婚約者が彼の義妹のせいで二十三回目の結婚式ドタキャンをしたその日、さすがに私も決めた。――もう、終わりにしよう。木戸真弓(きど まゆみ)に別れを報告した直後、スマホが鳴った。「どうしたんだ?大丈夫か?待ってて。今すぐ行って、あいつをぶん殴ってやるからな」返事をする暇もなく、書斎から正木池羽(まさき いけば)が出てきた。慌てて「大丈夫」とだけ言って通話を切る。池羽は眉をひそめた。「今、誰と話してた?」「……たぶん、詐欺の電話だったみたい」しつこく確認したが、画面に映る見覚えのない数字を見て、彼はようやく安心した顔をした。――愛されてはいない。でも、支配の仕方だけは誰よりも上手。池羽の表情がふっと和らぐ。私の隣に腰を下ろすと、指先で髪をくるくる弄び始めた。彼はいつもそう。七年一緒にいて、後ろめたいことがあるときほど手癖が増える。「今日は悪かったよ、また置いてっちゃって。でも榎がさ、また自殺未遂したんだ。今度は病院から電話があって、心臓止まるかと思った。医者が言うには、あと数分遅ければ死んでたって」――これが二十三回目の謝罪で、和泉榎(いずみ えのき)の二十三回目の「自殺未遂」。けれど私、偶然あの子の病室を見たことがある。点滴も刺さってない、元気に動画撮ってた。私は無意識に彼の手を避け、髪をそっと払いのけた。「……大丈夫」大丈夫。どうせ、もうすぐあなたとは終わるんだから。彼はまた顔を近づけ、私の鼻を指でつついた。何か言いかけたその時――ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。彼は立ち上がってドアを開け、ケーキの箱を持って戻ってきた。「やっぱり気にしてると思ってさ。君の好きなイチゴのケーキ、買ってきたんだ。ほら、ちゃんと覚えてるだろ?」嬉しそうに笑いながら蓋を開ける。でも。――イチゴケーキが好きなのは、いつだって榎の方。一度目のドタキャンのあと、埋め合わせにディナーに連れて行かれた私は、誤ってエビを食べて救急搬送された。二度目のときは、鼻炎持ちの私に犬を買ってきた。結果、くしゃみ地獄。……彼の「埋め合わせ」は、いつも私のツボを正確に外す。「ほら、食べなよ」フォークを手にした彼が差し出そうとした瞬間、スマホから動画通話の着信音。榎
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