七度目の結婚記念日。私はたった一人で食卓に向かい合っていた。スマホがふいに光を放った。ロック画面には、未読のメッセージが二件。一件は夫、遠野圭(とおのけい)から。【今夜は会社で残業だ】と。もう一件は匿名メッセージで、【圭さん、マジでエグいって。奥様、メンタル大丈夫そ?】と、添付されていたのは、男女が熱くキスを交わす写真だった。記念日のために用意したケーキの蝋燭を吹き消し、私は気だるく目を閉じた。【離婚しましょう】そう、彼に送った。彼からの返信はない。いつものことだ。今頃、彼は別の女のベッドの上で【残業】に励んでいるのだろう。私にかまっている暇なんてないはずだ。今日は天気が悪く、小雨が降って底冷えがする。膝がズキズキとひどく痛んだ。印刷屋の店主は離婚協議書を私に渡す時、じろじろと私を見て、思わず口を挟んだ。「ご夫婦のことですから、色々おありでしょうけど......あまり意固地にならないでくださいね」「もう、ずっと前から考えていたことです」私はその白い紙の束を受け取り、愛想笑いを浮かべた。もう、考えすぎるほど考えた。圭のあの秘書は、あの手この手で私を挑発し、私に遠野夫人の座を明け渡せと迫る。このせいで、私はヒステリーを起こし、疑心暗鬼になり、まるで狂ったように品位を失っていた。でも、もう吹っ切れた。この遠野夫人なんて肩書き、もういらない。私は家で彼の帰りを待ち、決着をつけようと思った。圭が帰ってきたのは、深夜二時だった。白いシャツの襟元には、べったりとワインの染みと口紅の跡。おまけに、ワインレッドの長い髪の毛までスーツに絡みついていた。彼は食卓のほとんど手付かずの料理に目をやり、眉をひそめて何かを言う前に、リビングのテーブルに置かれた白黒の書類に目を奪われ、言葉を失った。離婚協議書。最近、神経衰弱気味だった私は、眠りについたばかりのところを圭に無理やり起こされた。「ふざけるな、心。こんなことして、どうするつもりだ?」彼は離婚協議書を手に、疲労を隠しきれない表情で言った。「まさか、離婚をちらつかせて俺を脅すつもりか?俺の世間体も考えろよ!あんな女、ただの遊び相手だと言っただろう!遊び相手なんだ!」私は彼の顔をじっと見つめ、ふと、ひどく見知らぬ人間に思えた。どうして、こんな男を愛
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