私は夫に、ある有名な歌手のコンサートに連れてほしいと、九十九回頼んだ。百回目で、やっと彼は前列のチケットを二枚買ってくれた。丁寧に着飾った私は、チケットを受け取れなかったせいで、入口で警備員に止められた。終演まで、彼は一度も電話に出てくれなかった。その後、夫と彼の愛人がコンサートであの歌手に「晴れた空」をリクエストしたというニュースは、すぐに検索ランキングを駆け上がった。「晴れた空」の歌詞には、雨なんて一言も出てこない。なぜなら、雨降りなのは、私の世界だけだから。……朝霧冬真(あさぎりとうま)と須崎雪緒(すざきゆきお)がトレンド入りしたニュースが、彼のSNSにシェアされている。しかも、謝罪の口調で。【この子ったら、わがままを言ってコンサートに行きたいと騒いで……まさかニュースになるとは思わなかった。皆さん、ご心配ありがとう。驚かせてしまって申し訳なかった】結婚して五年にしても、私は一度も彼のSNSに載ったことがない。なのに今、その「特別扱い」は、あっさりと別の女に与えられた。私は九十九回頼んでも、彼はコンサートに付き合ってくれなかった。ほかの人なら、一度で願いが叶った。私は心が半ば麻痺したままSNSを閉じ、道路脇で車を待ち続けた。コンサートの夜、街全体が渋滞している。私はひとり、入口で長いこと立ち尽くし、結局タクシーもつかまらなかった。スマホが鳴った。冬真からの電話だ。スマホ越しの声は冷たい。「まだ帰らないのか?」私は黙ったままだ。いつもなら思わず甘えてしまうところだ。だが今夜は、彼に何を言えばいいのかわからない。冬真は少し苛立ったように言った。「林瑠璃(はやしるり)!喋れなくなったのか?」「会場の入口にいる」冬真は黙り込み、ようやく思い出したようだ。彼が、私と一緒にコンサートへ行くと約束していたことを。ただ、まさか本当にチケットを買っていたとは。そしてそれを、雪緒とのデートに使ったとは。「駐車場で待ってろ。迎えに行く」私は冬真の言葉をこれ以上信じたくないし、もう車を呼ぶ気力もない。ちょうどそのとき、豪雨が降り出した。街中が停電した。私はずぶ濡れになりながら駐車場で雨宿りし、真っ暗闇の中を、スマホの光だけで持ちこたえた。スマホの電池は二時間しか
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