父から、幼馴染である如月兄弟のどちらかを婚約者に選ぶように言われたとき、私は迷わず如月遥人(きさらぎ はると)を選んだ。十三年間、ずっと彼に恋焦がれていたからだ。しかし、結婚式当日、彼の義理の妹がホテルの屋上から身を投げた。彼女は血で書かれた遺書を残していた。【お二人がいつまでも幸せでありますように】と。その時初めて、私は二人が長年、禁断の愛を育んでいたことを知った。結婚式の最中、遥人は正気を失い、「縁を切り捨てる」と宣言した。私は一人、無力にその場に取り残された。それからの人生、彼は義妹の位牌の前で贖罪の日々を送った。私は彼に欺かれたことを恨み、この結婚に固執し、互いを苦しめ合った。そしてある日、私たちは拉致事件に巻き込まれた。私を救うために、彼は犯人と共に爆発に巻き込まれた。死の間際、彼は私を見つめて言った。「琴音、今まで隠していたのは俺が悪かった。だが、俺と妹、二人の命だ。これで借りは返せただろう?来世では、もう俺を選ぶな」再び目を開けると、私は父に婚約者を選ぶように言われたあの日――運命の日に戻っていた。今回、私は迷うことなく、彼の兄である如月湊(きさらぎ みなと)を選んだ。……「琴音、お前がずっと遥人くんを好きなのは知っている。だが、父さんとしては湊くんを勧めたいんだ。彼は如月遥人くんより少し堅物かもしれないが、誠実で頼りになる。何より、お前を大切にしてくれると確信している」頭が重く痛む。ゆっくりと顔を上げると、父である西園寺宗一郎(さいおんじ そういちろう)が目の前に座り、心配そうに私を説得していた。周囲を見渡して、私、西園寺琴音(さいおんじ ことね)は自分が過去に戻ったのだと悟った。すべてが起こる前の、あの日に。前世で、遥人が死んだ後、私も犯人の仲間に追い詰められ、海に身を投げた。今でも、肺が海水で満たされ、呼吸ができなくなる窒息感が心にまとわりついている。私は震える心臓を落ち着かせるように深く息を吸い込んだ。そうしなければ、自分が生き返ったことを信じられなかったからだ。私の顔色が優れないのを見て、父が慌てて尋ねた。「琴音、どうしたんだ?気分が悪いのか?おい、誰か!主治医の西川先生を呼べ!」父の切迫した様子を見て、私は急いで彼を安心させた。「お父さん、大丈夫よ。少し寒気
Read more