも、彼は迷いなく頷いた。「……ああ」彩乃は一瞬で固まった。――亮介が誰かのために酔いつぶれるなんて。「亮介さんも……あったのですか」声を絞り出すのもやっとだった。兄からも

由紀子が突然、声を荒げた。「ねぇ、私に口出しするなって言いたいの？大輝のときだって、私は黙っていたのよ！その結果がどうなったか？」亮介には、かつて兄がいた。二十歳前後の頃、恋人と口論になった兄・中村大輝（なかむら だいき）は、衝動的に大通りへ飛び出した彼女を止めようとして車にはねられ、即死。体は無残に二つに引き裂かれたのだった。「お母さん、俺、好きな人がいるんだ」その言葉に、由紀子は一瞬固まり、すぐに亮介の隣に腰を下ろす。「誰なの？どんな性格の子？わがままで衝動的なタイプじゃないでしょうね。出自は気にしないけど、性格だけは絶対にわがまま勝手じゃ駄目よ」――わがまま勝手……亮介は煙草

「うちの孫娘が戻ってきたんだから、様子を見に来ただけよ。あなたたちと話すことなんてないわ」祖母の高瀬千代子（たかせ ちよこ）がにこやかに声をかけた。「……」雅俊は黙ったまま、言葉を飲み込んでいた。朝食を終えたあと、祖父母は彩乃をリビングに呼び、腰を落ち着けて話をしていた。由紀子は家政婦と一緒に昼食の用意に取りかかっている。中村家の夫婦も、水野家の祖父母が来ると聞いて、昼前には顔を出す準備を整えていた。「孫娘よ、君のことは少し聞いたぞ」正夫は顔を伏せ、まるで悪だくみでもしているかのように低く言った。「じいちゃんが手を回して、あの男をぶっ潰してやろうか？」彩乃は少し黙り、きっぱりと答えた