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第二十話

 開始時間が近づき、僕もサイドスポットの後ろにスタンバイする。椅子は用意されているが、座った状態から立ち上がるときに音が鳴るので、本番が始まったら椅子には座らない。使うタイミングが近づくまでしゃがんで待機する。最後の客入れ曲が流れ、客席の電気を消す。これも僕の仕事になっていた。僕が一つボタンを押すたびに客席は暗くなり、客席の電灯がすべて消えると調光卓にいる旦那さんが舞台上の照明が徐々に落としていく。客入れ曲の音量はそれに合わせて徐々に上がっていく。周囲が完全に暗闇になると同時に音響がカットアウトし、舞台上のサスが灯る。ゲネが始まった。 サイドスポットの出番は一時間くらいあとなので、しゃがんで待機する。衣装や制作、大道具小道具の部員たちはゲネ中の仕事はないので客席に座っている。本番では多目的ホールの外にある受付と場内の案内係に分かれる予定だ。脚本演出のシュン先輩は音響操作も担当していたので、音響卓に座っている。ガジンは音響助手になったのでその隣に座っている。 いつも稽古を見ていると、細かくストップして演出から助言が入るので、通しで見ることはほとんどなかった。だから、なにかミスが起きても止まらずに見ることができて新鮮だった。といっても、ミスらしいミスは誰もしていない。そして、あらためて通してみるとおもしろい作品だとわかった。脚本だけでも面白かったが、演出家の演出プランにより音響と照明と舞台装置と衣装と役者の演技が合わさると、別の作品を見ているようだった。 サイドスポットが使用されるシーンが始まる。僕は立ち上がる。足はしびれていない。しびれないように細かく動いていた。暗転して「兄が死んだのは、」と続いていくセリフの「は」のタイミングでスポットライトをつける。スイッチを入れるだけなので簡単だ。スイッチの下に蓄光テープも貼っている。それでもタイミングを間違えると役者に動揺を与えるので責任は重大だ。絶対にミスしないように緊張する。何度も練習したので、どのくらいの力を入れたらスイッチを押せるのか、どのくらいの力までならスイッチが動かないのかすでに体で覚えている。照明が消えると同時に曲が入る。「兄が死んだのは、お前のせいだ!」 ミスなく自分の仕事を終えることができた。あとはもう操作するこ
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第三章 公演 第二十一話

 翌日。金曜日なので、いつもどおり授業があるが妙にそわそわして集中できなかった。今日の授業は四コマ目で終わるので、本番開始まで少し余裕がある。昼になり、なんとなく部室で昼食をとることにする。生協で弁当を買ってサークル棟へ向かう。部室にはけっこう部員がいた。「おはようございます」 始めのうちは自分が受け入れられているのか自信がなく気後れして入りにくかったが、部室に入るのももう慣れた。平日は午後六時から午後九時半まで、授業の隙間や昼もこうして部室にいたので、なんというか家族よりも一緒にいる時間が長い気がする。「おっはよー!」 元気な声で橋本さんが挨拶を返してくれる。他の部員たちも口々に挨拶してくれる。そういうなんでもないことがなんだか嬉しい。世間では何でもないことかもしれないが、僕にとっては貴重だった。「来たな、ナベ」 ガジンはカップラーメンを食べている。部室には十人くらいいてちょっと手狭に感じる。「なんか授業中もそわそわしちゃってさ」 テーブルがあいてないのでプラスチック製のビールケースに座る。どこから持ってきたのかわからないが、演劇研究会の部室にはビールケースがやたらとたくさんある。舞台で使うのだろうか。「わかる」 ガジンはラーメンをすする。「ガジンくん、今日ずっと部室か多目的ホールにいるでしょ」 そうツッコむのは主役の一人の久美子先輩だ。前田先輩は部員たちから久美子と呼ばれている。「そわそわしすぎて授業どころじゃないんですよ」 「あー、危ない。ガジンくん留年しそう」 久美子先輩はニヤニヤ笑っている。「もう浪人してんですから留年は勘弁してほしいですね」 「えっ!?ガジン、浪人してたの!?」 初耳だった。同い年だと思っていた。「うん、俺二十歳」 「うそ!?成人もしてたんだ」 珍しく大声を出してしまったがこれも初耳だ。自由に生きてるとは思っていたが、意外だった。「そうそう、俺もう酒飲めるよ」 「うっそー!?
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第二十二話

「ちょっと多目的ホール行ってきます」 そう言い残して廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。「ナベ〜、ちょっと待って」 橋本さんだった。「どうしたの?」 「私も行く」 「そう。橋本さんは今日の授業、受けてた?」 橋本さんはみんなから裕子と呼ばれていたが、僕は名前呼びが気恥ずかしいので橋本さんと呼んでいる。「ねえ、ナベも裕子って呼んでよ」 橋本さんに上目遣いで見つめられ、目が泳ぐ。「えぁ、あー……裕子、ちゃん」 体温が上がる。顔も赤くなっているかもしれない。「やだ。ちょっとドキドキする」 橋本さんも照れていた。「そうだね……いや、なんか本番前の舞台を見ておきたくてさ。とくに用事があるわけでもないんだけど」 空気に耐えられず話題を変えて早口でしゃべる。「わかる。私も見たい」 「あ、多目的ホール開いてるかな」 階段を上って三階についた。「今日本番だし、誰かいるんじゃない?」 橋本……裕子ちゃんの言う通り、ドアが開いた。金槌の音がする。佐々木さんが舞台装置の補修をしているみたいだ。『おはようございます』 佐々木さんの他にも、多目的ホールには主役三人のうちの二人、ブラザーさんと伊藤哲也先輩がいた。伊藤先輩は金八と呼ばれている。たぶん名前がてつやだからだろう。今回の芝居の中でも金八のモノマネをしていて、けっこう似ていた。「佐々木さん、なんか手伝うことあります?」 「おーナベくん、いいところに来た。ちょっとこれ押さえててくれる?橋本さんも暇なら足ちょっと踏んでて」 佐々木先輩は舞台装置の壁と壁の継ぎ目を目立たなくしようとしているところだった。壁の裏から押さえていると、金槌の衝撃がけっこう響いてくる。橋本さんは壁に取り付けられた足の枠組みの中にしゃがんで入り、ちょこんと座って体重を乗せている。おしりをつけない体育座りのような、ちょうどスズメが電線にとまっている様子に似ている。僕は左腕で壁と壁の継ぎ目を押
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第二十三話

 僕は三コマ目と四コマ目をサボって佐々木さんの手伝いをしながら多目的ホールで過ごした。時間が経つに連れ、どんどん部員が集まってきた。四コマ目が始まる時間になると役者はほぼ全員あつまったので、シュンさんが昨日のダメ出しを始めた。ダメ出しとは言っても、いつものようにここを直してほしい、というようなものではなくて褒めることが多かった。本番前だから役者たちの気分を上げるためなのか、本当に完成度が高くなったのか。素人の僕にはよくわからないけれど、昨日のゲネを見ていておもしろかったので、本当に言うことがないのかもしれない。 五コマ目が始まる時間になると、裏方のスタッフも含めてほぼ全員が多目的ホールに集まっていた。柔軟運動、ストップモーション、発声練習、筋トレといつもの稽古前のメニューをこなす。開場まであとだいたい一時間半だ。役者陣は思い思いに自主練を始めている。音響、照明スタッフも操作練習をしている。ふいに照明が変わったり、突然曲がかかったりして、そういう雰囲気が本番前の緊張感と高揚感を増している気がした。 僕は制作を手伝って観客の受付台を準備した。制作の方にはあまり関わっていなかったので知らなかったが、厚紙に公演名と時間・場所・料金などが印刷されたチケットを販売していたらしい。チケットの回収箱と、当日の観客用に現金入れ、アンケート回収箱が用意されている。 演劇を観に行ったことがほとんどないので知らなかったが、お客さんに配る公演のパンフレットにはアンケート用紙を入れるのが普通なんだそうだ。芝居を観てその場で感想を書きたいお客さんもいるし、こちらもお客さんの反応を知りたいからだ。パンフレットには台本導入部のあらすじやスタッフと役者からの言葉が載せられている。部室には過去の公演で回収したアンケート用紙が保管されている。 チラシもたくさん刷られていて、学内にも貼られているので歩いているとよくチラシが目についていた。知り合いの写真家にポスター撮影を依頼したらしく、モノクロで主役三人を撮影したセンスのいい写真だった。 配りきれなかったそのチラシの余りを多目的ホールの両開きのドア全面に貼り付けていく。チケットの料金は千円だった。よくわからないが学生演劇の値段はこのくらいが適当なのだろうか。
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第二十四話

 開場まであと十分になった。全員で輪になって座る。脚本演出のシュン先輩が話し始める。「えー。だれも怪我や病気にもならず、無事公演の日を迎えることができました」 そこで爆笑が起こる。「シュンさん、俺俺」 右腕にギプスをつけた高橋先輩がツッコむ。前は違うあだ名だったらしいが、僕が入学して間もない頃に骨折したらしく、今は骨折と呼ばれている。ひどいあだ名だ。本当は出番の少ない骨折さんが音響操作をする予定だったらしいが、骨折したためシュンさんが音響操作をすることになったらしい。骨折さんは僕が今回サイドスポットを当てる先輩だ。「誰も怪我せず!みんなよく俺についてきてくれました。ゲネ見たけど、みんなおもしろい。俺の予想をこえてくれてありがとう。もうすぐ開場だからこのへんでやめにして。円陣!」 全員が集まって手を重ねる。多すぎて近づきにくいので僕はしゃがんで手を重ねる。「いくぞー!!」 『おー!!』 全員で拍手をする。「はい、じゃあ最後トイレ忘れないように」 何人かトイレに向かう。僕はサイドスポットで待機する。「ちょっとみんな、もうお客さん並んでるよ〜」 トイレから帰ってきた山崎先輩はちょっと嬉しそうだ。山崎先輩は部員からコロと呼ばれている。なぜそう呼ばれているのかは知らない。「それじゃ、発声とかやめて舞台袖に待機して!」 舞台監督の山口さんの一声で役者陣が舞台袖へ消えていく。「戻ってきてない人いない?いたら教えて。……いないね?それじゃ、ちょっと早いけど開場します。客入れ曲準備してください。開場早めるって受付に伝えてきます」 山口さんは外へ出てすぐに戻ってくる。「では、開場します!」 客入れ曲のイントロが流れ始め、山口さんがドアを開放する。すでに受付を終えていたお客さんが入ってきた。「いらっしゃいませ〜。お好きな席へお座りください」 A席B席S席など、座席指定はなく全て自由席だ。完売はしていないらしいので、それで大丈夫なのだろう。僕もいらっしゃいませ
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第二十五話

「ごめんな、みんな」 舞台上にブラザーさんが立っている。一人たたずんでいるブラザーさんはやがて顔を上げ、目をつむる。ブラザーさんの姿を切り取っていたサスの光が薄くなると同時にバックライトが照らされ、ブラザーさんの姿は影になって光の中に消えた。 場面は切り替わり、久美子さんと金八さんがバーでお酒を飲む演技をしている。そこへオカマバーのママとしてブラザーさんが現れる。爆発に巻き込まれた後のようなアフロヘアのカツラをかぶっている。顔の整ったブラザーさんのオカマ姿に会場から笑いが漏れる。これは三人が学生時代に演劇をしているシーンだ。 演劇サークルに所属していた三人は卒業を迎え、それぞれ別の道へ進む。ブラザーさんは父の家業を継ぐために中小企業で働き始め、金八さんはサラリーマンになり、久美子さんは精神科医になった。 数年後、金八さんからブラザーさんに電話がかかってくる。「劇団始めませんか」 金八さんがブラザーさんを勧誘している。「なんだよいきなり」「劇団、はじめませんか!」「お前、会社に勤めてんだろ。そんな暇あるのか?」「会社辞めた」「は?」「ムカついたから辞めてやったんだよ!だからさ、いま俺すげー暇なわけ」「おまえ、どうやって生活してくんだよ」「貯金あるから数年は大丈夫だ」「演劇で稼ぐなんて厳しいだろ」「俺さ、お前がいればがんばれる気がするんだよ。一緒にやらないか?」「俺だって仕事してんだよ」「どーせ大した仕事じゃねーだろー」「俺の実家だぞ!おまえ、勧誘する気あんのか!」「お?てことは、勧誘される気あるんだ?」「……そうは言ってねえよ」「そっか。まあ考えといてよ」 このあとブラザーさんは家業を辞め、金八さんと劇団を旗揚げする。劇団員の募集をすると部長やコロさん、田中さんたちが集まってくる。メンバーが集まり稽古を始める。ギャグシーンが続き、会場が沸く。実際にお客さんの反応が見られると嬉しくなった。そして劇団は初公演を迎え、ブラザー
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第二十六話

 自殺する直前、ブラザーさんは精神科医役の久美子さんと電話をする。「芝浦くん!小山くんが必死に探してたわよ?一年も連絡とれないなんて」  芝浦はブラザーさん、小山は金八さんの役名だ。 「ああ、あのときは本当に悪いことしちゃったな。演劇どころじゃなくなっちゃって」 「なにがあったの?」 「いや、いろいろあったんだけど、また今度話すよ。それよりもさ、学生時代、楽しかったよな」 「そうね、私と芝浦くんと小山くんで一緒にお芝居して。私もね、小山くんから劇団の旗揚げ手伝ってくれないかって誘われたのよ」 「そうなんだ、あいつそんなこと一言も言わなかったぞ」 「断ったからね」 「簡単に医者はやめられないよな」 「芝浦くんだって、簡単にやめたわけじゃないんでしょう?」 「……どうだったかな。逃げたかったのかな、家から」 「本当に大丈夫?」 「大丈夫大丈夫!たいしたことないんだ。それより笹田はすごいよな、精神科医になっちゃうなんてさ」  笹田は久美子さんの役名だ。 「そんなことないわよ。でも、悩みがあるなら聞くわよ?」 「……ああ、うん。今度たのむよ。今日はちょっと、これからまだ仕事があってさ」 「もう夜じゃない。夜勤の仕事?」 「そうなんだ、ずっと忙しくてさ」 「無理しないで休みなさいよ」 「大丈夫。……あ」 「ねえ芝浦くん、今度の日曜ひま?久しぶりに飲まない?」 「……ああ、うん。そうだな。久しぶりに飲もうか」 「ごめん、さっきなに言いかけたの?」 「いや、大したことじゃないよ。また日曜日な。店決めたら連絡するよ。それじゃまた」 「うん、またね」  この電話の直後にブラザーさんは自殺し、その一ヶ月後に金八さんのもとにブラザーさんの弟を演じる骨折さんから電話がかかってくる。
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第二十七話

 骨折さんは借金を背負ったブラザーさんと連絡を取り合っていたが、ブラザーさんは大丈夫だとしか言わず、それ以上確認することはしなかった。そこへ突然の訃報が届いた。 金八さんの誘いに乗ってブラザーさんが家業を辞めたことにより、すでに経営が傾いていたブラザーさんの会社は倒産への道を突き進んでいった。骨折さんは家業に携わらず会社勤めをしていたが、ブラザーさんの自殺を受けて故郷へ戻ってきていた。 骨折さんは遺品整理をする中で兄が演劇をするために所属していた劇団を調べ、劇団の代表であり大学生時代の親友である金八さんへ連絡をしたのだった。「兄が死んだのは、お前のせいだ!」 骨折さんにサイドスポットを当てる。「なんですかいきなり。兄って……」 金八さんがサスの光で切り取られる。「僕は芝浦カズマの弟です」 「……俺のせいって、どういうことですか」 「あなたが兄を誘って演劇の道に引き戻さなければ家業を辞めることもなかった」 「でもそれは」 「たしかに兄は自分の意志で辞めた」 「なら」 「でも!あなたが誘いさえしなければ、兄は、父の店は、こんなことにはならなかった!」 「それは」 「お前さえいなければよかったんだ!」 電話が切れる。サイドスポットが消えて骨折さんの姿も消える。残された金八さんがその場でうずくまる。  金八さんは自分で旗揚げした劇団に顔を出さなくなり、劇団員たちの不満が高まる。骨折さんとブラザーさんの実家は、借金返済のために人手に渡ることになった。 夜逃げして行方不明の父に代わり骨折さんは家の片付けをする。そこで、ブラザーさんが関わりの深かった人たちへ向けた手紙を発見する。自殺する前に書いていた遺書だった。 ブラザーさんの姿がサスの光で浮かび上がる。「弘行(骨折さんの役名だ)、悪かったな。兄ちゃん、だめだったよ。もっとがんばれるかなって思ってたんだけどさ。いろいろ考えるのがもう、限界なんだ。弱い兄ちゃんで、ごめんな。父さんも俺も逃げちゃって、お前には迷惑かける。お前も無理するなよ
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第二十八話

 骨折さんは弁護士に相談し、相続放棄した。そして、金八さんのもとを訪れた。「小山さん、電話ではいきなり失礼なことを言ってしまって、申し訳ありませんでした」「いやでも、俺が誘ったのが原因になったっていうのは、そのとおりで……」「いえ、違うんです。これ読んでください」 骨折さんは手紙を取り出す。「これは?」「兄の遺書です」 金八さんは手紙を読む。読み終わったのを確認し、骨折さんがさらに続ける。「僕は倒産した会社の後始末をする兄を心配して連絡を取っていましたが、兄の言葉を鵜呑みにしてきちんと向き合っていませんでした。やっかいなことを背負いたくないという気持ちもあったんだと思います。たぶん兄はそれを察していたんでしょう。僕がもっと真剣に兄と話していればこんなことにならなかった。……僕は、兄の自殺をあなたのせいにしてしまいたかったんです」「いえ、誰も悪くなんかないですよ」「……ありがとうございます。それで、とても厚かましいお願いなんですが、僕をあなたの劇団に入れていただけないでしょうか」「それはありがたいですけど、どうして?」「兄が熱中していたものがなんなのか、知りたいんです。いまさら遅いかもしれませんけど」 金八さんは骨折さんとともに劇団に戻る。残された劇団員は金八さんに不満をぶつけるが、骨折さんが事情を説明し、和解することができた。新たなメンバーを加えた劇団は活動を再開し、今度は公演を成功させることができた。 登場人物たちはそれぞれの未来を進み出し、幕が下りる。
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第二十九話

 舞台は終幕し、カーテンコールが行われた。盛大な拍手が続く。鳴り止まないのではないか、という錯覚を覚えるような拍手を受けるのは初めての経験だった。僕がこの舞台で果たした役割はほんの少しだが、誇らしい気持ちになった。もしカーテンコールの場に立っていたらどんな気分なんだろう、と興味が湧く。一回くらいなら役者をやってみてもいいかもしれない。 客出し曲がかかり始め、僕は多目的ホールのライトをつける。お客さんたちはすぐに帰る人もいれば、一生懸命アンケートを書いてくれる人もいる。高揚した気分で「ありがとうございました!」とお客さんたちにお礼を述べる。三十分ほどでお客さんはいなくなった。 時刻は午後九時を過ぎている。明日は、午後一時半からと午後六時半からの二公演、日曜日は午後一時半からと午後四時半からの二公演だ。今日は解散となり、地下鉄までの道を演劇研究会のメンバーとともに歩く。自転車やバスで通っている学生もいるが、大半の学生は大学まで十分かからないところにある地下鉄を利用している。近くにJRは通っていない。「演劇って、おもしろいな」 僕は思ったままの感情を素直にはき出す。「だろ!?そうなんだよ!みんな、こんなおもしろいことを知らないなんて、人生損してると思うよ」 隣を歩くガジンは嬉しそうだ。「うん、そのとおりだな」  土日の公演も大盛況、といってよかった。最終日はスタッフ用の座席を客席に回しても座席が足りず、二時間の公演を立ち見するお客さんもいた。当日の飛び込み客が予想以上に多かった。口コミで噂でも広がったのだろうか。 全五公演、たいしたトラブルもなく終えることができた。千秋楽を終えて客出しが終わると、午後七時を少し回ったところだった。
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