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十五年目の真実~私たちが父を憎んだ理由~
十五年目の真実~私たちが父を憎んだ理由~
作者: ちょうどいい

第1話

作者: ちょうどいい
10歳まで、私は自分が世界で一番幸せな子供だと思っていた。優しい両親に愛され、温かい家庭があったから。

だが11歳の冬、年が明けてすぐに母の肝臓がんが発覚した。移植手術が必要になったものの、ドナーはなかなか見つからない。

そのうえ父は、たとえ手術が成功しても莫大な治療費がかかると知るや否や、家の貯金をすべて持ち出し、若い女を作って逃げてしまった。

匿名の支援者がドナーを探し出し、資金援助をしてくれなければ、私たち親子の命はあの冬に終わっていただろう。

奇跡的に生き延びた後、母も私も、あの男を心の底から憎んだ。

「あのクズを後悔させたいなら、あなたが誰よりも立派になりなさい」

母の言葉を胸に、私は死に物狂いで勉強し、仕事に打ち込んだ。

どこかで呑気に暮らしているだろう父親に、いつか絶対にこのツケを払わせてやる。そう誓っていたが、何年経ってもあの男が姿を現すことはなかった。

そして今年の大晦日。母と一緒に年越しそばの準備をしていると、警察から一本の電話がかかってきた。

それが、あの男との十数年ぶりの繋がりだった――彼の「死」という形での。

「結城叶(ゆうき かなえ)さんですね。お父様の結城昭吾(ゆうき しょうご)さんが、古いアパートの一室で亡くなっているのが発見されました。至急、ご遺体の引き取りにお越しください」

「父が死んだ」――その言葉に私は一瞬呆然とし、直後、胸の奥からじわじわと歓喜が湧き上がってきた。

妻と娘を見殺しにしたあの裏切り者が、ついに死んだのだ。

だが、母の反応は違った。瞬時に激昂し、私の手からスマホをひったくると、電話越しの警察官に向かって怒鳴り散らした。

「ふざけないでください!あの男が死んだからって、どうしてうちの娘が遺体を引き取らなきゃいけないんですか!

昔私たちを捨てただけじゃ飽き足らず、死んでまで嫌がらせをする気!?絶対に行きませんからね!

浮気相手に産ませたガキにでも引き取らせればいいでしょ!それが無理なら、そっちで勝手に処分してください!」

まくしたてると、母は画面をタップして一方的に通話を切った。そして血走った目で私を捉え、「絶対に引き取りになんか行くんじゃないわよ」と厳しく念を押す。

怒りと憎しみで目を真っ赤にしている母を前に、私はただ黙って頷くしかなかった。

だが、自室に戻った後、スマホの画面が再び点灯した。

警察からのメッセージだ。そこには、一つの住所だけが記されていた。

画面に浮かぶ文字列をじっと見つめていると、さまざまな思いが複雑に絡み合い、頭の中を駆け巡る。少しの逡巡ののち、私は文字を打ち込んで送信した。

【わかりました】

行く決心をした。

けれどそれは、あの男にわずかでも情が残っているからじゃない。遺体を引き取る義理なんてこれっぽっちもない。

ただ、この目で確かめてやりたかったのだ。

私たちを見殺しにしてまで追い求めた「幸せな生活」とやらが、一体どれほど立派なものだったのかを。

翌日、私は仕事だと嘘をついて飛行機に乗り込み、警察から送られてきた住所へと向かった。

高級タワーマンションで優雅に暮らしているのだろうと思っていたが、たどり着いた先は、今にも取り壊されそうなスラムのような古びたアパートだった。

場所を確認したあと、メッセージにあった大家の番号へ電話をかける。

現れた中年の女は、私の顔を見るなりあからさまに呆れた目を向け、鍵を押し付けながらブツブツと文句を垂れた。

「あんたが昭吾さんの娘さん?すっかり死に絶えてからやっと顔を出すなんてね。今まで何やってたんだか」

相手にする気にもなれず、私は無言で鍵を受け取ると、さっさとその場を離れた。

ドアを開けて中に入り、呆気にとられた。

部屋の中は異様なほどガランとしており、粗末なベッドと小さな机がポツンと置かれているだけで、他に家具らしいものは何一つなかったのだ。

そのあまりにも惨めな有様を目にして、思わず鼻で笑ってしまった。

私はスマホを取り出し、部屋の様子を何枚か写真に収める。

家に帰ったら、母にも見せてやろう。あの裏切り者が自分たちを捨てた挙句、どれほど底辺の生活を送っていたか教えてやるのだ。

先ほど遺体を葬儀社に引き渡した際、警察は「アパートで孤独死していた」と言っていた。

死因は多臓器不全。身長180センチと大柄だったあの男は、発見時、体重がわずか45キロにまで激痩せしていたらしい。

だが、それを聞いても悲しみなど欠片も沸かなかった。

自業自得だ。

あの日、家の全財産を持ち出し、若い女と逃げたりしなければ、私と母があんな地獄のような苦労を味わうことはなかったのだから。

これ以上ここにいる理由はない。そう思って背を向けかけたとき、ふと、机の上に置かれたボロボロのパスケースが目に留まった。

近づいて手に取り、中を開く。

そこに入っていたのは――私が十歳の誕生日に撮った、家族三人で笑い合っている写真だった。

それを見ても、私の心は少しも揺らがなかった。ただ、得体の知れない気味悪さと吐き気だけが込み上げてくる。

妻子を無残に捨てておきながら、今更なにを悲劇の父親ぶっているのか。

かつて母がプレゼントしたパスケースをまだ使い続けているだけでなく、とっくの昔に母がビリビリに破り捨てたはずの家族写真を、わざわざ大事に持ち歩いているなんて。

遺品を整理した私がこれを見つけたら、ほだされて立派な葬式でも出してやるとでも錯覚したのだろうか?

虫が良すぎる。

母がガンで重病の床についていた時、あの男が浮気相手の女を連れて病室に乗り込み、母をさんざん侮辱したあの日のことを。泣いてすがりつく私を怒鳴りつけ、無情にも蹴り飛ばした時の痛みを。

私は死んでも、絶対に忘れない。

腹立たしさが頂点に達し、私はケースから家族写真を引き抜くと、怒りに任せて粉々に引き裂いた。

すると、破れた写真が落ちた後から、また別の写真が顔を出した。

私が大学生の時に撮られた写真だった。

はっとしてそれを抜き取ると、さらに下からもう一枚出てきた。私自身の後ろ姿を背景にして、こっそりとフレームに入るように撮られた、自撮り風のツーショット写真だった。

写真の端に写り込んだあの男の顔の半分は、あまりにも老け込んでいた。ひどく痩せこけて肌は黒ずみ、唇は血の気がないほど真っ白で、私の記憶の中にある父親の姿とはまるで別人のようだった。

まだ五十歳のはずなのに、どうしてこんなに年老いているのか……

一瞬、胸の奥がチクッと痛んだが、私はすぐにその感情をねじ伏せた。

自業自得だ。あんな男がどうしてこんな姿になったのかなんて、知る必要もない。

どのみちあいつは死んだのだ。こんな悲惨な最期を遂げてくれたおかげで、ようやく私の中で区切りがつけられる。

そう自分に言い聞かせるように、私は写真を机の上に放り投げ、足早に部屋を出た。

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