俺の彼女の橘琴音(たちばな ことね)のそばには、仲のいい男友達・中村大翔(なかむら ひろと)がいる。山登りに行ったとき、そいつは俺が糖尿病で、糖分の多いものを口にできないと知っていながら、わざと甘いエナジーバーを食べるように仕向け、俺の血糖値を一気に上げた。俺がインスリンを取り出して打とうとしたその時、薬が生理食塩水にすり替えられていることに気づき、背筋が凍った。その場にへたり込み、吐き気に耐えきれず何度もえずく俺を見て、大翔は鼻で笑った。「え、マジで?ちょっと糖分を取ったくらいで、そんな死にそうになるわけ?琴音に頼んであんたの薬をすり替えてもらって正解だったな。じゃなきゃ、あんたがここまで大げさな芝居するやつだなんて分からなかったし。そんなひ弱な体で、これからどうやってうちの琴音を守るつもりなんだよ?」俺は琴音を見た。もう呼吸が浅く、速くなり始めていた。「琴音……薬を返してくれ……このままインスリンを打たなきゃ、俺、本当に死ぬ……」彼女はわずかに眉をひそめた。「さすがに演技が過ぎるでしょ。ちょっと甘いもの食べたくらいで死ぬなんて、聞いたことないし」大翔の言う通り、あんたってほんと面倒くさい。せっかくみんなで集まってるのに、ここで空気壊して何がしたいの?」俺はもう完全に心が冷えきって、そのまま母さんに電話をかけた。「母さん、俺、いじめ殺されそうなんだけど。助けに来てくれないか」琴音は俺のスマホをひったくると、通話終了のボタンを押した。彼女の顔には、あからさまな軽蔑と苛立ちが浮かんでいた。「結城朔也(ゆうき さくや)、あんた子どもなの?いい歳して親に言いつけるとか、幼稚すぎない?」彼女は俺のスマホを自分のポケットにねじ込み、鼻で笑った。「電話一本したくらいで、山で働いているあんたの母親が飛んできて味方してくれるとでも思ってるの?ここでみっともない真似しないでよ!」彼女は知らない。彼女の口にした「山で働いてる母親」こそが、この景勝地の持ち主で、この山そのものが俺の家のものだということを。目の前が何度も暗くなった。高血糖による吐き気とめまいが、今にも俺を呑み込みそうだった。琴音のそばにいた大翔ものんきな顔でそれに乗っかった。「琴音、前から言ってただろ。こいつ、けっこう腹に一物あるってさ
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