結婚式の最中、夫の幼なじみが騒ぎを起こし、「二人を同じベッドに寝かせないで」と言い出した。それから四年、夫は一度も私に触れなかった。私がプライドを捨て、媚薬まで飲んで彼に近づいた夜も、彼は冷たい目で私をベッドから突き飛ばした。「俺は潔癖なんだ。お前には触れられない。自分を抑えてくれ」当時の私は、それが彼の性格だと思い込んでいた。けれど、彼の三十歳の誕生日の夜――書斎の扉の隙間から見た光景は、私の幻想をすべて壊した。閉じた目、動く喉仏、そして、手に握られていたのは幼なじみの写真。その瞬間、私は悟った。彼が愛していたのは、最初から私じゃなかった。……「兄さん、私、離婚することにした」兄はしばらく黙っていたあと、ゆっくり口を開いた。「……馬鹿だな。前にも言っただろ、東雲湊(しののめ みなと)はお前には合わないって」私は口角を引きつらせ、苦笑いを浮かべる。「うん……わかってたのに、見えないふりしてた」実を言えば、湊の秘密を見たのは初めてじゃない。最初は、彼を追いかけ始めた頃のことだ。その日、彼は酔いつぶれて、バーの店員が私に連絡してきた。迎えに行ったとき、彼の口からかすかに漏れた名前——香坂梨沙(こうさか りさ)。あのときは聞き間違いだと思って、深く考えなかった。二度目は、結婚式の夜。彼は同じベッドに入るのを拒み、一晩中書斎にこもっていた。翌朝、私は引き出しの中で梨沙の写真を見つけた。その瞬間、疑いという種が心の中で芽を出した。そして今日、またあの押し殺した声を聞いてしまった。――「梨沙、愛してる……」その愛が満ち溢れた言葉は、まるで鋭い針のように、ぼろぼろになった心の奥に突き刺さった。笑える話だ。私はずっと、彼が「清く冷たい性格」の人間だと思っていた。けれど違った。彼の欲望は、最初から私なんかに向いてなかった。彼が私と結婚したのは、きっと梨沙への「禁断の想い」から逃げるためだったんだ。なぜなら、梨沙は、彼の亡くなった友人——宮原澄人(みやはら すみと)の恋人だった。数年前、澄人は湊を庇って事故で亡くなり、息を引き取る前に「梨沙のことを頼む」と言い残した。けれど湊は、いつの間にか梨沙に惹かれていた。彼は罪悪感には耐えられず、自分が澄
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