僕は数学が嫌いではなかった。心理学を学びたかったので高校では文系を選択したが、数学も物理も化学も得意科目だった。だからというわけでもないが、履修単位数にまだ余裕があったので数学を選択科目で選んでいた。線形数学という種類の学問らしいが、講師は高齢の男性だった。 授業が始まり、話を聞いていたが最初から何を説明しているのかわからない。おかしい。予備校に通っていなかったが、学校の授業だけで微分は理解できていたので、僕の数学の能力は低いわけではないと思うんだけど。上の空で聞いていたわけではない。最初からある程度集中して聞いていたはずだ。けれど何を言っているのか理解できない。なんだろう。授業を聞くレベルに達していない感じがする。小学一年生が高校数学の授業を受けているような。 講師が想定しているこのくらいのことは理解できているだろう、という前提の上で授業が始まってしまっている。うん、これはだめだな。と感じたが、それでも理解しようと努めた。無理だったけれど。 今日は四コマ目で授業は終わりなのでサークルが始まるまで、まだ二時間くらい余裕がある。四コマ目も松本と同じ授業を受けていたので、流れで部室へ行くことになった。 サークル棟二階の真ん中あたりにある部室へ向かう。中学生のときは、部活に入っていたが部室はなかった。高校では部活自体に入っていなかったので、自分が所属する部室に入るのは初めてだ。「お疲れ様でーす」 松本は慣れた感じで部室に入る。「失礼します。ええと、この前見学させていただいた渡辺です。演劇の経験はないですけど、入部したいと思います。よろしくおねがいします」 僕が挨拶すると、中にいた数人の部員が「お〜!」と歓声をあげ、拍手が沸き起こった。注目されて恥ずかしい。拍手されることも最後がいつだったのか覚えていない。「まあまあそんなとこにいないで座って座って!」 十二畳くらいあるフローリングの部室の真ん中には大きなテーブルがあり、椅子が八脚置かれていてまばらに部員が座っていた。真ん中の椅子をひかれたので大人しく座る。
Última actualización : 2026-01-03 Leer más