皇太子は、沈蘭(ちん らん)という芸妓のため、宮中の宴で二人もの正室を迎えたいと言い出した。そのような屈辱は受け入れ難く、私は長年自分を想い続けてくれていた、鎮安の封号を持つ侯爵・鎮安侯(ちんあんこう)、蕭清安(しょう せいあん)に嫁いだ。婚礼の後、私たちは互いに敬い合い、仲睦まじく暮らしていた。だが、苦労の末にようやく子を授かった時、彼が私に贈った赤い瑪瑙(めのう)の腕輪が、まさか子を授からないようにするための麝香(じゃこう)でできているなんて、気づいたのだ。さらに、彼が書斎で長年大切にし、結納の品にすると言っていた白玉のかんざしには、あろうことか蘭の花がびっしりと彫り込まれていた。結局、私は、彼が愛する人のために、排除すべき存在に過ぎなかった。長年、情のない夫婦を演じてまで、私を利用し続けた。つまり私は、沈蘭が皇太子妃の座を手に入れるための踏み台にされたというわけだ。これほど愚かだった私でも、ようやく全てを悟った。子を堕ろす薬を一服。そして離縁状を一枚。蕭清安とは、これきり、二度と交わることのない道を歩むのだ。……「お嬢様、この子はやっとのことで授かったもの。本当に諦めることができるのですか?」侍女の墨雨(ぼく う)は目を真っ赤に腫らし、私の手から湯薬の椀をひったくった。「お嬢様、もし旦那様がこのことをお知りになったら、きっとお怒りになります!」私は静かに微笑み、手を伸ばして椀を取り戻すと、ためらうことなく、その赤黒い湯薬をひと息に飲み干した。「あの人が怒るはずないでしょう?むしろ喜ぶはずだわ」この子は、そもそもあの人が望んだ子ではなかったのだから。蕭清安に嫁いで六年。子が産めないことを理由に姑からはいびられ続け、京城の名医をことごとく訪ね歩き、そうしてようやくこの子を授かったのだ。侍女の墨雨でさえ、この子がどれほど得難いものであるかを知っている。ましてや、その全てを経験した私自身が、分からないはずがないだろう。私はやりきれない思いでうつむき、手の中で強く握りしめた腕輪に視線を落とした。これは蕭清安から贈られた結納の品々の中で最も目立たないものの一つに過ぎなかった。しかし、私にとってはなによりも大切な品だった。かつて彼は、この赤い瑪瑙の腕輪を自ら私につけながら、こう囁いたのだ。「満を娶ること
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