私と桐島蓮(きりしま れん)は幼馴染で、結婚して八年、息子が一人いる。彼は骨の髄まで私を愛してくれていると思っていた。彼の初恋の人が帰国するまでは。松本薇奈(まつもと みな)が帰国したというSNSの投稿を見て、ようやくここ最近、蓮が頻繁に約束を破る理由が分かった。私、松本琴音(まつもと ことね)は一人、ダイニングテーブルの横に立ち、四時間かけて丁寧に作り上げた料理を見つめていた。自分自身が滑稽に思えた。今日は私と蓮の結婚八周年記念日だ。私はずっと楽しみにしていて、部屋を温かく飾り付け、自ら料理の腕を振るい、高校時代の制服まで着て、蓮と一緒に昔を懐かしもうと思っていた。しかし、そのすべては薇奈の帰国を知らせる投稿を見た瞬間に粉々になった。写真の中の蓮と息子は、薇奈を囲んで心からの笑顔を見せていた。もし私が蓮の八年来の妻でなく、帝王切開で桐島湊(きりしま みなと)を産んだ母親でなければ、彼らの雰囲気はとても美しいものに見えたかもしれない。服を着替え、私はその投稿の位置情報が示す場所へとタクシーを走らせた。そこは蓮がよく友人たちと集まる会員制クラブであり、彼と薇奈が愛を誓い合った場所でもあった。社交界の人々は、私と蓮の様子を見て、お互いを尊重し合う仲睦まじい夫婦だと思っていたし、今日まで私もそう信じていた。私は大人しく、感情を表に出すのが苦手な性格だ。幼い頃から父に疎まれて育ったせいか、内向的でいつも不安を抱えていた。でも蓮は私を理解してくれていると思っていた。幼馴染のよしみで、私が情熱的な付き合い方を好まないことを知っているのだと。今思えば、私はずっと自分を麻痺させていただけだったのかもしれない。蓮が情熱的な恋愛を嫌いなわけがない。ただ、相手が私であり、薇奈ではなかったというだけのことだ。……高校三年生の時、薇奈が芸術コースの転校生としてやってきた日、色白で華奢な「芸術科の美人」という名は瞬く間に全校に広まった。毎日数え切れないほどの生徒が、彼女を一目見ようと教室の前に押し寄せた。最初、蓮はそれを鼻で笑い、私の髪をいじりながら言ったものだ。「琴音、見る目のない連中の言うことなんて気にするな。俺の目には、お前が一番綺麗に映ってる」私は恥ずかしがって彼の手を払い、赤くなった顔を参考書に埋めたが、あの時のとき
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