眩しい光が目に差し込んだ瞬間、私は思わず息を呑んだ。 ここは……どこ? 真っ白なシーツに包まれたベッド。薔薇の花が飾られた豪奢なスイートルーム。 壁にかけられた大きな鏡には、淡い色のドレス姿の私が映っていた。 婚約の顔合わせの夜、形式的な食事会を終え、休むために用意された部屋――。 ――嘘。 これは、見覚えがある。 いや、嫌というほど思い出したくもない「あの夜」だ。 すべてが転がり落ちるきっかけとなった、運命の始まり。前世、私は「姉の代わり」に政略結婚で一条怜司と結婚することになった。 けれど彼に愛されたことは一度もなく、家族からも利用され、最後に残ったのは彼の冷たい「婚約破棄だ」その言葉だけだった。 絶望の果てに海に身を投げ、そこで私の人生は終わったはずだった。なのに、どうして。「……まさか、私は生まれ変わったの?」呟きは、虚しく天井に吸い込まれていく。 心臓が早鐘のように打ち、手のひらは汗ばむ。 でも、確かに分かる。これは夢じゃない。今度こそ、同じ過ちを繰り返すつもりはない。 彼に愛されるために必死になって、自分をすり減らすなんて二度と。 私は――一条怜司から離れて生きる。そう決意した瞬間、静かにドアが開いた。「……起きていたのか」低く落ち着いた声が響く。 黒のタキシードに身を包んだ男性が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。 鋭い灰色の瞳が私を射抜き、その視線に思わず呼吸を忘れた。前世と同じ夜。 私はこの人を知っている――。 けれど、彼の目はどこか違って見えた。「美玲」 名前を呼ばれただけで、身体が震える。 私は決意を胸に、彼から視線を逸らした。「もう……あなたのそばにいるつもりはありません」そう言い切った私に、彼はゆっくりと歩み寄り、そして――。「許さない」耳元に落とされた囁きは、凍えるほど冷たく聞こえた――
Last Updated : 2025-09-25 Read more