現役裁判官の妻・神崎志保(かんざき しほ)は、末期腎不全で命の危機にある初恋の相手・白石透(しらいし とおる)を救うため、あろうことか夫である俺――黒瀬慎(くろせ しん)の腎臓に目をつけた。「冗談じゃない!俺だって腎不全なんだぞ。これ以上腎臓を奪われたら、本当に死んでしまう!」必死に訴える俺に、志保は憎しみを隠そうともせず吐き捨てた。「透はあんなに苦しんでいるのに、あなたはまだ嫉妬して見殺しにする気?本当に血も涙もないのね!」その後、裁判官としての立場と人脈を使って同意書はでっち上げられ、俺の訴えは握り潰された。意識も朦朧としたまま手術台に乗せられ、腎臓を奪われた。その結果、腎不全は急速に悪化。志保が透の手術が終わるのを待っていた頃、俺は冷たい手術台の上で、ただ死を待っていた。体中に管がつながれ、無機質な電子音だけが耳に響く。その音はまるで、死神が「もう時間だ」と告げているようだった。やがて心電図の波形が一本の線になり、ピーという長く単調な音が室内に響き渡った。その頃には、透の手術も無事に終わっていたらしい。手術室のランプが消えたのと同じ頃、俺の目も二度と開かなくなった。未練があったのか、それとも深い恨みのせいか。気づけば魂だけになった俺は、志保のそばにいた。死の淵から戻った透を抱きしめ、目を赤くして喜ぶ志保。その姿を見た瞬間、胸の奥が絶望の底へ沈んでいった。彼女は、一瞬でも俺の命を案じてくれただろうか。そう問いただしたかった。けれど、答えなど分かりきっている。透を救うためなら、志保は何だってした。ありもしない罪を俺に着せ、逃げ場のないところまで追い詰めた。裁判官としての立場と人脈を悪用し、必死の訴えさえ握り潰したのだ。腎臓を摘出される直前。ストレッチャーで運ばれながら、震える手で志保に電話をかけた。「志保……俺が悪かった。頼む、腎臓だけは取らないでくれ。もう体が限界なんだ。このままじゃ死んでしまう……」出会ってからこれまで、彼女に頭を下げたことなど一度もなかった。プライドを捨てて許しを請えば、ありもしない罪をすべて被れば、夫婦としての五年の情に免じて、せめて命だけは助けてくれるのではないか。そう縋るように思っていた。だが、電話の向こうから返ってきたのは、
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