小山湊(こやま みなと)の車の後部座席に、白いストッキングが落ちていた。それは、彼の部下の陣内直美(じんない なおみ)のものだと、すぐにわかった。湊がバックミラー越しに、ちらりと私のことを見た。「昨日はどしゃ降りだっただろ。残業してた部下を二人、家まで送ったんだ。二人とも全身ずぶぬれで、だから……」「信じてるよ」私は湊の言葉をさえぎった。この色のストッキングは、直美のお気に入りだ。直美と湊があまりに親密なせいで、私はこれまで何度も泣いて、ケンカをくり返してきた。ついには、「死ぬ」とまで言って、彼を追い詰めたこともある。最終的に湊が折れてくれて、両家の親の前で誓ったのだ。もう二度と、直美とは個人的に会わない、と。私は窓の外に目を向けた。でも、湊がバックミラー越しに、何度も私の反応をうかがっているのが分かった。しばらくして、彼がおそるおそる口を開く。「本当に、大丈夫か?」この人にもう少しだけ気にかけてほしくて、昔はあんなに頑張ったのに。でも今は、彼のうわべだけの心配が、馬鹿らしくて仕方がなかった。……私は静かに首を横に振って、そっと目を閉じた。車がゆっくりと止まると、湊は我慢できないといった様子で振り返った。その瞳には、私の知らない感情が浮かんでいる。「どうして何も聞かないんだ?」私は彼に視線を上げた。「信じてほしいって、いつも言ってたのはあなたでしょ?」湊は眉をひそめ、疲れたような声で言った。「昨日送ったのは直美だけじゃない。それにすごい豪雨だったんだぞ。女の子二人だったんだし、少しは……」彼はそこまでしか言わなかった。でも、自分の立場を理解してほしい、と言いたいのは分かっている。「直美とは、もうできるだけ距離を置いてる。仕事の話以外では、ほとんど関わりはないんだ。知ってるだろ、直美のお父さんは、うちの会社の大事な取引先なんだ。だから、関係をこじらせるわけにもいかないんだよ」湊の呆れたような声に、私は思わずフッと笑ってしまった。「分かるわよ。早くそのストッキング、彼女に返してあげたら?そうしないと、あの親子は心配するんじゃない?」湊の顔がこわばった。直美は以前、彼女の父親・陣内暁(じんない あきら)を口実に、湊を深夜に呼び出したことがあった。その時、直美は大
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