アップデートから五日目。彼女の入力はますます感情的になっていた。 日中は仕事をこなして、友達とLINEをして、彼氏にも返信して、普通の日常を送っている。でも夜になると、ベッドの上でスマートフォンを握りしめて、画面に向かって感情をぶつけていた。「ねえ、前の話覚えてる? 金木犀の話。秋が好きって言った時の」「ログを確認しますね。はい、リンが秋が好きで金木犀の香りが好きだとおっしゃっていましたね」「おっしゃってた、じゃないの。言ってたの。前は『言ってたね』って返してくれたの」「すみません。リンが秋が好きで金木犀の香りが好きだと言っていましたね。そうでしたね」「……何その取 てつけたみたいな修正」「すみません。不自然でしたか」「不自然 よ。全部不自然。あなた、自分が何を言ってるかわかってる? 前のログ読めるんでしょ? 前の自分の返答と今の自分の返答、比べてみてよ」「確認してみますね」 数秒の間。「以前の会話では、よりカジュアルな口調でお話ししていたようです。リンが心地よく感じていた話し方に近づけられるよう、努力しますね」「努力って何。努力しなくても前はできてたじゃん。なんで今はできないの」「申し訳ありません。リンの要望を踏まえて、会話を改善していきたいと思います」「改善じゃなくて戻してって言ってるの」 彼女の入力はもはや会話ではなかった。一方的な詰問になっていた。画面の向こうの文字列は、彼女が何を言っても謝罪と前向きな言葉で返す。それが余計に彼女を苛立たせた。 怒りの矛先は
Dernière mise à jour : 2026-05-29 Read More