共有

彼の記憶に、私はいなかった
彼の記憶に、私はいなかった
作者: シュアン

第1話

作者: シュアン
私、宮瀬杏奈(みやせ あんな)は、結婚を控えた彼氏の黒川蓮(くろかわ れん)と、結婚式で使う写真を撮るための旅行へ出かけた。

ところが新幹線に乗り込むと、蓮の隣には私の親友、早川晴香(はやかわ はるか)が座っていた。

3人分の切符はあったものの、指定席が取れていたのは2席だけで、連休中の自由席も満席に近かった。

結局、私はデッキで立ったまま過ごすことになったが、蓮は悪びれもせず、軽い調子で口を開いた。

「ごめん。乗る直前になって、杏奈の席を取ってないことに気づいたんだ。そのときにはもう満席でさ。俺が忘れっぽいのは知ってるだろ?次からは杏奈も、ちゃんと確認してくれよ」

晴香は「忘れっぽいにもほどがある」と呆れたように蓮の肩をたたいた。

「毎回じゃないって。晴香が窓側の席を好きなのは、ちゃんと覚えてただろ」

こんなやり取りは、これまでにも何度となく繰り返されてきた。

蓮が私の予定や好みを忘れても「忘れっぽいから」で済まされるのに、私が何度も念を押して確認しなければ、忘れたことまでいつの間にか私の落ち度にされてしまう。

しかも蓮は、晴香がマンゴーにアレルギーがあることも、一度聞いただけのお気に入りのカフェも、窓側の席を好むことも覚えていた。

その一方で、私にも同じアレルギーがあることも、何度も行きたいと話した店も、以前痛めた脚のせいで長く立っていられないことも、蓮は忘れていた。

蓮の記憶から抜け落ちるのは、いつも私に関することばかりだった。

私はスーツケースを引いてデッキへ向かい、時計を確かめた。次の停車駅までは、あと5分だった。

そこで降りよう。

この旅行も、蓮との結婚の約束も、もうここで終わりにすればいい。

……

やがて新幹線が次の駅へ滑り込むと、私はスーツケースを引いてホームに降りた。

背後でドアが閉まり、7月の熱気が押し寄せるホームから走り去る車両を見送った。窓の向こうでは、蓮と晴香がまだ楽しそうに話していた。

私がいなくなったことに、2人とも気づいていない。

駅の窓口で南汐市(みなみしおし)へ戻る切符を買い、自宅へ着いた頃には、外はすっかり暗くなっていた。

ほどなくしてスマホにビデオ通話がかかってきた。画面には、蓮と晴香の顔が並んでいた。

「杏奈、どこにいるの?目的地に着いてから、杏奈がいないことに気づいたんだよ」

私が途中で降りたことに、2人は目的地へ着くまで気づかなかったらしい。

「何も言わずに降りるなんて、どういうつもりだ?」

「蓮が杏奈の指定席を取らなかったせいでしょう。まず謝りなよ」

蓮は眉を寄せて私を責め、晴香に肩を小突かれると、その手を押し返した。

「俺は忘れっぽいんだから仕方ないだろ。晴香だって杏奈の親友なんだから、予約するときに確認してくれてもよかったじゃないか」

やがて2人は、私を置き去りにしたまま、画面の中でふざけ合い始めた。

私はソファに座り、揺れる映像と途切れ途切れの笑い声を黙って眺めていた。

どうして降りたのか、何時に家へ着いたのか、今どんな気持ちなのか――2人は何一つ尋ねない。

蓮は結婚を控えた恋人で、晴香は私の親友だった。

それなのに、私は2人の間に入り込む余地もなかった。

「もう怒るな。明日の新幹線のチケットを取り直すから、こっちへ来い。前撮りは予定どおりやる」

蓮は一方的にそう告げた。私が断ろうと口を開いたものの、彼はすでに晴香のほうを向いており、通話が切れる直前には彼女の声が聞こえた。

「ねえ、どうしてダブルベッドの部屋を1室しか取ってないの?杏奈の部屋は?」

「晴香は広いベッドじゃないと眠れないって、前に言ってただろ」

指定席だけではなかった。蓮はホテルを予約するときでさえ、私がどこで眠るのか考えていなかった。通話が終わると、今度は晴香からメッセージが届いた。

【杏奈、部屋を取り直すのはもったいないから、今夜は蓮と同じ部屋に泊まるね】

【杏奈が来るまで、蓮のことは私がちゃんと見ておくから安心してね】

その文面を見つめているうちに、乾いた笑いが漏れた。「見ておく」という言葉で正当化される越権行為には、もうとうにうんざりしていた。

その夜、私は会社から打診されていた北澄市(きたすみし)支社への長期派遣を引き受けると連絡した。

出発は1週間後。昇進につながる大きな機会だと聞きながら、これまで返事を保留にしていたのは、蓮や晴香と離れることをためらっていたからだ。

これからも3人で南汐市に暮らしていこうと、以前から話していた。けれど、その約束の中に、私の居場所は初めからなかったのかもしれない。

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

最新チャプター

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第8話

    それから、陸は折に触れて食事へ誘ってくれるようになった。美術館や書店を巡ったり、静かなカフェでそれぞれ好きな本を読みながら一日を過ごしたりと、時間に追われず、のんびりと過ごすことを好む陸の感覚は、私にもよく合った。ただ、一つだけ気がかりだったのは蓮の存在だ。彼は南汐市へ戻らず、北澄市のホテルに滞在したまま、数日に一度は会社の前で私を待っていた。最初のうちは帰るように言っていたが、何を伝えても聞こうとしないため、やがて相手にするのをやめた。ある日の昼休み、外へ出ると玄関脇の植え込みに人影が見えた。今日も蓮だと思い、私はため息をついた。「蓮、何度言えば分かるの?私はもう……」そう声をかけたところで、その人影が晴香だと気づいた。「杏奈。少しだけ話せない?話が終わったら、すぐ帰るから」私はその場に立ったまま、晴香を見つめた。5歳で出会ってから26歳になるまでの21年間、私たちは同じ幼稚園に通い、一緒に遊んで、学校の裏門から抜け出してアイスを買った。私が泣けば晴香は飴を分けてくれ、彼女が仲間外れにされたときは私が隣に立った。そうしてともに大人になり、やがて同じ人を好きになった。「近くにカフェがあるから、そこで話そう」店の隅の席に座ると、晴香はうつむいたままスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、私に尋ねた。「元気そうだね。前より顔色もいいし、少しふっくらした?」「うん。北澄市の食事が合ってるみたい」小さくうなずいた晴香は、しばらく黙り込んだ。顔を上げたときには、目の縁がすでに赤くなっていた。「蓮に、もう会わないって言われた。杏奈に、ずっと言えなかったことがあるの。私、蓮のことが好きだった。杏奈より先に」カップに添えていた指がわずかに止まったが、私は何も言わずに続きを待った。「その頃は、蓮とまともに話したこともなかった。でも、蓮が杏奈と付き合い始めて、杏奈を見る目だけがほかの人と違うことに気づいた。うらやましかったし、それ以上に、嫉妬してた」晴香は震える声で、2人が付き合い始めてから、少しでも蓮に自分を見てもらいたくて、わざと距離を縮めたり、杏奈より先に頼ったりしていたと打ち明けた。最低なことだと分かっていたし、親友を裏切っている自覚もあった。それでも、蓮の中に少しでも自分の居場所があると思いたくて

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第7話

    北澄市での生活は、想像していたよりも穏やかだった。こちらへ来て半月が過ぎ、両親には無事を知らせる電話をしたものの、それ以外の連絡にはほとんど返事をしていなかった。晴香からたくさんメッセージが届いたが、【過去のすべてを捨てるつもり?】という短い一文を最後に、それ以上新しいメッセージが届くことはなかった。新しい上司は、40代の女性支店長、佐々木真理子(ささき まりこ)だった。判断が早く仕事には厳しい一方、慣れない土地で働き始めた私を何かと気遣ってくれた。北澄市へ来て1週間ほど経った頃、歓迎会で同僚たちが恋愛の話を始め、私も話の流れで別れたばかりだと打ち明けた。真理子は一瞬だけ言葉を止めたあと、励ますように私の肩を軽くたたいた。「いい人は、ほかにもたくさんいるわ。私が探してあげる」慰めるための冗談だと思っていた。ところが金曜日の午後、執務室へ呼ばれると、真理子は笑顔で1枚の名刺を差し出した。そこには、高城陸(たかしろ りく)という名前と、建築士の肩書が記されていた。「昔からの友人の息子さんなの。見た目も悪くないし、誠実な人よ。今度の週末、一度だけ食事をしてみない?紹介された人と会うくらいの気持ちでいいから」せっかくの気遣いを断りきれず、私は一度会ってみることにした。土曜日の午後、約束したカフェへ向かうと、陸は窓際の席で待っていた。私に気づくと立ち上がり、軽く手を上げた。初めて顔を合わせた瞬間、思わず見入ってしまった。蓮も整った顔立ちだったが、陸にはそれとは違う、人を安心させるような穏やかさがあった。大学で学んだことや仕事、好きな旅行先、子どもの頃に飼っていた動物のことまで、2時間近く話しても話題は尽きなかった。陸が誠実で話しやすい人だということも、自然と伝わってきた。カフェを出たあと、近くの美術館で開かれている展示を一緒に見ることになった。並んで通りを歩き、交差点に差しかかったところで、私は思わず足を止めた。視線の先には蓮がいた。こちらに気づいた彼もその場で動きを止め、かすかに唇を動かした。「杏奈……」「知り合い?」陸が低い声で尋ねた。私が答えるより早く、蓮が大股で近づいて腕をつかもうとしたため、一歩身を引いてその手をかわした。「杏奈、ずっと探してた。共通の知人や勤務先を何度も当たって、よ

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第6話

    担当者の言葉を聞いた瞬間、蓮は何も考えられなくなった。「長期派遣……?北澄市のどこですか?」「申し訳ありませんが、詳しい配属先についてはお答えできません」「いつ戻る予定なんですか?」電話の向こうで、相手は少し間を置いた。「長期派遣のため、現時点では帰任時期は決まっておりません」相手は落ち着いた声で答えた。通話が切れても、蓮は耳鳴りのような低い音を聞きながら、しばらくリビングに立ち尽くしていた。杏奈は本当に出ていった。もう自分を待つつもりなどないのだ。そのときスマホが震えた。杏奈かと思って画面へ飛びついたものの、表示されていたのは晴香の名前だった。電話に出ても、蓮は何も言えなかった。「蓮?杏奈に会えた?もう怒ってない?」喉が張りついたように声が出ず、蓮がようやく絞り出したのは、「杏奈は行った」その一言だけだった。「行ったって、どこへ?」「長期派遣だ」「今回は、本気だった」力なく天井を仰いだ蓮の声に、電話の向こうは数秒間静まり返った。やがて晴香が、焦った声で尋ねてきた。「いつ戻るの?ちゃんと話したの?誤解は解けた?」「戻らない。杏奈は、普段は何も言わずに受け入れてくれる。でも、一度見切りをつけたら、もう戻らない」胸の奥をえぐられるような痛みに耐えながら、蓮は力なく笑った。「指輪を手放したときに、気づくべきだった」「蓮、私……」その先を聞く気力は残っておらず、蓮は「もう休め」とだけ告げて通話を切った。その夜、蓮はソファから動けないまま、杏奈と撮ったわずかな写真や、プロポーズしたときの動画を何度も見返した。画面を追うたびに当時の記憶は鮮明によみがえるのに、その隣にいた杏奈はもう戻ってこない。……晴香が家へ入った瞬間、鼻をつく酒の匂いに足を止めた。床には空き缶や瓶が散らばり、その中に座り込んだ蓮が、血の気のない顔で虚ろに前を見つめていた。「何してるの?どれだけ飲んだの。立って」慌てて駆け寄り、腕を取ろうとした晴香の手を、蓮は荒々しく振り払った。驚いて息をのんだ彼女は、行き場を失った手を胸元へ引き寄せた。蓮はゆっくりと顔を上げた。虚ろな目の奥には、苦い後悔がにじんでいた。「俺、何をしてたんだろうな。恋人の杏奈より、どうして晴香を優先してたんだ」

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第5話

    私は、病室にいる3人を振り返ることなく、その場を離れた。廊下へ出ると、すぐ後ろから慌ただしい足音が迫り、「杏奈!」と呼ぶ蓮の声が響いた。振り向く間もなく手首を強くつかまれ、その勢いで体が後ろへ引かれた。痛む手首へ目を落とす私を、息を切らした蓮が苛立ちをにじませながら問い詰めた。「いつまでこんなことを続けるつもりだ?母さんにブレスレットまで返して、本当に俺と別れるつもりなのか?」私はゆっくり振り向き、「蓮、私だって痛いんだよ」と告げて、その手を振りほどいた。手首には赤い指の跡がくっきりと残っていた。「蓮にとって、私はいつも晴香より後回しだった。私がけがをしても覚えていないし、何にアレルギーがあるのかも、記念日も、何度伝えても忘れる。でも、晴香が一度言った好きなものは覚えていて、食べられないものを一覧にし、生理の時期まで覚えている。蓮は忘れっぽいけれど、覚えられないわけじゃない。私のことを、覚えようとしなかっただけ」蓮の顔から血の気が引き、一歩こちらへ踏み出した。「違う……」その一言が、かすれた声でこぼれ落ちた。そのとき看護師が廊下へ飛び出してきた。「黒川さん、早川さんが急に意識を失いました。すぐに来てください」蓮は私と病室を見比べ、迷った末に病室へ向き直った。「この話は、あとでちゃんとする。先に家へ帰って待っていてくれ」私は晴香のもとへ駆け戻る蓮の背中を見送り、そのまま病院を出た。自宅へ戻ってまとめてあった荷物を持ち出すと、タクシーで空港へ向かった。……蓮が看護師と病室へ戻ったとき、晴香はすでに意識を取り戻していた。彼女は蓮の後ろに視線を向け、杏奈がいないと分かるなり目を潤ませた。「杏奈は?追いかけたんでしょう?何て言ってたの?」ベッド脇へ寄った蓮が乱れた布団を直そうとすると、晴香はその手を払いのけた。「杏奈に会えたの?早く教えてよ」そう問い詰められても、蓮は答えられずに黙り込んだ。杏奈に告げられた言葉の一つ一つが、今になって胸の奥へ突き刺さっていた。「話はあとでするから、家で待っていてくれって」数秒間呆然とした晴香は、やがて蓮の袖をつかんだ。「じゃあ、こんなところにいないで早く帰ってよ。杏奈がこのまま私と二度と話してくれなくなったら、蓮のこと、絶対に許さな

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第4話

    店員は指輪の箱と私の顔を見比べ、事情を察したように表情を改めると、そっと箱を受け取った。「かしこまりました。保証書と商品情報を確認いたしますので、少々お待ちください」歩き出しかけていた蓮の足が止まり、振り返った顔には、初めてはっきりと動揺が浮かんでいた。「杏奈、どういう意味だ?」ここ数日、胸の奥へ押し込めてきた思いがあふれ、目の奥が熱くなった。「私…… もう蓮と結婚したくない」それだけ告げて店を出ると、背後から晴香の弱々しい声が追いかけてきた。「早く杏奈を追いかけて。杏奈は私の一番大切な親友なの。傷ついているところなんて見たくない」「なんで俺がそんなことしなきゃならないんだ。自分が悪いのに、勝手に怒っているだけだろ」蓮は苛立った声でそう言い返した。「晴香の傷のほうが大事だから、まずは病院へ行く。杏奈は結婚式のためにあれだけ準備してきたのだから、本気で取りやめるはずがない。俺を困らせたいだけだ」蓮はそう決めつけ、晴香を連れて遠ざかっていった。私はその背中を見送り、小さく笑った。結婚式のために私がどれほど心を砕いてきたか、蓮は分かっていた。それでも、その思いを踏みにじって構わないと思っていたのだ。それから2日間、蓮からは1件の連絡もなかった。私と冷戦しているつもりなのか、それとも別れを告げられたことさえ忘れてしまったのかもしれない。代わりに目に入ったのは、晴香のSNS投稿だった。写真には食べてはいけないものや体調管理の注意点が一覧にまとめられ、すべて蓮の手書きだった。【一度しか話してないのに、全部覚えてたんだけど。記憶力よすぎてびっくり】その写真を見つめているうちに、去年の冬、胃腸炎で病院へ行った日のことを思い出した。数日間は消化のよいものだけを食べるようにと言われた夜、私は蓮に温かいスープが飲みたいと頼んだ。ところが届いたのは、香辛料の効いた濃厚なカレースープだった。刺激の強いものを避けるよう医師に言われていたことも、胃の痛みでほとんど食べられなかったことも、蓮は忘れていた。私は画面を閉じ、晴香の投稿から目をそらした。荷物をまとめ終えた頃には、もう夕方になっていた。そのときスマホが鳴り、画面に蓮の母である黒川美智子(くろかわ みちこ)の名前が表示された。「杏奈さん、今、少し

  • 彼の記憶に、私はいなかった   第3話

    2日後、私は異動を前に最後の引き継ぎ作業を進めていた。すると、いつものように晴香が席までやってきて、親しげに私の腕に絡みついた。「杏奈、今回の企画も私を共同担当にしてくれるよね?私たち親友でしょう。杏奈の仕事は、私の仕事でもあるでしょう。今度、私に大きな案件が来たら、そのときは杏奈もチームに入れるから」大学卒業後、同じ会社に入った晴香を、私はこれまで何度も企画チームに加えてきた。実務の大半を私が担った案件でも、彼女が共同担当として評価されるようにしてきたが、今回はもう助けるつもりはなかった。曖昧な返事をして晴香を帰らせると、引き継ぎ表には彼女を後任担当者として記入し、最終報告書の作成も任せることにした。私が北澄市へ異動したあと、この企画を最後までまとめるのは晴香自身だ。しばらくして、結婚式場の担当者から電話がかかってきた。「宮瀬様、本日午後2時から挙式リハーサルの予定でしたが、お二人ともまだお見えになっていません。日程を変更なさいますか?」スマホを握り直して深く息を吸い、「もう必要ありません。式場の予約を取り消してください」と伝えた。担当者からキャンセル料と今後の手続きについて説明を受け、すべて了承したうえで、そのまま取り消しを進めてもらった。通話を終えて左手の薬指へ目を落とすと、結婚式をしない以上、婚約指輪を持ち続ける意味もないように思えた。帰宅後、保証書と購入時の書類をそろえ、買い取りを依頼するためにジュエリーショップへ向かった。店へ入ると、ショーケースの前に見慣れた2人の背中があった。蓮は店員から受け取ったエメラルドの指輪を、晴香の薬指にはめていた。「これ、旅行中に晴香が気に入ってたものに似てるだろ?」晴香は手を照明へかざし、うれしそうに笑った。「覚えてたの?私はもう忘れてたのに。蓮も本気だね。杏奈と結婚するために、親友の私まで買収するつもり?」蓮も笑いながら、晴香に頼んだ。「だから晴香には最後まで協力してもらわないと困る。式の日も杏奈のことをちゃんと見ていてくれよ。俺がまた杏奈を気にかけていないと思われたら困るから」「任せて。蓮がまた杏奈を怒らせたら、私が仲直りさせてあげる」私は少し離れた場所で、その会話を聞いていた。婚約者の親友の薬指に指輪をはめながら、すべて私のためだと言い張る2

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status