開始時間が近づき、僕もサイドスポットの後ろにスタンバイする。椅子は用意されているが、座った状態から立ち上がるときに音が鳴るので、本番が始まったら椅子には座らない。使うタイミングが近づくまでしゃがんで待機する。最後の客入れ曲が流れ、客席の電気を消す。これも僕の仕事になっていた。僕が一つボタンを押すたびに客席は暗くなり、客席の電灯がすべて消えると調光卓にいる旦那さんが舞台上の照明が徐々に落としていく。客入れ曲の音量はそれに合わせて徐々に上がっていく。周囲が完全に暗闇になると同時に音響がカットアウトし、舞台上のサスが灯る。ゲネが始まった。 サイドスポットの出番は一時間くらいあとなので、しゃがんで待機する。衣装や制作、大道具小道具の部員たちはゲネ中の仕事はないので客席に座っている。本番では多目的ホールの外にある受付と場内の案内係に分かれる予定だ。脚本演出のシュン先輩は音響操作も担当していたので、音響卓に座っている。ガジンは音響助手になったのでその隣に座っている。 いつも稽古を見ていると、細かくストップして演出から助言が入るので、通しで見ることはほとんどなかった。だから、なにかミスが起きても止まらずに見ることができて新鮮だった。といっても、ミスらしいミスは誰もしていない。そして、あらためて通してみるとおもしろい作品だとわかった。脚本だけでも面白かったが、演出家の演出プランにより音響と照明と舞台装置と衣装と役者の演技が合わさると、別の作品を見ているようだった。 サイドスポットが使用されるシーンが始まる。僕は立ち上がる。足はしびれていない。しびれないように細かく動いていた。暗転して「兄が死んだのは、」と続いていくセリフの「は」のタイミングでスポットライトをつける。スイッチを入れるだけなので簡単だ。スイッチの下に蓄光テープも貼っている。それでもタイミングを間違えると役者に動揺を与えるので責任は重大だ。絶対にミスしないように緊張する。何度も練習したので、どのくらいの力を入れたらスイッチを押せるのか、どのくらいの力までならスイッチが動かないのかすでに体で覚えている。照明が消えると同時に曲が入る。「兄が死んだのは、お前のせいだ!」 ミスなく自分の仕事を終えることができた。あとはもう操作するこ
Last Updated : 2026-01-08 Read more