「ジャスミンさん、お久しぶり。」「ポーラさん、お帰りなさいませ。」 カレンが勉強しているあいだ、私は静かに自室で書き物をしていた。 そこへ扉がノックされ、懐かしい声の主が姿を見せる。 ポーラが、旅から戻ってきたのだ。「久しぶりにゆっくり休めたわ、本当にありがとう。」「お役に立てたなら良かったです。」 ポーラは以前よりも少しふっくらとして、表情がだいぶ明るくなっていた。 地元に帰ったことで、リラックスできたなら、私としても少し肩の荷が降りた気分だった。 彼女は私がいない間、ずっとカレンを守ってくれたのだから。「ジャスミンさん、お部屋移ったのね。」「はい、カレン様が夜遅くまで、本を読んでとせがむことが増えまして、ワグナー様のご配慮で、こちらに移していただいたんです。」 今は、カレンの部屋を挟むように私とポーラの部屋があり、向かい側がセオドア様の部屋になっている。「ジャスミンさんがカレン様のお世話をしててくれて助かったわ。 これで私も、交代で休みを取れるようになるもの。」「そうですね。 ポーラさんにはしっかりと休んでほしいです。」「ありがとう。」 ポーラは微笑みながら椅子に腰を下ろした。 窓からの風がカーテンを揺らし、穏やかな午後の光が彼女の横顔を照らす。「久しぶりの地元はいかがでしたか?」「ええ、私には結婚は無理だけど、故郷の風は仲間達を思い出させたわ。」「ポーラさん、結婚を諦めないでください。 これから素敵な人に出会うかもしれませんし。」「カレン様の毒味役である私が、結婚なんてできないし、ましてや子供なんて持てるはずがないわ。」「もしポーラさんに家族ができたら、そのときは私が、毒味役を引き受けます。 いいえ、今すぐでも代わります。」「まさか、若いあなたにこれ以上負担をかけられないわ。」「大丈夫です。 私はカレン様を心からお守りしたいんです。」 ポーラは少し目を細め、静かにうなずいた。「それについては、後々考えて行きましょう。」「分かりました。」 本当は、彼女にこれ以上その役を続けてほしくはない。 だが、私がカレンの母だと明かせない以上、説得の言葉を飲み込むしかなかった。「カレン、ご機嫌よう。」 カレンと廊下を歩いている時、背後から声をかけられ、ジャスミンとカレンは振り返った。「ユーリーさん、こ
Последнее обновление : 2025-10-16 Читайте больше