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第3話

Author: クマちゃん
入れるわけにはいかなかった。

けれど、木の扉は今にも壊れそうで、次の瞬間には裂けそうな音を立てていた。

私は部屋の隅に身を縮め、唇を強く噛みしめた。

やがて、荒っぽい男たちが扉を蹴破り、カーテンの裏に隠れていた私を、乱暴に引きずり出した。

「おい!親父はどこだ!さっさと金返せ!じゃなきゃ、お前が代わりに身体で払え!」

殺されるんじゃないかと思うほど、彼らの目は血走っていた。

震えながら、私は正直に答えた。

「……どこにいるか、分かりません」

男たちは家中をめちゃくちゃに壊し、金目の物を好き勝手に漁った。

その合間に、こんな踏み倒しの娘なんて、ろくな死に方しない、と罵った。

でも、私は何も悪くない。

どうして、みんな私をいじめるの。

全員が去って、ようやく声を上げて泣けた。

ケーキは床に落とされ、何度も踏みつけられて、見るも無惨な姿になっていた。

きっと、これが運命なんだ。

母の愛も、私は手に入らなかった。

母が送ってくれたケーキさえ、手に入らなかった。

私は這い寄り、汚れたまま掴み上げ、構わず口に押し込んだ。

今年のケーキは、まったく甘くなかった。

母に少し余裕ができてから、月に一度、会いに来るようになった。

父に虐待された痕を見て、母は泣き崩れた。

煙草の火傷。棒で打たれた跡。熱湯をかけられた傷。

誰よりも苦しそうに泣いていた。

「美月、全部お母さんのせい……何もできなくて、ごめんね」

私は彼女の胸に顔を埋め、いつになったら一緒に暮らせるのかと聞いた。

母は、「もうすぐよ。もう少しだけ待って」

そう言うだけだった。

その「もう少し」は、五年も続いた。

弟が病気でお金がかかる。弟の進学で手が離せない。

母には、いつも理由があった。

期待と失望の間を行き来させられ、私は何度も、全身が擦り切れるほど転び続けた。

やがて、分かってしまった。

本気でやりたいことがある人は、先延ばしになんてしないはずだ。

つまり、私はそれほど大事じゃなかった。

しばらくして、借金まみれになった父は、川に飛び込んで自殺した。

私に残った保護者は、母だけ。

裁判所は、再び私を母の元へと戻した。

怯えながら家に戻ると、ずっと迎えに来ると言っていた母は、露骨に苛立った顔をした。

「浩平はね、家に知らない人がいると、耐えられないの。またすぐ騒ぎ出すわ」

言い終えた瞬間、不味いと思ったのか、慌てて言い繕った。

本当なら、傷つくべきだった。

でも、心はもう、何度も切り刻まれて、何も感じなくなっていた。

分かっている。母は、私を愛していた。

ただ、その愛は、弟の前では、簡単に消えてしまう。

だから、私は距離を取ることにした。

中学も、高校も、寮生活を選んだ。

設備は劣悪だった。

冬になると、決まってお湯が止まってしまう。

真っ赤にかじかんだ手で、自分より重たい洗濯物を、たらいで洗っていた。

しもやけは、治っては裂け、裂けては治り、布に張りついて、剥がすたびに、胸を刺すような痛みが走った。

母は、それを可哀想だと言った。

帰っておいで、とも。

でも、誰よりも分かっていた。

あそこは、母と弟の家だ。

母の「心配」も、弟の利益に触れない限りのもの。

一度でも、弟の利益に触れたら――

私は、母を失ってしまう。

過去の記憶が、走馬灯のように流れ、そして、完全に消えた。

母は、私が根に持つと言っていた。

もしかしたら、神様がそれを聞き届けて、脳腫瘍という形で、嫌な記憶を奪ってくれたのかもしれない。

聞き分けのいい娘に戻れば、母は喜ぶはずだ。

夢から覚めたとき、枕は涙でびっしょり濡れていた。

まぶたが腫れて、痛い。

でも、なぜ泣いたのか、どうしても思い出せない。

少しでも考えようとすると、頭が割れるように痛む。

寝室を出ると、母が大きな皿いっぱいのチェリーを洗ってくれた。

「美月、弟のバイク代、出させちゃって悪いと思ってね。

すぐスーパー行って、輸入のチェリー買ってきたの。いちばん大きくて、真っ赤なの選んだわ。損させてないでしょ」

千二百円のチェリーで、二百数十万円のバイク。

それでも、私はおかしいと思わなかった。

二粒口に入れる。確かに、甘い。

「お母さん、今日、私の誕生日なの。ケーキ屋さんで、一緒にケーキ作らない?」

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