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第4話

作者: マリモ
何度も体当たりし、ようやくドアをこじ開けると、玲司は隣の寝室で倒れた莉央に付き添っていた。

玲司は私を見ると、口元をほんのわずかに緩めた。

私がようやく謝る気になり、別れを切り出したことも後悔した――そう思ったのだろう。

けれど、その期待に応えるつもりはなかった。

私は玲司の脇をすり抜け、莉央へ歩み寄った。

「律はどこ?」

声が震えていた。

莉央の目が、わずかに泳いだ。

「どうして急にそんなことを聞くの?律なら、三浦さんが寝かしつけてくれてるわ」

玲司は莉央をかばうように、その前へ立ちはだかった。

目には苛立ちが浮かんでいる。

「莉央を倒れるまで追い詰めて、まだ足りないのか?今度は何をするつもりだ。

いい加減、芝居はやめろ。お前がいつ律のことを気にかけた?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

まさか、玲司の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。

けれど今は、傷ついている場合ではない。

手首のスマートウォッチは、鳴りやむことなく警告音を発していた。

律の身に、何かが起きている。

心臓が激しく脈打った。気づけば、私は莉央の襟元をつかんでいた。

「律をどこへやったの?」

莉央は何も知らないという顔で首を振った。

ところが次の瞬間、私の腕を引き寄せ、耳元で低くささやいた。

「あの子がいるから、何もかもおかしくなったの。

玲司がこのまま苦しみ続けるのを、私は見ていられない。澪だって、本当はそうでしょう?」

そう言うと、莉央はスマートフォンを操作した。

画面に映し出されたのは、裏庭のプールを映す防犯カメラの映像だった。

3歳の律が、水面に浮かんでは沈んでいる。

小さな手足を必死に動かし、もがき続けていた。

一気に血の気が引いた。

気づいた時には、私は莉央の首をつかみ、指に力を込めていた。

「律を返して!」

もみ合ううち、口の中を切ったのか、唇の端から血が流れ、鼻血まで出た。

周囲の人々が息をのんだ。

玲司はその場に立ち尽くし、驚いた目で私を見ていた。

「どういうことだ……」

私にだけは分かっていた。

大量に飲んだ睡眠薬が回り、意識が遠のき始めている。

私は平然と手の甲で顔の血をぬぐった。

たとえ母親でいられる時間があとわずかでも、律だけは守らなければならない。

足をもつれさせながらプールへ向かおうとすると、玲司が前に立ちはだかり、私を押し戻した。

「莉央にあれだけのことをして、逃げるつもりか?今すぐ謝れ!」

千夏も私の前を塞ぎ、失望をあらわにした。

「莉央が澪と律のために、どれだけ尽くしてきたと思ってるの?こんな目に遭わせておいて、謝りもしないつもり?」

私は唇を強く噛みしめ、何も答えなかった。

無理にでも2人の間を通り抜けようとした瞬間、玲司が後ろから私を羽交い締めにした。

振りほどこうとしたが、大量に飲んだ睡眠薬がすでに回っていて、体に力が入らない。

私はそのまま玲司の腕の中に崩れ落ちた。

床に落ちた莉央のスマートフォンの画面には、律がゆっくりとプールの底へ沈んでいく姿が映っていた。

やがて、水面は何事もなかったかのように静まり返った。

耳元で、千夏の声が響いた。

「玲司、主治医に相談して、澪にはしばらく精神科で入院治療を受けてもらいましょう。そのほうが、みんなのためよ。

そうすれば、玲司と莉央も誰に隠すことなく一緒にいられるでしょう?」

玲司は何も答えなかった。

私がいつもの発作で気を失っただけだと思ったのだろう。

玲司は黙ったまま、私を抱き上げて部屋へ運んだ。

見慣れたベッドに横たえられ、私はゆっくりと目を閉じた。

口元からこぼれた血が、白いシーツを赤く染めていく。

それが、この家に残る私の最後の跡になるような気がした。

その後、玲司は莉央に付き添って病院へ行ったものの、花束を抱えて家へ戻ってきた。

「澪」

2度名前を呼んでも、返事はなかった。

そして寝室のドアを開けた瞬間、玲司は大きく目を見開いた。

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