私、宮瀬杏奈(みやせ あんな)は、結婚を控えた彼氏の黒川蓮(くろかわ れん)と、結婚式で使う写真を撮るための旅行へ出かけた。ところが新幹線に乗り込むと、蓮の隣には私の親友、早川晴香(はやかわ はるか)が座っていた。3人分の切符はあったものの、指定席が取れていたのは2席だけで、連休中の自由席も満席に近かった。結局、私はデッキで立ったまま過ごすことになったが、蓮は悪びれもせず、軽い調子で口を開いた。「ごめん。乗る直前になって、杏奈の席を取ってないことに気づいたんだ。そのときにはもう満席でさ。俺が忘れっぽいのは知ってるだろ?次からは杏奈も、ちゃんと確認してくれよ」晴香は「忘れっぽいにもほどがある」と呆れたように蓮の肩をたたいた。「毎回じゃないって。晴香が窓側の席を好きなのは、ちゃんと覚えてただろ」こんなやり取りは、これまでにも何度となく繰り返されてきた。蓮が私の予定や好みを忘れても「忘れっぽいから」で済まされるのに、私が何度も念を押して確認しなければ、忘れたことまでいつの間にか私の落ち度にされてしまう。しかも蓮は、晴香がマンゴーにアレルギーがあることも、一度聞いただけのお気に入りのカフェも、窓側の席を好むことも覚えていた。その一方で、私にも同じアレルギーがあることも、何度も行きたいと話した店も、以前痛めた脚のせいで長く立っていられないことも、蓮は忘れていた。蓮の記憶から抜け落ちるのは、いつも私に関することばかりだった。私はスーツケースを引いてデッキへ向かい、時計を確かめた。次の停車駅までは、あと5分だった。そこで降りよう。この旅行も、蓮との結婚の約束も、もうここで終わりにすればいい。……やがて新幹線が次の駅へ滑り込むと、私はスーツケースを引いてホームに降りた。背後でドアが閉まり、7月の熱気が押し寄せるホームから走り去る車両を見送った。窓の向こうでは、蓮と晴香がまだ楽しそうに話していた。私がいなくなったことに、2人とも気づいていない。駅の窓口で南汐市(みなみしおし)へ戻る切符を買い、自宅へ着いた頃には、外はすっかり暗くなっていた。ほどなくしてスマホにビデオ通話がかかってきた。画面には、蓮と晴香の顔が並んでいた。「杏奈、どこにいるの?目的地に着いてから、杏奈がいないことに気づいたんだよ」私
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