親友の相沢美香(あいざわ みか)が、元彼とよりを戻したと打ち明けてきた。私は、ろくでもない元彼とよりを戻すなんてどうかしている、と散々責めた。けれど、美香は困ったように笑った。「どうしても切れない縁って、あるのかもね。奈緒ちゃんに理解してほしいわけじゃないの。ただ、私を怒らないでほしい」当時の私は、その言葉に込められた意味に気づかなかった。私があの元彼にいつまでも腹を立てているのを、美香が気にしているのだと思った。彼女の困り切った顔を見ていると、これ以上責める気にはなれなかった。私は美香を抱きしめた。「美香、自分を犠牲にするようなことだけは、しないでね」それから1年後。生理痛がひどくて婦人科を受診した日、私は美香が産科の診察室から出てくるところを偶然見かけた。声をかけようとしたとき、1人の男がすぐに駆け寄り、美香の体を支えた。体調を気遣うように、彼女の顔をのぞき込んでいた。気づいたときには、私は廊下の角へ身を隠していた。全身の震えが止まらなかった。その男は、結婚してもうすぐ3年になる私の夫、久世智哉(くぜ ともや)だった。……私は廊下の壁に背中を押しつけ、両手で口を覆った。息の音さえ聞かれそうで、呼吸もできなかった。廊下の角からそっとのぞくと、智哉が美香を、まるで壊れ物に触れるかのように支えていた。5年付き合い、結婚して3年になる夫と、7年来、誰よりも信頼してきた親友だった。智哉の顔に浮かんでいたのは、私がよく知る優しい表情だった。何かを言い聞かせるように美香へ優しく話しかけ、彼女の頬にかかった髪をそっと耳へかけてやる。その仕草は、あまりにも自然だった。美香は手元の検査結果を見つめていた。表情までは分からない。ただ、片手はごく自然に、まだ目立たない下腹部へ添えられていた。2人が立ち去ると、私は何かに引かれるように、距離を取りながらあとを追った。地下駐車場まで行くと、智哉は助手席のドアを開け、美香が頭をぶつけないよう車の屋根に手を添えてから、そっと乗せた。黒い高級セダンが病院を出ていった。涙でにじんだ視界の中、セダンのテールランプは血のような赤ににじんだ。人気のない地下駐車場に1人きりになると、全身が激しく震え始めた。まだ初秋だというのに、体の芯まで冷え、背中は冷や汗でじっとりと濡れて
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