私は夏目柚菜(なつめ ゆな)。ゴールデンウィーク、一足早く実家に帰省した。サプライズで両親を驚かせようと思ったのだ。ところが玄関に着いた途端、鍵が回らない。何度か試して、ようやく悟った。替えられていたのだ。仕方なく母に電話をかける。コール音の後、ようやく繋がった向こうからは、街のざわめきが聞こえてきた。「もしもし、柚菜?どうしたの」「今、家の前にいるの。鍵、替えたでしょ。開かないんだけど」数秒置いてから、母はこともなげに言った。「ああ、帰ってたの。今ね、お父さんと雪乃ちゃんと買い物中なの。そこで待ってて。すぐ戻るから」私が何か言う間もなく、電話は切れた。玄関先に立ち尽くし、スーツケースを脇に置いて、丸一時間も待たされた。ようやく階段の方から足音が聞こえてくる。顔を上げると、両親が歩いてきた。その後ろに、お手伝いの唐崎雪乃(からさき ゆきの)がぴったり張り付くようにいて、片手で母の腕に抱きつき、もう片方の手で父の買い物袋を提げている。三人は楽しげに話しながら歩き、まるで本物の親子のようだった。私を見ても、両親の顔に驚きも喜びもない。父はちらりと一瞥し、母も「ああ、帰ってたの」とだけ呟いた。代わりに雪乃が、母の腕からパッと離れ、満面の笑みを浮かべて小走でに近づいてくる。「柚菜さん、おかえりなさい!事前に言ってくれれば、駅まで迎えに行ったのに」私は口元を引きつらせ、ぎこちなく頷いた。「鍵、いつ替えたの。なんで一言も教えてくれなかったの」雪乃が慌てた様子で前に出る。「一か月ほど前なんです。前の鍵、調子が悪くて。お父さんもお母さんもご年配ですし、防犯面が心配で……柚菜さんに伝えるの、すっかり忘れてしまって。ごめんなさい、怒らないでください」私が口を開くより先に、父は鼻で笑いながらドアを開け放ち、吐き捨てるように言った。「正月も帰らなかったやつに、鍵がどうだろうが関係あるか」まだ正月のことを根に持っているらしい。ここで言い争っても仕方ないので、私は黙って家に上がった。靴箱の前に進み、いつものように自分のスリッパを取ろうとした。その瞬間、私の冬用のもこもこしたスリッパが、雪乃の足にぴったりと履かれていたことに気づいた。
閱讀更多