母は私を眠らせ、その間に私のキャッシュカードを勝手に使った。そのくせ、あとになって冷たい顔で私を責め立てる。「たかが二、三百万円でしょ?ほんと、根に持つ性格だよね。弟がバイクを買うの。誕生日プレゼントだと思えばいいでしょ」私は素直にうなずいた。母は一瞬、目を見開く。普段はいちばん言うことを聞かない私が、今日は妙に大人しい。母は知らない。私は脳腫瘍を患っていて、記憶が少しずつ失われていることを。彼女のあからさまな偏愛も。喉に引っかかり続けていた悔しさや苦さも。そして――このお金が、本来は手術を受けて命をつなぐためのものだったことすら。私が何も言わずにうなずいたのを見て、母は嬉しそうに抱きしめてきた。「やっと分かったのね。また昔のこと持ち出して、大騒ぎするかと思ったわ」昔?正直、どんなだったか、もうほとんど覚えていない。この空っぽになったカードみたいに、覚えているのは、私が皿洗いをして、少しずつ貯めたお金だということだけ。でも、何のために使うはずだったのかは、思い出せない。まあ、いい。お金なんて。弟や母より大事なものじゃない。抱き返そうとした瞬間、母はもう腕を離していた。「安心しなさい。お母さん、弟だけ贔屓してるわけじゃないから。これは急ぎだっただけ。ちゃんと埋め合わせするわ」母はそう言い残し、足早に出ていく。背中を見送りながら、胸の奥が少しだけ空いた。――お母さん。補償なんていらない。ただ、もう少し一緒にいてほしかった。自分が、あとどれくらい生きられるのか分からないから。睡眠薬の副作用か、頭はまだぼんやりしている。刺激されたのか、頭の中の腫瘍まで疼きだす。私はベッドの上で体を丸め、そのまま意識を手放した。夢の中で。完全に消える前の曖昧な記憶が、儚い花のように、ふっと浮かび上がる。……五歳のとき。私は右目を失った。あの頃、弟と同じ幼稚園に通っていた。帰りの時間、先生に言われて、小さなリュックを背負い、門の前で大人しく母を待っていた。迎えに来た母は、私たち一人ずつに、りんご飴をくれた。弟が生まれた後、いつも誰かがこっそり私に言うの。「あなたのママ、新しい子ができたから、もうあなたはいらないんだよ」って。そんなはずない。だって、私にも弟
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