動画が公開されてから、まだ一時間も経過していなかった。 それにもかかわらず、ホテルの窓の下には、報道車両の白い屋根が次々と増えていた。 深夜の車寄せを照らす照明。その光の中を、肩へ機材を担いだ者たちが忙しなく行き交っている。正面玄関だけではない。通用口へ回る者、地下駐車場の出口で待ち構える者、宿泊客を呼び止める者までいた。 厚い窓硝子に遮られ、声までは届かない。 けれど彼らが誰を待っているのかは、確かめるまでもなかった。 凛花のスマートフォンは、テーブルの上で休みなく震えている。 所属事務所。映画会社。テレビ局。スポンサー企業。見覚えのない番号。着信が途切れた直後には、留守番電話とメッセージの通知が押し寄せた。 白い光が暗い室内で明滅するたび、凛花の名前が一人歩きしていく。 画面に表示される動画の再生回数は、すでに百万を超えていた。 扉が開き、篠宮志保が駆け込んできた。 普段なら乱れひとつ許さない髪が頬へ張りつき、黒い上着の襟も片側だけ折れている。走ったためか呼吸は浅く、廊下の冷気をまとった身体から、微かな雨の匂いがした。「誰とも話していないわね?」 志保は返事を待たず、テーブルからスマートフォンを取り上げた。電源を切り、続けて部屋のカーテンを閉める。 重い布が擦れる音とともに、窓の下に群がる白い光が遮られた。「話していない。でも、あの映像はおかしい」 凛花の声は、自分でも驚くほど平静だった。 舞台挨拶のために整えた化粧はまだ崩れていない。白いドレスも、髪も、つい先ほどまで喝采を浴びていた姿のままだった。 ただ、膝の上で重ねた指だけが、冷たく強張っていた。「私はあんなことを言っていない」「分かっている」「真白ちゃんに何があったのか確認しないと。頬に痕があった。誰かに――...」「今は近づかないで」 志保の声が低く落ちた。「あなたが連絡すれば、口止めをしたと書かれる。心配して電話をかけただけでも、脅迫したことにされるわ」「だったら、誰が真白ちゃんを守るの?」 志保の唇がわずかに動き、閉じた。 答えの代わりに、テーブルの端へ置かれた別の端末を引き寄せる。 凛花は映像をもう一度再生した。 音を消し、速度を落とす。 画面の中で、凛花が真白の腕を掴んでいる。その直後、真白が床へ膝をつく。凛花が何かを言っているように
最後更新 : 2026-07-21 閱讀更多