All Chapters of ドム嫌いの人間サブは妖ドムに盲愛される: Chapter 11 - Chapter 20

25 Chapters

11、望みは?

「そういえばね、今日はいつも嫌味を言ってきていたドムたちが寄っても来なかったんだ。白月のおまじない、凄い効果だったよ。初めて仕事がしやすくて、遅れていた分の作業まで終わらせれたんだ。仕事していて楽しいって初めて。本当に嬉しい、白月ありがとう」 興奮ぎみに一気に話すと白月がふわりと笑んだ。「良かった。初めてだったし、弱目にしてたから心配だったんだ。弱いと今日の男みたいな少し力のあるドムにはあまり効果がないからね。それもあって今日は会社まで様子を見に行ったんだよ。空良に絡みついていたあの男の思念には並々ならぬ執着心が見えたから心配だったからね。でもやり過ぎちゃったよね、ごめん空良」 気まずそうに語尾が弱くなっていく白月に向けて、左右に首を振ってみせた。「ううん。助けてくれたのに僕こそ怖いなんて言ってごめんね。伊藤からの強制的なプレイは本当に嫌なんだ。いつもサブドロップに入れられて放置される。合意もないしセーフワードも作って貰った事がない」 セーフワードはドムのコマンドにどうしても応じたくない場合にサブに用意された逃げ道みたいな言葉だ。 伊藤はあえてセーフワードを設けない事で徹底的にこちらを蹂躙してくる。苦笑混じりに喋り、またすぐに口を開いた。「だからタイミングよく会社に来れたんだね。それにしても僕に執着? 伊藤が?」 ただただ気持ち悪い。「本人も自覚してるかは分からないけれど、空良を自分の所有物だと思っている印象を受けたよ。でも今日あの男に、一時的にだけどサブになるような仕掛けをしたから暫くの間大人しくなるんじゃないかな?」「そんな事も出来るの?」 呆気に取られた。あの伊藤がサブだと思うと少し笑えた。いくらか溜飲が下がる。「空良、口を開けてごらん。昨日よりもう少し強めの結界玉をあげる」「う、うん」 ——結界玉というとやっぱりあの方法だよね……。 白月に言われた通りにおずおずとあの字に口を開くと、また口付けられ口内を貪られた。それが何とも言えないくらい気持ちよくて、腰の奥に疼きが生まれる。「ん……んぅ、は……ぁ」 甘ったるい声が漏れてしまい、それが恥ずかしくて白月の胸元にしがみついた。 白
last updateLast Updated : 2026-01-24
Read more

12、変化していく

 *** サブドロップに入る可能性を考えて、初回の特訓は週末に入る金曜日になった。恒例の如く白月の屋敷に行って、客間で白月と対峙する。「これからの事を考えて人の子が使うコマンドでやってみよう始めるよ」「うん、分かった」「では、——座って《Kneel》」 抗おうとする前に一回目の初歩的なコマンドだけでペタンと畳の上に座り込んでしまう。普段耳にするコマンドなのに白月が言霊を言葉に乗せるだけで圧が変わる。「ふふ、ふ、空良……その座り方……っ、可愛いね」 白月は袖口で顔を隠し横を向いてしまったが、肩が揺れているので笑っているのは一目瞭然だった。 ——恥ずかしい。 頬が上気し、全身がゆだってしまいそうになる。「もう、白月。揶揄わないで……、もう一回やりたい」 恥ずかしさを払拭するように両手で顔を押さえて、直ぐに立ち上がるなり白月と向き直った。「こういうのって、何かコツとかあるの?」 問いかけると白月が口を開く。「嫌だという自分の意思をしっかり持つ事かな。自分は誰々の言葉しか聞かないとか、パートナーの事を考えるとか? 私はサブじゃないから詳しくは伝えられないけど……。仕切り直そう?」「うん」「頑張って空良。また手始めに簡単なものからね。——座って《Kneel》」 またストンと畳の上に落ちそうになる体を必死に支える。膝に力を込めて足を踏ん張った。今度は何とか堪えれたので今度は拒絶の言葉を口にする。「いや、です」 膝に力をこめて真っ直ぐに白月を見据えた。「その調子だよ、空良。——おいで《Come》」 勝手に動き出しそうになる体を止める。「い、やです」 心音が激しく脈打っていた。妖だからなのか白月からのコマンドに抗うのがこんなにしんどいとは思わなかった。 吐息も乱れていて、思わず白月から視線を逸らし、自分の足を見つめる。 ——伊藤たちの時はもう少しマシだった。 今は情けない事にたった二つのコマンドで足が震えている。「空良、大丈夫? 呼吸が辛そうだよ」「平気。あと二回くらいは
last updateLast Updated : 2026-01-25
Read more

13、つい……、て、え!?

「それなら最近出来た知り合いの影響かもしれません」「成程。良い影響受けたんだね」「はい。とっても」 それから何度か言葉のやり取りをして、それぞれ自分の仕事の持ち場へ戻っていった。 この日以降、話しかけてくれたり、昼食に誘われたりする事も増えた。 ドムが寄ってくると、さりげなく庇ってくれたり逃がしてくれたりしてくれるもあって有難い。 今まで見てみぬふりをされていたのは、卑屈になって何もかもを諦めていた自分自身にも問題があったのかもしれない。 トイレに行って、戻ろうと扉を開くといつも揶揄ってきていたドムの一人と鉢合わせしてしまった。 すぐに視線を逸らして出て行こうとすると「来い」とコマンドを発令され、フラフラと寄っていきそうになった足を止めた。 ——しっかりしろ! 白月との特訓を無駄にする所だった。グッと耐える。「嫌です」「はあ? お前最近生意気なんだよ!」 歩み寄ってきた男に乱暴に髪の毛を掴まれたまま壁にぶつけられる。「パートナーでもない貴方たちに乱暴される覚えも、指示される覚えもありません! 離してください!」 痛みを堪えながらも相手を押し返そうと揉み合っていると、そこへちょうど別の社員がやってきて「おい、何してんだ!」と間に割って入ってくれた。「月見里、血が出てるから手当てしよう」 壁にぶつけられた拍子に血が出てしまったこめかみに、消毒液をつけて綺麗にした後で絆創膏を貼られた。 同じ階ながらも部署の違う社員だ。沈黙が何となく気まずい。視線を彷徨わせるも、ジッと見つめられているのに気がついて首を傾げる。「手当て、助かりました。ありがとうございます」 即座に立ちあがろうとすると、腕を引かれた。 どうして引き止められたのか分からなくて、見つめると視線が絡んだ。 彼はノーマルだ。自分をどうこうする理由がないのは分かっているので「あの?」と問いかけてみた。「俺さ……月見里の事勘違いしてたみたいだわ。いや、サブを勘違いって言った方がいいのかも。単に他人に守って貰いたいだけの命令待ちの構ってちゃんだと思ってたんだ。でも最近の月見里見てて、違うのか
last updateLast Updated : 2026-01-27
Read more

14、今日は帰してあげない

「私に空良補給させて」「何それ」「ふふふ、空良を抱きしめたり、結界玉をあげたり、甘やかしたりしたいって事だよ」 ——何だ、いつもの戯れか。 ガッカリしたような安心したような何とも言えない気持ちになる。それでもまだその行為たちにも慣れないのだけれど……。「僕の心臓持つかな」 諦めにも似たため息が溢れた。 白月に触れられると心音が上がって落ち着かない気持ちになる。 座ったまま横抱きの体勢に変えられ、こめかみや頬に唇を落とされた。目が合う度に微笑まれると身体中の血が沸騰しそうだった。 ——ムリだ。やっぱり慣れそうにない。 美人は三日で飽きるなんて嘘だと思った。白月の綺麗な顔に微笑まれると何かに心臓を撃ち抜かれたような衝撃がくる。飽きるどころか慣れる気さえしないし、毎日毎日一発で陥落させられている気がした。「これにも慣れて欲しいな」「ごめんなさい。ムリです」 即答していた。「あーー! また敬語〜。私……今日は特訓しない」「……え」「嫌。空良が私のする事全部に慣れて普通に喋ってくれるまでずっとこうして抱えたままにしておく」 ふいっと視線を逸らされる。白月が本気で拗ねた。 たまにこうして子どもっぽい面がある白月は可愛いと告げればまた拗ねそうだから、心の中だけに留めておく。「あの、白月?」「嫌」 ずっと横抱きにされたまま離してくれる素振りさえ見えない。十分……三十分と経過していった。 全身の力を抜いて白月に体を預けたまま、その胸元に顔を埋めた。「白月……ごめん。もうそろそろ許して……お願い」 根負けして口を開く。「ふふ、ダメ。恥ずかしがってる空良可愛い」「もうっ! やっぱり態とだった! ……お願い。勘弁して」「ねえ、空良。今日は泊まっていけないの?」「泊まったら離してくれる?」「ううん。ずっとこのままだよ」「それなら家に帰る」「言い直すね。今日は帰してあげない」 ——白月……人間だとそのセリフは確実に誤解を与えるよ。 妖の感覚はよく分からない。泊まり
last updateLast Updated : 2026-01-29
Read more

15、初めてのちゃんとしたプレイ

「そうだ。前々から聞こうと思ってたんだけど、聞きそびれちゃって。どうして白月は妖なのに僕や伊藤に見えたの? 今みたいな人型の姿をしていると他の人にも同じ様に見えるの?」 「空良には常時見えるようにしているだけだよ。他の人の子には見えないようにしている。あの男の時は姿を見せた方が、空良を確実に守れると思ったし、人型の方が妖術も手加減して扱えるから便利だっただけ。あの男は現実主義者で利己主義者、自尊心が高すぎるきらいがあったからこんなオカルト話は誰にも吹聴しなさそうだと踏んだ。だからこそやり過ぎちゃったんだけど」 ふふ、と笑った白月を呆気に取られた表情で見た。 「でもそれならこうして僕と会ってるのを見られるとマズイんじゃないの?」 「別に私は全て捨ててしまっても構わないよ。空良が側にいるなら私は何も要らないんだ」 ——ああ、ダメだ。またこのパターンに戻ってしまった。 赤面まっしぐらな言葉が来るのは必至。止めなければと思い、空良は慌てて言葉を口にした。 「ちょっと白月! そういうの言わないでってば。白月の言葉は甘すぎて……「私は空良が大好きなだけだよ」……っ!」 止められなかった。いや、寧ろ態と言葉を被せられた。それ以上は何も言えずに赤くなっているであろう顔を両手で隠す。耳まで熱い。白月も同じ目にあえば分かってくれるかと思ったけれど、同じ事を言うと喜ぶだけ喜んで十倍返しされそうだったのでやめておいた。 ——いつになったらこの熱さは無くなるかな。 少し考えて自らの額に手を当てる。 ——あれ? 本当に熱い? 気恥ずかしさから来る熱さではなく本当に発熱している気がした。 「空良何か顔赤くない?」 「うん、何か急に熱くて……」 額に乗せられた白月の手はヒンヤリとしていて気持ち良かった。 「特訓の影響で体調に異常をきたしているのかもしれない。空良は会社にいるドム以外とはプレイしていないの?」 「ない……僕が出会うのはいつも伊藤みたいなドムばかりだから」 「え、もしかしてこれまでにたったの一度もない?」 「ないよ」 驚いたように目を瞠った白月にジッと見つめられる
last updateLast Updated : 2026-01-31
Read more

16、神楽という男

「私?」「うん……綺麗。白月……綺麗。瞳の色も綺麗……好き。白月、好き」 意外な答えだったのか白月が目を見開いたまま固まっている。かと思えば微かに頬を染めて袖口で顔を隠してしまった。嫌だったのかな? 気分が急降下してきて、どんどん不安になってきた。「あの……ごめんなさい。もう言わない……から」 拒絶されたのだと思って悲しくなってくる。「違うよ、空良。照れただけだから気にしないで。——ちゃんと言えて偉いね空良」「本当に? 怒ってない?」「うん。私が空良に怒るなんて事はないから安心していいよ」「良かった。白月……あの……」「言っていいんだよ。——教えて?」「もっと……欲しい。白月からのコマンド……もっと欲しい。白月の……気持ちいい」 頭の中がフワフワしていて、訳が分からなくなってきていた。酩酊状態に似た感覚に足元さえ掬われそうになりながら、空良は白月に向けて微笑んでみせる。「私の理性がぶっ飛びそうなくらい可愛いんだけどどうしよう。主語抜かしは危険だよ空良」 目頭に手を当てて白月は俯いた。「しらつき?」 ダメな答えだったのかと、空良の表情が曇っていく。「ううん、こっちの話だよ。——おねだりできて偉いね」 空良の表情が蕩けて、熱と欲を孕んだ。座った状態で体が揺らぎ、畳の上に倒れ込む。少しのコマンドで満足したのか、空良はそのまま寝入ってしまった。「理性が飛ぶ前で良かったかも。久しぶりの空良は格別だった……」 空良の体を横抱きにして、布団の上に寝かせた。その隣にもう一組布団を敷く。普段であれば一緒の布団で寝るが、今日だけは平然と寝られる気がしなかった。 *** それから数日経った頃だった。 神社の鳥居を潜り歩いていると、正面から大学生らしき男が歩いてきて足を止めたのが分かって同じように足を止めた。しかも食い入るように見られている。 ——誰? 知り合いじゃないよね? やたら整った綺麗な顔をした細身の男に瞬きすらせずに見られていた。 ——この人ドムだ。
last updateLast Updated : 2026-02-02
Read more

17、スイッチとして目覚める

 急激な異次元空間移動についていけなかった。妖によって移動方法が異なるのだと初めて分かり、普段白月がどれだけ自分に優しかったのかを思い知らされてしまい自嘲するようにまた笑んだ。 フラフラする体を懸命に支えるも上手くいかない。完全に目が回っていて、庭先で倒れてしまった。「おい!」「わ、空良!」 目の前でカメラのシャッターを連続できられながら、高速回転機に乗せられたような気分だ。 ——ダメ……気持ち悪い。 意識が飛んでいった。「う……ん」 気がつくと布団に寝かされていて、真っ先に白月の顔が視界に飛び込んでくる。今にも泣き出しそうなくらいに眉根を寄せていた。「空良、気がついた? ごめんね、このバカ獅子が」 白月の背後から神楽が顔を出す。大らかな様子で苦笑される。「ごめんごめん。いつもの癖で……。まさか人の子がこんなに酔いやすいなんて思わなくてよ」「いえ……平気です」 もう気分も落ち着いていて体を起こすと、心配そうにしている白月と目があう。「本当に大丈夫だよ、白月。そんな顔しないで」 微笑んで見せた。 ——まだ決断が出来そうにない。 こんなにも必死になってまで心配してくるこの心優しい妖を手放さなければならないと思うと、直に心臓を握られたように痛くなった。 *** 神楽と白月についての話をしてから二週間は経っていた。未だに答えを出せずにズルズルとここまで来ている。 会社を出てまた白月に会う為に神社へと向かう。 ——僕はどうしたらいいのかな? 道中ずっと自問自答ばかりしていた。 白月の事を考えるのなら離れるべきなのは分かっているけれど、手放す勇気が出ない。いや、手放したくない。何て自分勝手なんだろう。自分の事が嫌いになりそうだ。 神社までもう少しという距離だった。突然膜に包まれたような妙な感覚に陥り、足元に落としていた視線を持ち上げるとそこには跪いたまま足蹴にされている青年がいた。 足蹴にしているのはいつも会社で己に命令していたドムたちだ。鬱憤を晴
last updateLast Updated : 2026-02-06
Read more

18、壊れるとき

 ——あれ? そういえば……。 別の疑問が脳裏を掠める。 妖は征服欲が強いと言っていたのに白月は平気なのだろうか? 通常のプレイはあれっきりしていない。 自分が体調に異変をきたしていただけに、白月もそうなんじゃないかと今更ながら気がついてしまった。 これが最後になるかもしれないのだ。せめて最後くらいは白月の役に立ちたかった。「ねえ、白月……」「どうかしたの?」「あの、僕……」 一度言葉を止めておおきく深呼吸する。「今日は特訓じゃなくて、白月とまた普通のプレイがしてみたいんだけどダメかな?」 白月が大きく目を見開いたまま固まっていた。 ——あ……しまった。欲張り過ぎたかな? それとも自分から誘うなんてはしたないと思われた? 逃げ出したいくらい恥ずかしくなってきて「ごめん、忘れて欲しい」と慌てて撤回の言葉を口にする。「違うよ、空良。プレイは嫌じゃない。ただ、またプレイしてしまうと自分の衝動を抑え切れる自信がなくて……空良に手を出してしまいそうなんだよね。私はドムだし空良に怖がられるのは堪える」 困ったように白月がはにかんだ。「手を出すって……」 そこまで無知で純情ではない。言葉の指す意味くらいは理解している。性的対象として見られていると知り、気恥ずかしくて顔に熱がこもっていくのが自分でも分かった。「正直に吐露してしまえば、今も触れたくて、空良を家に帰したくなくて必死で堪えているくらいなんだ。特訓の為とは言え、コマンドに耐える空良は余りにも可愛過ぎて……。こう支配欲を煽られるというか。でも気分が高揚した時の私たちの言葉は本当に強いから怖がらせたくない。ドムに慣れるように始めたこの特訓が、私のせいで無意味な物になるかもしれないから今は怖い、かな」 顔が熱い。白月にずっとそんな欲求を抱かれていたというのは今初めて知ったから、返答に困ったのはこちらだった。 ——もしかして今までの触れ合いもそういう意味合いだったのかな。 嬉しいやら恥ずかしいやら照れ臭いやらで思考が回らない。「私以外とはプレイして欲しくないと言ったけれど、空良にはドム嫌いという苦手意識を克服して貰って
last updateLast Updated : 2026-02-10
Read more

19、ちゃんとありがとうとサヨナラを言いたくて……

*** 平日は仕事に行って、そのまま家に帰宅して……と白月と会う前の生活に戻って一週間が経過した。 もうこのまま会うつもりはない。重い気持ちのまま日々を送っている。想いは膨れ上がるだけで、無くなってくれないものの、どこか納得している自分もいた。下手にもう会わないと決めて、さよならを告げていれば白月を傷付けていたかもしれない。それならまだ自分が傷付いた方が良かった。 ——これで良かったんだ。 仕事から帰ってきてシャワーだけ浴びて食事も採らずに自室に篭る。 ——最後にちゃんとお礼は言っておこう。 そう思って、家を出るなり神社に行った。すっかりと帳の降りた神社は暗闇に包まれている。 周りを見渡して誰もいなくなったのを確認した ポツポツと雨が降り始めてすぐに土砂降りになってしまう。木陰に入り込んで直接の雨の衝撃を幾分か和らげた ——白月と会った時もこんな雨の日だったな。 フッと表情を緩める。 雷鳴と共に稲光が夜空を走り抜けていくのを視線で追いかけた。その中で一本の光だけが天に向けて駆け上って行ったのが分かって、つい視線で追う。その光がどこか白い龍のようにも見えて目を瞬く。 ——白月? どうしてなのか、白月なのではないかと思えたが、白月の本体は見た事がない。 確信も持てなくて視界から光が消えるまで追い続けた。遠くでまた雷鳴が轟く。早くしなければ……。 気が急いてしまうものの、いつものわらべ歌ではなく言葉を発する為に口を開いた。 もしかしたら、わらべ歌を口にしなければ届かないかもしれないけれど、面と向かって泣かずに言う自信がなかった。 「勇気を出すのに……時間がかかっちゃった。まだ顔を見て話が出来る強さが僕にはないから、このまま言わせて。僕は……白月と会えて良かったよ。白月がいなかったら僕は今も会社にいるドムたちにいいように扱われたままだった。白月……今まで本当にありがとう。でももうここへは来ない。サヨナラ」 踵を返して帰路に着く。心は重いままだったけれど、お礼を言う前よりはいくらかスッキリしていた。 ジャリ、と小石を踏む音がして視線を向けると二十メートル離れた後方に男性の影が見えた気がして息を呑む。 ——伊藤? まさかとは思いながら、相容れない雰囲気とシルエットがどうしてもその男は伊藤だと
last updateLast Updated : 2026-02-11
Read more

20、危機

 *** 次の日もそれは続いた。ただ会社の中では素知らぬフリをされたので、不思議に思いながらも仕事をして、他の社員と交流を育む。 今日は充実した日を送れ、アパートに帰ってからも気分よく過ごせた。 こんなのは白月といた時以来だ。そこまで考えて、また白月との時間を思い出していた自分を叱咤するように頭を振る。「ダメダメ、忘れるんだろう?」 自らに言い聞かせるように声に出して言うなり、テーブル席で頭を抱えた。 ピンポンと来客を告げるインターフォンが鳴り響く。最近通販もしていなければ両親から訪問を告げる連絡も来ていない。 訝しげに思いモニターを見ると、そこには配達員の制服を着た男が立っていた。『はい』 応答するとやはり『宅配便です』と言われたので『どこからの配達ですか?』と尋ねてみた。この手の詐欺が多いのを知っていたからだ。『え、と。宛先と同じ月見里となっていますね』『今開けます』 母親が送ってくれたのだと思い、扉を開く。しかしそこには伊藤とその他見た事のない男三人がいるのが分かって、すぐに扉を閉めかけた。扉の隙間に靴をかませられて閉じられない。「何なんですか! 出ていって下さい!」「てめえ、最近マジで目障りでムカつくんだよ! ヘラヘラしやがって気持ち悪ぃ」「ストーカーしてまで張り付いてくる貴方の方が気持ち悪いです!」 ハッキリ告げると取り巻きの三人の男が笑った。「何伊藤、お前こんな奴のストーカーしてたわけ?」「うるせえ」「いかにもな可愛い系じゃなくて、志島尊留みたいな美人ならオレらも大歓迎だったのによ」「つっても山ん中置き去りにしちゃったから今頃もう……、なあ?」 下品な笑い声が響いていく。 ——山? 置き去りって……嘘……何それ……もしかして……。 嫌な想像しか出来なくて怖くて堪らなかった。手が震えてくる。「ほら、お前がいらん事言うから怯えちゃってるじゃん」 自分の部屋に入られてしまっている時点でもう詰んでいる。外に逃げ出そうとした瞬間に捕えられて両手を引き抜かれたベルトで拘束され
last updateLast Updated : 2026-02-12
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status