私は何も言わず、バッグにいつも入れていた睡眠薬を1錠ずつ口に押し込んだ。姉の篠宮千夏(しのみや ちなつ)はそれに気づかず、玲司と莉央のことを話し続けていた。「玲司が、澪が死のうとするたびに、どうしてあれほど取り乱すのか知ってる?本当に怖いのは、莉央まで澪のあとを追うことなの。慌てるのも当然でしょう?それに、玲司1人で律の面倒を見られると本気で思ってたの?律の母親代わりは、もうとっくに莉央よ。初めて覚えた言葉だって、莉央に向かって『ママ』だったんだから」私は感覚が麻痺したように、その言葉を聞いていた。苦い錠剤が喉に張りついた。ふと、以前、周囲の人たちが話していたことを思い出した。「御影社長は父親役も母親役も1人でこなしてるのに、篠宮さんは子どもを産んだくらいで産後うつなんて。大げさにもほどがあるわ」「親友が手を貸してくれなかったら、御影社長のほうが先に参ってたでしょうね」……莉央は、とっくに私に代わって律の母親になっていたのだ。「澪!」次の瞬間、披露宴会場の壇上にいた玲司がこちらを振り向いた。異変に気づくと、反射的に壇上から駆け下り、私に薬を吐き出させようとした。「澪、説明させてくれ。お前が思っているようなことじゃない……」玲司の目は真っ赤だった。私は糸の切れた人形のように床へ崩れ落ち、口から唾液に濡れた錠剤を吐き出した。ウェディングドレス姿の莉央が、疲れ切ったような顔で私を見下ろしていた。「澪の産後うつのせいで、玲司はこれまで一度もまともな結婚式を挙げられなかったの。玲司は一度くらい、ちゃんと新郎として式に立ってみたかっただけ。だから私が花嫁役を引き受けてあげたの。それくらいの自由も許せないの?これ以上、騒ぎを起こさないで。お願いだから」私は拳を強く握りしめた。胸の内が一気にかき乱された。恐怖で体が震え始めると、私は反射的に頓服の抗不安薬を探した。いつもならすぐに薬を渡してくれる玲司が、この時だけは動かなかった。その視線は、切り傷から血をにじませている莉央の腕に釘づけになっていた。うまく息ができず、胸が締めつけられた。その時、玲司のスマートフォンが突然鳴った。律を見ているベビーシッターの三浦(みうら)さんからだった。玲司の顔色が変わった。「律が熱を
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