Все главы すべての魔力であなたの元に : Глава 11 - Глава 20

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11.魔法使いの後輩

「ジャスミンさん、お久しぶり。」「ポーラさん、お帰りなさいませ。」 カレンが勉強しているあいだ、私は静かに自室で書き物をしていた。 そこへ扉がノックされ、懐かしい声の主が姿を見せる。 ポーラが、旅から戻ってきたのだ。「久しぶりにゆっくり休めたわ、本当にありがとう。」「お役に立てたなら良かったです。」 ポーラは以前よりも少しふっくらとして、表情がだいぶ明るくなっていた。 地元に帰ったことで、リラックスできたなら、私としても少し肩の荷が降りた気分だった。 彼女は私がいない間、ずっとカレンを守ってくれたのだから。「ジャスミンさん、お部屋移ったのね。」「はい、カレン様が夜遅くまで、本を読んでとせがむことが増えまして、ワグナー様のご配慮で、こちらに移していただいたんです。」 今は、カレンの部屋を挟むように私とポーラの部屋があり、向かい側がセオドア様の部屋になっている。「ジャスミンさんがカレン様のお世話をしててくれて助かったわ。 これで私も、交代で休みを取れるようになるもの。」「そうですね。 ポーラさんにはしっかりと休んでほしいです。」「ありがとう。」 ポーラは微笑みながら椅子に腰を下ろした。 窓からの風がカーテンを揺らし、穏やかな午後の光が彼女の横顔を照らす。「久しぶりの地元はいかがでしたか?」「ええ、私には結婚は無理だけど、故郷の風は仲間達を思い出させたわ。」「ポーラさん、結婚を諦めないでください。 これから素敵な人に出会うかもしれませんし。」「カレン様の毒味役である私が、結婚なんてできないし、ましてや子供なんて持てるはずがないわ。」「もしポーラさんに家族ができたら、そのときは私が、毒味役を引き受けます。 いいえ、今すぐでも代わります。」「まさか、若いあなたにこれ以上負担をかけられないわ。」「大丈夫です。 私はカレン様を心からお守りしたいんです。」 ポーラは少し目を細め、静かにうなずいた。「それについては、後々考えて行きましょう。」「分かりました。」 本当は、彼女にこれ以上その役を続けてほしくはない。 だが、私がカレンの母だと明かせない以上、説得の言葉を飲み込むしかなかった。「カレン、ご機嫌よう。」 カレンと廊下を歩いている時、背後から声をかけられ、ジャスミンとカレンは振り返った。「ユーリーさん、こ
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12.ワイン

「一緒にいただきたいものがあって、執事にお願いしましたの。」 ジャスミンは何故か、セオドア様とユーリーが、二人で過ごすと思われる居室に呼び出されていた。 侍女に促され、二人が座るソファから離れた椅子に座らせられる。 二人の間には華やかな蝋燭が灯され明るいが、私はその光の外に置かれた影のようだった。 ユーリーはわざと、身分の差を見せつけ牽制するために、私も部屋に呼んだのだ。 自分はセオドア様の隣にいるべき人物で、私はただの使用人だと見せつけるために。 だとしたら、彼女には今の私の若さが妬ましく映ったのだろうか? 民になった私など、彼にとっては取るに足らない者なのに、女というだけで敵と見なされたらしい。 私の知っていたユーリーは、そんなことをする人ではなかったと思っていたが、立場が変われば見えるものも違う。「ジャスミンはカレンの大切なナニーで、私達の付き合いには関係ない。」 セオドア様は、私がこの場に呼ばれたことに戸惑いを見せるが、ユーリーは優雅に微笑み、彼の言葉を軽やかに受け流す。「でも、セオドア様に口をつけてもらうには、この方の毒味が必要だと伺ったわ。」 二人は私のことを話しているけれど、まるで私の存在などそこにないかのように扱われていた。 前世では、セオドア様は夫、ユーリーは後輩、なのに現世では、私はただの毒味役である使用人。 自分で望んだとはいえ、過酷な運命だと言わざるをえない。 けれど、転生する時にカレンのためなら、すべてを乗り越えると決めた。 だから私は、今の立場を甘んじて受け入れるわ。「じゃあ、早速それを披露してくれるかい?」「ふふ、これなの。」 ユーリーが慎重に袋から取り出したのは、深紅のワインボトルだった。 その瞬間、セオドア様の眉がわずかに動き、私は息を呑む。「わかっていると思うけれど、僕はあれ以来ワインは飲まないことに決めている。」「でもそろそろ、ジュリア様のことは忘れても良い頃じゃなくて?」「いや、ジュリアのことを忘れるなんてあり得ない。 カレンもいるのに。」「もう、セオドア様ったら、真面目ね。 そういうところも素敵だけど。」「悪いが、僕は遠慮する。」「じゃあ、今日は私だけが飲むことにするわ。 そこのあなた、さっさと毒味して。」 ユーリーは侍女にワインを開けさせると、グラスを私の前に置
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13.教会からの提案

 カレンが十歳を迎えたある朝のこと。 邸の食堂に届いた一通の手紙が、静かな朝食の空気を一変させた。 セオドア様は封を切ると、目を通したまましばらく固まっており、ナイフとフォークを置く音さえ響くほど、静まり返っている。 私もカレンも、その険しい表情にただ息をのむしかなかった。 やがて、セオドア様は苦しげに口を開く。「カレンを預かると、教会が言って来ている。」「えっ?」 「魔力があるものは、十歳までに魔法を学びはじめなければならない。 その期限が過ぎていると、教会から指摘されている。」「えっ、パパ、それって、教会に通うっていうこと?」 カレンは思わず椅子から身を乗り出した。「いや、教会に住むということだよ。」「えっ、この邸を出ていかないといけないの。 嫌よ。」  カレンは震える手で私の袖を掴み、必死に目を合わせてくる。 その小さな瞳の奥に、恐れと戸惑いが混じっていた。「ジャスミン、どうしよう。 お父様、それって断ることはできないの?」「私の方でもかけあってみるが、君はジュリアの娘だ。 魔力を持っている以上、学ぶ義務がある。」「そんな、私、本当に魔法なんて使えるの?」「カレン様、幼い頃、ボール遊びをする時に、無意識にボールを操っていたのですが、覚えていませんか?」「えっ、普通そうするでしょ?」「いいえ、私にはできません。 カレン様は自然に魔法を使ってらしたのですよ。」「えっ、そうなの?」 カレンは信じられないという顔で、セオドア様とポーラに視線を向ける。 二人が静かに頷くと、彼女は唇を噛み、俯いた。「カレン様以外は、ボールは手を使って受け取るしかできないのですよ。」「そうなんだ。 知らなかった。」「カレン様にとっては自然なことですので、意識しないと気づかないものです。」「セオドア様、カレン様が納得なさるまで、猶予をいただくことはできませんか?」「多少の延期はできると思うが、ジュリアがいない以上、カレンに魔法を指導する者がここにはいない。 残念だが、私には拒否することはできないんだよ。」 その表情には、言葉にならない悔しさが滲んでいた。 共に暮らす日々の中で、彼がどれほどカレンを愛しているか、私はもう疑っていなかった。 だからこそ、その葛藤が手に取るようにわかる。 カレンは黙ったまま椅子を引き、
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14.告白

 セオドア様の執務室の窓から射し込む陽が、深い木目のデスクをやわらかく照らしていた。 カレンはソファの縁に腰かけ、小さな手をぎゅっと握りしめながら、まっすぐに父を見つめた。「お父様、私、教会で魔法を学んできます。」 その声は、不思議なほど落ち着いていた。 隣で見守るジャスミンは、カレンの決意の気配を感じ取り、静かに背を支える。 デスクの向こう側では、セオドア様がペンを置き、しばし言葉を失っていた。 眉間に寄る皺の奥で、父親としての迷いが残っている。 しかし彼でさえ、この決断を止めることはできなかった。 いつかこんな日が来ることを、心のどこかでわかっていたはずだから。「そうか…。」 低い声が室内に落ちる。「ジャスミンも連れて行くわ。」「ジャスミンも?」「うん、一緒に行ってくれると約束してくれたの。」「ジャスミン、それでいいのか?」「はい、もちろんです。」 私はセオドア様の問いかけに深く頷いた。「セオドア様の毒味役はポーラさんだけになりますけれど、よろしいでしょうか?」「もちろんだ。 カレンが独り立ちするのなら、もう僕に毒味役はいらない。」「でも、セオドア様、それで大丈夫なのですか?」「ああ、問題ない。 本当はポーラも行かせてやりたいところだが、侍女を何人も伴えば、教会の目も厳しくなる。 ジャスミンだけがいいだろう。 だが、教会はここでの暮らしのように安全ではないかもしれない。 もし、何かあればすぐに帰って来なさい。 そこからは僕が対処するから。」 彼の声には、いつもの冷静さの奥に、娘を案じる柔らかさがあった。「はい、わかりました。」「カレン、部屋に戻りなさい。 僕はジャスミンに話がある。」「はい、お父様。」 カレンが部屋を出ていくと、扉が静かに閉まり、残されたのは二人だけ。 午後の光が少し傾き、執務室に淡い影が伸びていく。 セオドア様はしばらく沈黙したまま、机を見つめていたが、やがて顔を上げた。「ジャスミン、カレンを頼む。」「はい、セオドア様。」「一つだけ君に話しておきたいことがある。」「はい。」「君はジュリアなんだね。」「…。」 一瞬、空気が止まった。 セオドア様は苦笑のような微笑を浮かべ、視線を窓の外に向ける。「返事はいらないよ。 最初は僕もそんなことがあるのかと疑ったけれど
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15.もう一人気づいている人

 部屋の窓辺から差し込む午後の光が淡く光る頃、ジャスミンは静かに服を畳みながら、旅支度を整えていた。 背後から控えめなノックの音がして、ドアが少し開く。 そこから顔をのぞかせたのは、ポーラだった。「カレン様について行かれるのですか、ジュリア様?」「うん。 えっ?」 思わず手を止める。 ポーラに前世での名前を呼ばれて、何と答えたらいいかわからない。「ジュリア様、教会に行ってしまわれる前に、再び会えてどれほど嬉しかったか、お伝えしていいですか?」「…うん。」「ジュリア様!」 声を絞り出すように返すと、ポーラは一歩近づき、次の瞬間、私の前でくずおれた。「本当に…申し訳ありませんでした。」 床に突っ伏して肩を震わせながら、彼女は涙をこぼした。 その涙は絨毯に落ち、すぐに小さな染みをつくる。「どうしてあなたが謝るの? ポーラのせいじゃないわ。」「でも、あの時…ジュリア様にお出ししたワインは、私が用意したものです。」「そうだけど、ポーラが毒を盛ったわけではないでしょう?」「はい、けれど、あの後ずっと胸が苦しくて、ジュリア様に申し訳なく思っていました。」「ポーラのせいではないのだから、気にやむのはもうやめて。 あの時のあなたの驚いた顔や、必死に私を心配するようすから、私はあなたを疑っていなかった。」 私は静かに彼女の肩に手を置いた。「口にはできなかったけれど、カレンを私の代わりに世話してほしいと伝えたかった。 その後、ちゃんと世話してくれていたわね、ありがとう。 とても嬉しかったわ。」「ジュリア様!」 ポーラの嗚咽が大きくなり、彼女は顔を両手で覆った。「それを聞けてどれほど救われたか…。 あの後、セオドア様は悪魔のような怒りを私に向けられました。 私がジュリア様を裏切るなど、絶対にあり得ないのに。 だから、必死で自分は悪くない、一生カレン様の毒味をすると誓ったんです。 カレン様をお守りすることがせめてものつぐないだと思いました。」「再び出会った時、そんな予感がしたけれど、こんなにもあなたを苦しめてしまっていたのね。 ごめんなさい。」「ジュリア様~、でも、ジュリア様は再会した時に、すぐに私を気遣ってくれました。 それがどれほど嬉しかったか。 これまで私は、カレン様を守るために命を捧げて来たけれど、毒を盛った
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16.私のジュリア様

 ポーラが生まれたのは王国の果てで、人の往来もまばらな風の強い辺境の村だった。 気がついた時には孤児で、そこで生きるために盗みを働くような毎日を送っていた。 腹が減って、寒くて、泣くよりも先に手が伸び、それが罪だと知るより前に、食べ物を得ていた。 小さな頃は同じような仲間もいて、盗んだ物を分け合っていたけれど、怪我や病気で一人また一人と数が減っていく。 十代になった頃に、隣国ではもっと良い暮らしができるとの噂が立ち、王国の結界から出て行く者もいた。 その後、誰一人戻って来ないし、私達も行ってみようと、数人しかいなくなった仲間達で、夜明け前に旅立った。 けれど、ものの数刻で魔獣に襲われ、血と叫びと土の匂いが辺りを満たしていた。 慌てて逃げる道すがら、仲間達は次々と倒れ、泣きながら仲間の名を呼んだけれど、応える声はもうなかった。 体中が痛く、一歩も前に進めない。 傷だらけで冷たい泥の感触の中で、私も目を閉じる。 王国にいた時は貧乏だったけれど、盗みを働く仲間達の笑い声がいつも響いてたな。 結局、あの頃が一番幸せだったなんて、私の人生は、なんて呆気ないのだろう。 そう思った時、ついに意識が闇に沈んだ。 けれど、しばらくして目覚めたのはベッドの中だった。 柔らかな布団に包まれたベッドから、陽の光が薄いカーテンを透かして、部屋の中を金色に染めているのが見える。 生まれて初めてベッドで目覚めた朝だった。 硬い土の上や、茂みの中で横たわるのが、いつもの寝方だったから、戸惑いを隠せない。「目覚めたのね? 痛いところはある?」 まぶたを開けると、黒髪の少女が心配そうにこちらを覗き込んでいて、聞き慣れない声なのに、そのやわらかな響きが、すっと私の警戒心を解いていく。 彼女はこんな田舎では見たこともないような綺麗な白いドレスを着て、肌は光を宿したように輝いていた。「ぐっ、がぁ。」 喉が渇ききり、痛くてうまく声が出ない。「落ち着いて、お水飲める?」 その少女は水差しを私の口に当てがい、慎重に水を口に流し込んだ。 それをごくんと飲み込むと、その少女は微笑み、「上手ね。」と笑った。 それは今まで飲んできた雨水や泥水とは比べものにならないほど澄んでいて、涙が出そうなほど美味しかった。 その後お水を飲もうと手を動かすが、痛みで顔をしかめ、なか
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17.教会

「さあ、こちらがあなた方のお部屋です。」 カウエン神父様が扉を開けると、古びた木の床と白く塗られた壁の部屋が現れた。 教会に隣接する寮の一室で、これでも大きな方の部屋である。 中には、簡素なベッドが二つ並び、壁際には細い机と椅子が一つ、そして粗末なタンスが置かれている。「ありがとうございます。」 ジャスミンが深く頭を下げると、カウエン神父様は優しく頷いた。「明日から早速、魔法使いの方々に合流していただきます。 今日はゆっくり休んでください。 夕食はこちらにお持ちします。」「はい、ありがとうございます。」 案内してくれたカウエン神父様にお礼を言うと、彼は頷き、部屋を後にした。 久しぶりに会ったカウエン神父様は、お元気そうで、安堵した。 もちろん今はジャスミンなので、これ以上の話はできないけれど。「ジャスミン、もしかしてここを二人で使うと言うこと?」 カレンは目を丸くして、部屋をぐるりと見回す。 私は前世で経験しているから、こうなるとわかっていたけれど、彼女にとってはこんなに小さな部屋は初めてなのだ。「そうですよ。 このくらいの広さが、ここでは普通なのですよ。」「そうなんだ…。 ジャスミンと一緒だから、良いけれど。」 カレンは苦笑しながら、ためしにベッドに腰を下ろし、その硬さに顔をしかめている。 そして、夕暮れに配られた私達の夕食は、硬めのパンと冷えたスープ、サラダで決して味は悪くないけれど、冷たくなっていた。「毎日、これを食べないといけないの? 邸の料理とまではいかないけれど、もう少しマシだと思っていたわ。」「そうですね。 こんなに冷えた料理なのは不思議ですが、文句は言えませんね。 ありがたくいただきましょう。」 いつものように毒味をして、カレンの前に料理を並べる。「カレン様は外の世界をご存じないですからね。 ブライトン侯爵家は貴族の中でもとても大きく、裕福な家なのですよ。」「そうなの?。 知らなかったわ。」「カレン様は邸から出ることもほとんどなかったですからね。」「うん、だから、馬車から見た街並みの広さや、人の多さにびっくりしたわ。」「魔法を習得されたら、もっと自由に外へ出かけられますよ。 転移魔法を覚えれば、危険な時も一瞬で逃げれますから。」「転移魔法なんて、私もできるようになるのかしら?
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18.魔法の練習

  教会に来てから、すでに数日が経っていた。 今朝も練習場では、ジャスミンが見守る中、カレンが魔法の練習に励んでいる。「ほら、ボールに紐がついていて、それを引っ張るように動かすの。」「はい。」  ユーリーの指導を受けながら、カレンは両手を差し出し、床に転がったボールを手の上に浮かせようとしているけれど、ボールはぴくりとも動かない。 「もう、どう言ったらわかるのかしら? こんなにできない人も稀だわ。」「すみません。」 ユーリーの声は、最初のうちは冷静だったが、次第に苛立ちを隠せなくなっていき、カレンは一層縮こまり、もうユーリーの顔も見れないでいる。「なんで無意識だとできるのに、意識的にできないの? イメージすれば良いだけじゃない。」「はい。」「もう今日はいいわ。 明日にしましょう。」  吐き捨てるように言い残し、ユーリーはヒールの音を響かせて部屋を出て行ってしまった。 練習場に残されたのは、張りつめた静寂と、遠巻きに見つめる数人の魔法使い達だけだった。 カレンはしょんぼりと肩を落とし、私の方へ歩いてきた。「ジャスミン、部屋に戻りましょ。」「はい。」 カレンは私を伴い部屋に着くと、ベッドに突っ伏して泣き出した。「どうして言われた通りにやってるのに、できるようにならないの? 私やっぱり素質がないのよ。」「カレン様、そんなことはありません。 ただコツを掴めていないだけです。」「でも、どうしたらいいのかわからない。 もう帰りたい。」 そう言うと、なおも泣き続け、私は胸が締めつけられる。 魔法の習得には個人差がある。 けれど、他の子より遅いと、本人にとっては大きな苦痛なのだ。 カレンは小さな頃から、無意識にしか魔法を使ったことはなく、親から幾度も教えてもらえる他の魔法使いよりも、出来が悪いのは仕方がない。 ユーリーだって、カレンの事情を知っているのだから、もう少し辛抱強く、心穏やかに指導してくれれば良いものを、彼女の冷たい態度も、カレンを追い詰める。 一言言ってやりたいけれど、ただのナニーである私が何かを言っても、ユーリーが考えを改めることはないだろう。 むしろ、より一層カレンにキツくあたりそうで、何もできない。「カレン様、残念ながら魔法使いは、王国を守る結界を張れるようになるまで、練習を終えれません。」「そ
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19.セオドア様の秘密

 カレンはジャスミンが見守る中、順調に魔法の練習を続けていた。 カレンが魔法を意識的に使えるようになると、ユーリーの苛立ちも収まり、カレンは驚くほどの速さで、魔法を習得していった。 そんなある日、私とカレンはカウエン神父様に呼ばれ、部屋に入ると重い空気が漂っている。 いつも穏やかで落ち着いた彼が、その日はどこか落ち着かない様子で、机の上に置いた手をわずかに震わせているのを見て、私達は何かただならぬことが起こったのだと直感した。「カレン様、この話は内密なのですが、心を落ち着けて聞いてください。 あなたのお父様が倒れられました。」「えっ、お父様が?」 神父様は深く息を吐き、静かに続けた。「教会の裏に、目立たないような馬車を用意しておりますので、すぐにその馬車でおたちください。 これ以上のことは、私の口から申し上げられません。 良いですか、今すぐにです。」「…そんな。」 カレンの頬がさっと青ざめ、唇が震えた。「カレン様、すぐに参りましょう。」「うん。」「神父様、ありがとうございます。 このお礼はいつか落ち着いたら、必ずさせてください。」 私は彼女の肩を支えながら、神父様に深く頭を下げた。「いえ、私はあなたに出会えて良かったと、お伝えしたかった。 だから、お気になさらずに。」 神父様のその言葉は、どこか別れを思わせ、胸の奥に重く残った。 もしかしたらだけど、カウエン神父様もまた、私の存在に気づいていたの? 本当はゆっくり確かめたいけれど、今はその時じゃない。 不安そうに俯くばかりで戸惑っているカレンの手を握り、私は神父様にもう一度頭を下げると、急いで部屋を後にした。 最低限の荷をまとめて、神父様のいう馬車へと駆け込んだ。 セオドア様が倒れるなんて、事故なの、病気なの? 彼に何かあるなんて、今まで想像もつかなかった。 ブライトン邸までまだ距離があると思ったのに、馬車が停まった先は、教会からすぐそばの森の奥にひっそりと佇む別邸のような邸宅の前だった。 もしかして、私達は嵌められた? カウエン神父様を信じ、馬車に乗り込んだのが、間違いだったとしたら? 彼は信じれると思っていた。 それが間違いだったの?「おかしいです。 ここはブライトン邸じゃない。 カレン様、私の後ろに隠れて。」 カレンを体の後ろに庇い、外から
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20.ターベル公爵

「夜更けに失礼するよ。」 静寂を破る声に振り向くと、ワグナーの案内で、ターベル公爵が部屋に入ってきた。 カレンは疲れ果て隣室で眠っており、ジャスミンはセオドア様の枕元に座り、依然目を覚さない彼を見つめていた。「ターベル公爵様、どうぞおかけになってください。」 私が椅子を勧めると、ターベル公爵はゆっくりと頷き、セオドア様へとに視線を向けた。「セオドアは意識が戻らないままかい?」「はい。」 そう答える私の声には、張り詰めた疲労が滲んでいた。「そうか、君達は依然、毒の脅威から離れられないでいるんだね。」「えっ?」 思わず顔を上げると、ターベル公爵は薄く笑った。「セオドアから聞いている。」 その瞳の奥には、すべてを見通している者の静かな光が宿っていた。「そうでしたか…。」「セオドアを恨んではいけないよ。 理由を聞かなければ、いくら彼の頼みでも、教会の内部まで手を回したりできないからね。 私も命は惜しいんだ。」「お世話をおかけして、申し訳ありません。」 「それはいい。 ところで、毒を盛りそうな人物に心当たりは?」「いいえ、私にもわからなくて。」 ターベル公爵は小さくため息をついた。「そうか。 いずれにしても、セオドアが目覚めるまでここに隠れていた方がいい。 そして、なるべく料理されていない物を食べるんだ。」「はい、分かりました。 ところで、ターベル公爵様は全部お知りになってなお、セオドア様が毒味することをお止めにならなかったのですか? ターベル公爵様にとっても、セオドア様は大事な存在ですよね?」「止めたさ、だがセオドアは、決して意見を曲げなかった。 君を失ってから、彼はずっと後悔していたんだ。」「えっ、そんなはずは…。」 私の心が静かに波立ち、聞き慣れぬ言葉に胸の奥がざわつく。「セオドアの想いが君に伝わっていないというのは、本当なんだね。 彼は君をずっと大切に思っていたよ。」 ターベル公爵は私の目をとらえ、真剣な眼差しで伝えようとする。「それは理解しましたが、彼の愛は魔法使いのジュリアに向けたもので、今のジャスミンに向けたものではありません。」「ふうん、彼が君と結婚したわけを知ってるかい?」「それは教会から結婚を押し付けられたから、仕方なくですよね?」「違うよ。」 ターベル公爵は首を振り、穏やかな
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