冬の空気の底、都心の夜景が寒々しく煌めく。 そのマンションの屋上からの眺めは、見る人が見れば感動するのだろう。彼は高層ビル街の足元に繁華街のネオンが広がるその景色を、シャンパンタワーの様だと思った。ただ本物のシャンパンタワーなど見た事はない。最近聞いた忌々しいワードを、つい連想してしまっただけだ。 (アイツが通ってたホストクラブなら見れるんだろうな……) 溢れたシャンパンの金や銀の飛沫がキラキラと跳ね回るのを見て、キャアキャアと浮かれていたに違いない…いや、今日は週末の金曜日、あのネオンのどこかで今夜もアイツは現在進行形で…彼は目をギュッと瞑り左右に激しく首を振る。そしてひとつ大きく吐いた息が、白く拡散した。 「クソッ…見てろっ……」 彼がそう憎々しげに吐き捨てて、ゆっくりと前に一歩踏み出した時── 「あ、ちょっといいですかあ?」 不意に背後から掛けられた声に、鉄柵を掴もうとしていた彼は一瞬ビクリと背筋を伸ばし、慌てて振り向く。 そこに女が─いや、中学生くらいの少女が立っていた。彼にスマートフォンを向けている。 「な…」驚き過ぎると声は咄嗟には出ないものだ。彼が固まっている隙に、少女はカシャッと写真を撮った。 「何だよ君っ…失礼だろっ…!」 彼が情けなく掠れた声で怒鳴ると、少女はニカッと笑った。 少し赤みがかったショートカットで整った顔立ちをしている。黒いハイネックのニットとピンクのミニスカート、黒いダッフルコートを羽織って、スラッとした素足に黒いショートブーツ…細身だがプロポーションもいい。可愛いと言えばかなり可愛いけれど、笑った顔は悪戯小僧の様だし、この状況ではどんなに可愛くても彼と同じく腹を立てるだろう。 「勝手に撮ってっ…」 「画像送ってもいいですかあ?イヤならこのまま見せるけど〜」 人の話を聞いていないのか、少女はニコニコと続ける。彼が言葉が続かなくなって口をパクパクさせていると、スルスルと目の前に寄ってきた。そして右手に持ったピンクのスマホを、彼の顔の前に突き出して画面を見せる。 「えっ…?」 それは、ザラザラとした白黒の写真だった。 スーツ姿の男とワンピースを着た女が写っている。 二人は真っ暗闇の中にポツンと浮かぶ、細いロープの上に向かい合って立っている。男は両手で
Last Updated : 2025-10-31 Read more