小暮夕夏は、Macbookの画面を見つめながら、自分の手が震えていることに気づいた。Adobe Illustratorで開いているのは、三日後に挙げる予定の結婚式のウェルカムボードのデザインだった。彼女が三週間かけて作り上げた、淡いピンクとアイボリーを基調とした優しいデザイン。中央には、彼女と慎一郎の名前が、彼女が選んだ繊細なセリフ体で配置されている。 しかし今、その画面はぼやけて見えた。視界を涙が覆っていた。 三十二歳の誕生日を迎えたばかりの夕夏は、この五年間、望月慎一郎というひとりの男性のために生きてきた。いや、正確には「生きてきた」ではなく「捧げてきた」と言うべきかもしれない。 都内の中堅デザイン会社でグラフィックデザイナーとして働いていた夕夏は、クライアントとの打ち合わせで慎一郎と出会った。当時、IT関連のスタートアップを立ち上げたばかりの慎一郎は、自社のブランディングを依頼してきた。三十四歳で、野心的で、夢を語る目が輝いていた。「君のデザインには温かみがある。でも同時に、強さもある。まさに僕が求めていたものなんだ」 最初の打ち合わせで、慎一郎はそう言った。夕夏の心は、その言葉で完全に捕らえられた。 それから五年。夕夏は慎一郎のビジネスを支えるため、週末も惜しまず彼のプロジェクトに協力した。会社の仕事が終われば、夜遅くまで慎一郎の資料作成を手伝った。彼が資金繰りに困れば、自分の貯金を躊躇なく差し出した。 そして今、結婚式の三日前。 夕夏は、スマートフォンの画面に映る一枚の写真を見つめていた。それは、彼女の親友――桜井由香里が送ってきたものだった。 写真には、慎一郎と由香里がホテルのラウンジで、親密に寄り添っている姿が写っていた。しかし、写真以上に夕夏を打ちのめしたのは、添えられたメッセージだった。「夕夏、ごめん。どうしても言わなきゃいけないと思った。私、妊娠してるの。慎一郎さんの子供を」 夕夏の世界が、音を立てて崩れ落ちた。 由香里は、夕夏が大学時代から十年以上付き合ってきた親友だった。就職活動も一緒に乗り越え、恋愛の相談も互いにしてきた。夕夏が慎一郎と付き合い始めた時も、一番に喜んでくれたのは由香里だった。 いや、違う。あれは喜びではなく、獲物を見つけた時の笑みだったのだろうか。 夕夏は、震える指でスマートフォンを操作し、慎
Terakhir Diperbarui : 2025-12-02 Baca selengkapnya