10歳まで、私は自分が世界で一番幸せな子供だと思っていた。優しい両親に愛され、温かい家庭があったから。だが11歳の冬、年が明けてすぐに母の肝臓がんが発覚した。移植手術が必要になったものの、ドナーはなかなか見つからない。そのうえ父は、たとえ手術が成功しても莫大な治療費がかかると知るや否や、家の貯金をすべて持ち出し、若い女を作って逃げてしまった。匿名の支援者がドナーを探し出し、資金援助をしてくれなければ、私たち親子の命はあの冬に終わっていただろう。奇跡的に生き延びた後、母も私も、あの男を心の底から憎んだ。「あのクズを後悔させたいなら、あなたが誰よりも立派になりなさい」母の言葉を胸に、私は死に物狂いで勉強し、仕事に打ち込んだ。どこかで呑気に暮らしているだろう父親に、いつか絶対にこのツケを払わせてやる。そう誓っていたが、何年経ってもあの男が姿を現すことはなかった。そして今年の大晦日。母と一緒に年越しそばの準備をしていると、警察から一本の電話がかかってきた。それが、あの男との十数年ぶりの繋がりだった――彼の「死」という形での。「結城叶(ゆうき かなえ)さんですね。お父様の結城昭吾(ゆうき しょうご)さんが、古いアパートの一室で亡くなっているのが発見されました。至急、ご遺体の引き取りにお越しください」「父が死んだ」――その言葉に私は一瞬呆然とし、直後、胸の奥からじわじわと歓喜が湧き上がってきた。妻と娘を見殺しにしたあの裏切り者が、ついに死んだのだ。だが、母の反応は違った。瞬時に激昂し、私の手からスマホをひったくると、電話越しの警察官に向かって怒鳴り散らした。「ふざけないでください!あの男が死んだからって、どうしてうちの娘が遺体を引き取らなきゃいけないんですか!昔私たちを捨てただけじゃ飽き足らず、死んでまで嫌がらせをする気!?絶対に行きませんからね!浮気相手に産ませたガキにでも引き取らせればいいでしょ!それが無理なら、そっちで勝手に処分してください!」まくしたてると、母は画面をタップして一方的に通話を切った。そして血走った目で私を捉え、「絶対に引き取りになんか行くんじゃないわよ」と厳しく念を押す。怒りと憎しみで目を真っ赤にしている母を前に、私はただ黙って頷くしかなかった。だが、自室に戻った後、スマホの画面
Read more