All Chapters of 過ぎ去った時間は戻れない: Chapter 21

21 Chapters

第21話

今回は、カフェの位置情報だった。裕司は慌ててタクシーを拾い、スマホの画面を運転手に見せた。「この場所まで、至急お願いします」車が走り出すと同時に、裕司の胸は焦りで焼けつくようだ。心臓が喉元まで飛び出しそうな鼓動。晴美から送られた位置情報がどんどん近づいてくる。そのとき、スマホが再び鳴り響いた。見知らぬ番号からの着信。裕司は抑えきれない期待を込めて電話に出て言い出した。「晴美、もうすぐ着くよ……」だが、受話口の向こうはしばし沈黙。やがて、少し気まずそうな知らない声が聞こえてきた。「細川社長、こんにちは。私どもオークションハウスに、出所不明のダイヤの指輪が届きまして。以前の購入者登録があなたのお名前になっており、紛失物ではないかと思いまして、ご連絡いたしました……」電話の向こうの相手は、晴美ではない。裕司は眉をひそめ、苛立ちを隠せないままオークションハウスから送られてきた画像を開いた。画面に映ったのは、大粒のダイヤの指輪。まばゆい光を放っている。その瞬間、裕司の心臓が一拍遅れた――それは晴美の結婚指輪だ。まさか……長年、一度も外したことのないその指輪まで売ってしまったなんて。だが、もうすぐ会える――そう思うだけで、胸の奥に再び希望の灯がともった。もし彼女が許してくれるなら、これからいくらでも新しい指輪を贈れる。二人の未来は、まだこれからなのだから。裕司がカフェの扉を押し開けると、中はがらんとして誰の姿もいない。そのとき、少し離れたカウンターの方から、聞き覚えのある声が響いた。「やっぱり来たのね」画面の中の晴美が、マイクに向かって遠隔で話している。裕司の呼吸が一瞬止まった。ぼんやりとした視界の中で、画面の中の彼女が、記憶の中でよく笑っていた少女の姿と重なった。しかし、晴美の次の言葉はあまりにも残酷だ。「裕司……たしかに、あの頃の私はあなたを深く愛していたかもしれない。でも、すれ違った時間はもう二度と戻らない。私たちがやり直すことは絶対にありえない。知ってるの?愛の反対は、憎しみなんかじゃない。無関心なのよ。今の私にとって、あなたは愛する人でも憎む人でもない……ただの他人に過ぎないの」晴美は少し間を置き、さらに強い口調で続けた。「ここまで来た以上、
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