《妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました》全部章節:第 1 章 - 第 10 章

17 章節

第1話 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言った日

 「お姉様の仕事くらい、私にもできますわ」 その言葉は、王宮南棟にある白薔薇の控えの間に、ひどく甘やかな声で落とされた。 夜会の開始まで、あと半刻。 窓の外では、招待客の馬車が次々と正門をくぐっていた。王宮楽団の調律の音が遠くから聞こえ、廊下を行き交う侍従や女官たちの靴音は、いつもより半拍だけ速い。 そんな中で、クラリス・フォン・エルディアは、銀灰色の睫毛を静かに伏せ、手元の書類から顔を上げた。 机の上には、今夜使う資料が整然と並べられている。 王妃主催慈善園遊会の招待客名簿。 ノルヴァルト公国大使夫妻の席次表。 神殿寄付金配分案。 王太子ジュリアス殿下の挨拶文の修正案。 そして、今夜の夜会で不用意に隣席にしてはならない貴族夫人たちの一覧。 どれも、表から見ればただの紙である。 けれど、そこに一つ線を引き間違えれば、侯爵家と伯爵家の十年来の確執が再燃する。菓子を一つ出し間違えれば、隣国大使に侮辱と受け取られる。王太子殿下の挨拶文に不用意な一語を残せば、神殿と軍部が同時に眉をひそめる。 王宮とは、絹と薔薇と音楽で飾られた、硝子細工のような場所だ。 美しく見えるのは、誰かが割れ目を毎朝、指先で押さえているからにすぎない。 そして、ここ十年近く、その指先の役を担ってきたのがクラリスだった。 彼女の前に立っているのは、妹のミレーヌ・フォン・エルディア。 淡い金髪を花冠のように結い上げ、薄桃色のドレスをまとった、誰が見ても愛らしい令嬢だった。青い瞳は潤みやすく、笑えば周囲の大人たちはすぐに頬を緩める。 その隣には、アルヴィア王国の王太子、ジュリアス・ヴァレンティアがいた。 金髪碧眼。 民衆の前に立てば、それだけで歓声が上がるほど、王子らしい王子である。 だが、クラリスは知っている。 彼が式典で柔らかな言葉を選べるのは、前夜にクラリスが三度、挨拶文を書き直しているからだ。 彼が貴族夫人の前で失言せずに済んでいるのは、会う前に「その夫人の次男は昨年落馬で亡くなっているので、狩猟の話題は避けること」と書き添えている者がいるからだ。 彼が国民から好かれる王太子でいられるのは、失敗しそうな場所に、あらかじめ柔らかな絨毯を敷いている者がいるからだ。 それを、ジュリアス本人はあまり知らない。 知らなくても済むようにしてきたのが、クラリス
last update最後更新 : 2026-08-09
閱讀更多

第2話 王宮の朝会が始まりません

  アルヴィア王宮の朝は、鐘の音から始まる。 一の鐘で侍従が廊下を開け、二の鐘で女官たちが各室の燭台を消し、三の鐘で政務院の文官が東棟へ集まる。 そして四の鐘が鳴る頃、王族と重臣たちは朝会の間へ入る。 その流れは、十年近く乱れたことがなかった。 少なくとも、表向きは。「……進行表がない?」 朝会の間の端で、王宮書記官オスカー・ベルンは、眼鏡の奥の目を細めた。 目の前には、文官補佐の青年がいる。 顔色が悪い。「はい。いつもの机にも、控えの棚にも、書記官室にもございません」「昨日の夜、クラリス様が残された正式文書は?」「ございます。こちらに」 差し出された書類を受け取り、オスカーは一枚目に視線を走らせた。 招集者一覧。 出席予定者。 議題候補。 それだけだった。「……候補」 オスカーは、思わず呟いた。「候補、か」 文官補佐が不安そうに尋ねる。「あの、何か問題が?」「問題しかありません」 正式文書としては、これで正しい。 誰が来るか。 何を話すか。 どの案件が本日扱われる可能性があるか。 それは書いてある。 だが、朝会に必要なのは、それだけではない。 どの議題を先に出すか。 誰の発言を先に拾うか。 どの案件は国王の前で決め、どの案件は後日協議に回すか。 誰と誰を同時に発言させてはいけないか。 どの言葉を使うと財務卿が反発し、どの表現なら軍部が引くか。 そういう、正式文書に残らないものが必要だった。 クラリス・フォン・エルディアは、それを毎朝作っていた。 しかも、誰にも命じられずに。 オスカーは書類を閉じた。「胃薬を」「はい?」「いえ、何でもありません。財務卿は?」「すでにお着きです」「軍務局長は?」「お着きです」「大神殿の代理司祭は」「……お着きです」 終わった。 オスカーは心の中で、静かにそう思った。 今日の議題には、慈善事業の寄付金配分、北方街道の補修費、軍部の冬季備蓄、ノルヴァルト公国使節団への返礼品、王妃主催園遊会の人員配置が入っている。 財務卿は出費を嫌う。 軍務局長は冬支度を急いでいる。 神殿は孤児院への寄付を待っている。 ノルヴァルト公国は礼を欠けばすぐに冷える。 王妃執務院は人手が足りない。 本来なら、最初に軽い外交案件を置いて空気を整え、次に神殿
last update最後更新 : 2026-08-09
閱讀更多

第3話 隣国大使は甘い菓子がお嫌いです

 王宮の茶会は、戦場である。 ただし、剣は抜かれない。 血も流れない。 代わりに、微笑みが交わされる。 扇の角度、椅子の位置、菓子皿の並び、紅茶を注ぐ順番、相手のドレスの色を褒めるか褒めないか。 それら一つ一つが、時に剣より深く人を傷つける。 クラリス・フォン・エルディアは、それを知っていた。 だから茶会の前には、必ず三種類の表を作っていた。 一つ目は、招待客の席次表。 二つ目は、食べ物や花、色に関する禁忌一覧。 三つ目は、絶対に隣席にしてはならない人物の組み合わせ。 その三つがあれば、茶会はまず大きく崩れない。 逆に言えば、その三つがなければ、王宮の茶会など花と砂糖で飾った罠の庭に等しい。「まあ、綺麗なお部屋ですこと」 ミレーヌ・フォン・エルディアは、王宮西棟の陽光の間に入るなり、明るい声を上げた。 高い窓から午後の光が差し込み、白い卓布の上で銀器が輝いている。壁際には淡い桃色の薔薇が飾られ、菓子台には焼き菓子、砂糖菓子、果実のコンポートが宝石のように並んでいた。 見た目だけなら、完璧な茶会である。 ミレーヌは少しだけ胸を撫で下ろした。 朝会は大変だった。 難しい言葉が多く、誰も彼もが険しい顔をして、何を決めたいのか分かりづらかった。 けれど、茶会なら違う。 笑顔で挨拶をする。 美しい花を褒める。 菓子を勧める。 楽しい話をする。 それなら、自分にもできる。 姉のように、難しい顔で書類を見つめなくてもいい。「ミレーヌ様」 背後から声がした。 振り返ると、女官長マルタ・リードが立っている。
last update最後更新 : 2026-08-10
閱讀更多

第4話 私は初めて、何もしない朝を迎えました

朝になっても、誰もクラリスを起こしに来なかった。  それが、まずおかしかった。  クラリス・フォン・エルディアは、寝台の上で目を開けたまま、天蓋の刺繍をしばらく見つめていた。  白い絹地に、銀糸で月桂樹の葉が縫い取られている。幼い頃から見慣れた、自分の部屋の天蓋だった。  エルディア公爵家の別邸。  王宮ではない。  王太子の控え室でも、王妃執務院の仮眠室でも、慈善園遊会の準備部屋でもない。  だから当然、朝の報告は来ない。  王太子殿下の挨拶文を直してください、という書記官も来ない。  財務卿がまた寄付金配分を渋っています、という文官も来ない。  ローゼン侯爵夫人が本日の席次に不満を持っています、という女官も来ない。  大使夫人へ贈る花の色を確認してください、という侍従も来ない。  それなのに、クラリスは起き上がろうとしていた。  寝台から足を下ろし、反射的に卓上へ視線を向ける。  そこには、何も置かれていなかった。  書類もない。  封蝋もない。  緊急印の押された王宮封筒もない。  ただ、昨夜イリスが置いてくれた水差しと、まだ半分ほど水の残ったグラスがあるだけだった。 「……何もないのね」  呟いた声は、自分でも少し間が抜けて聞こえた。  その時、扉が控えめに叩かれた。 「お嬢様。お目覚めでございますか」 「ええ」  入ってきたのは、侍女のイリスだった。  淡い灰色の侍女服に身を包み、いつものように表情は薄い。けれど、手にしている盆の上には書類ではなく、温かい茶と焼きたての小さなパンが乗っていた。  クラリスはそれを見て、少しだけ目を瞬かせる。 「朝食?」 「はい」 「ここで?」 「はい」 「先に執務室へ行かなくても?」 「行かなくて結構でございます」  イリスは盆を置き、カーテンを開けた。  朝の光が、部屋の中へ柔らかく広がる。  王宮の朝日はいつも、硝子窓を通して硬く差し込んでいた。誰かの足音と鐘の音と、急ぎの用件が一緒に流れ込んでくる光だった。  けれど今朝の光は違う。  庭の葉を透かし、白い壁にゆっくりと揺れている。  まるで、急ぐ必要などないと言っているようだった。 「本日のご予定をお伝えいたします」  イリスが言った。  クラリスは反射的に姿勢を正した。 「お願い
last update最後更新 : 2026-08-11
閱讀更多

第5話 王弟殿下は、私の仕事を知っていた

「君が王宮で何をしていたか、知っているからだ」 レオンハルト・ヴァレンティアは、そう言った。 応接室の空気が、ほんの少し変わった。 風が入ったわけではない。 茶器が鳴ったわけでもない。 ただ、クラリスの胸の奥で、長く閉じていた扉が不意に叩かれたような気がした。 知っている。 その言葉は、軽く使えるものではない。 王宮には、クラリスを褒める者ならいた。 優秀だ。 頼りになる。 さすが未来の王太子妃だ。 君に任せておけば安心だ。 けれど、そのほとんどは、彼女が何をしているのかを知らないまま発せられていた。 結果だけを見て、便利だと言っていたにすぎない。 失敗しなかった。 揉めなかった。 予定どおり終わった。 だから、クラリスは優秀。 それは評価のようで、評価ではなかった。 なぜ失敗しなかったのか。 誰が揉める前に止めたのか。 予定どおりに終わるため、いくつの予定外を潰したのか。 そこまで見ていた者は、ほとんどいない。「殿下は」 クラリスは、慎重に言葉を選んだ。「わたくしの何をご存じなのでしょうか」 レオンハルトは、茶にはまだ手をつけていない。 王族らしい優雅な姿勢で座っているが、その目だけは政務室の机に向かう時のように真剣だった。「では、具体的に話そう」 彼は、提案書の端に指を置いた。「三年前、ノルヴァルト公国の先代大使が初めて王宮晩餐会に出席した時、厨房は鹿肉を主菜にする予定だった」 クラリスの指先が、わずかに動いた。「その時、君は直前で主菜を鴨に変えさせた。理由は、先代大使の長男が狩猟事故で亡くなって
last update最後更新 : 2026-08-12
閱讀更多

第6話 戻ってこいと言われましても

「それは、少しではありません」 クラリスの声は、静かだった。 怒鳴ったわけではない。 責め立てたわけでもない。 ただ、事実を机の上へ置いた。 それだけで、ミレーヌは言葉を失った。 応接室に沈黙が落ちる。 窓の外では、庭の噴水が涼しげな音を立てていた。 けれど室内の空気は、まるで冬の朝のように張りつめている。 ジュリアス・ヴァレンティアは、不機嫌そうに眉を寄せた。「クラリス。今は言葉遊びをしている場合ではない」「言葉遊びではございません」 クラリスは、まっすぐ王太子を見た。「ミレーヌが“少し”とおっしゃったものは、すべて王宮の実務でございます」「だから、それを教えろと言っている」「殿下」 クラリスは一呼吸置いた。「わたくしは、すでに王太子妃候補ではございません」 ジュリアスの顔が強張る。 昨日、自分が告げたことだ。 けれど彼は、その意味をまだ理解していない。 婚約を白紙に戻す。 王太子妃候補ではなくなる。 王宮の役目から外れる。 それは、都合の悪い責任だけを残せる言葉ではない。「王太子妃候補ではなくとも、君はエルディア公爵家の令嬢だ。王家に仕える義務がある」「エルディア公爵家は王家に忠誠を誓っております。ですが、令嬢個人の無償労働まで含まれるとは存じませんでした」「無償労働だと?」 ジュリアスの声が低くなる。「君は、そのように考えていたのか。王太子妃になるための務めを」「王太子妃になる未来が消えましたので」 クラリスは微笑んだ。
last update最後更新 : 2026-08-13
閱讀更多

第7話 無償で働く令嬢は、もうおりません

国王からの召喚状は、重かった。 紙の厚みではない。 封蝋に押された王家の紋章でもない。 その文面が、あまりにも整っていたからだ。 クラリス・フォン・エルディア殿。 王宮執務に関する協議のため、明日午前、王宮西棟小会議室へ出席を求める。 同席者は、国王アレクシス・ヴァレンティア、王弟レオンハルト・ヴァレンティア、王宮書記官オスカー・ベルン、王妃執務院女官長マルタ・リード。 王太子ジュリアス・ヴァレンティアは、協議の公平性を保つため同席させない。 最後の一文を読んだ時、クラリスは思わず指を止めた。 王太子殿下を同席させない。 つまり、国王は分かっている。 ジュリアスがいれば、これは協議ではなく、命令と感情のぶつかり合いになると。「陛下は、ずいぶん早くご判断なさいましたね」 クラリスがそう言うと、向かいに座っていたレオンハルトは小さく肩をすくめた。「王宮が三日で止まったからな。父上も、さすがに悠長にはしていられない」「殿下は、厳しい言い方をなさいますね」「兄上に似て甘い言葉を選ぶよりはましだろう」 その言い方があまりに淡々としていたので、クラリスは少しだけ笑いそうになった。 笑わなかった。 今笑えば、緊張が解けてしまいそうだったから。 イリスは、国王の召喚状を横から見ていた。「お嬢様」「何?」「明日の服装は、戦装束でよろしいですね」「交渉に行くだけよ」「交渉は戦でございます」 レオンハルトが、そこで初めて小さく笑った。「良い侍女だ」「恐れ入ります、王弟殿下」 イリスは何事もなかったよ
last update最後更新 : 2026-08-14
閱讀更多

第8話 奪われたのは婚約者ではなく、私を縛っていた鎖でした

任命式の朝、王宮の空はよく晴れていた。 雲一つない青空。 王宮の尖塔は朝日に照らされ、白い壁はいつもより眩しく見える。 以前のクラリスなら、その天気を見て最初に考えたのは、庭園を使う式典の動線だった。 日差しが強いなら、大使夫人の席を少し内側へ移すべきか。 風があるなら、書類を押さえる文鎮を増やすべきか。 招待客の馬車が詰まらないよう、北門を開けるべきか。 けれど今朝、彼女が最初に思ったのは違った。 晴れてよかった。 ただ、それだけだった。「お嬢様」 背後でイリスが声をかける。「本日は、いえ、本日からは“クラリス顧問”とお呼びした方がよろしいでしょうか」「やめて」「では、王宮臨時顧問閣下」「イリス」「失礼いたしました。少し浮かれております」 顔はまったく浮かれていない。 だが、付き合いの長いクラリスには分かる。 イリスは、かなり機嫌がいい。 濃紺のドレスに、銀糸で控えめな刺繍が施されている。派手さはないが、王宮の大理石の床を歩いても沈まないだけの格がある。 髪はきっちり結い上げ、首元には小さな菫色の石。 婚約を失った令嬢の装いではない。 王宮と交渉し、条件を勝ち取った者の装いだった。「お嬢様。お顔色は?」「悪くないと思うわ」「では、そのように見えるよう、少しだけ頬紅を」「必要?」「必要です。昨日まで王宮が胃痛と混乱で崩れかけていたことを思えば、お嬢様だけでも健康そうに見えていただかねば」「私だけでも?」「はい。書記官室はおそらく全滅しております」
last update最後更新 : 2026-08-15
閱讀更多

第9話 王宮臨時顧問、初出勤いたします

王宮西棟の一室に、新しい札が置かれていた。 白木に金の縁取り。 文字は黒。 余計な装飾はない。 そこには、こう刻まれている。 王宮臨時顧問 クラリス・フォン・エルディア クラリスは、その札の前でしばらく立ち止まった。 王宮の机に、自分の名が置かれている。 そんなことは初めてではない。 王太子妃候補として使っていた控えの机にも、彼女の名を示す小さな札はあった。 だが、あれは名札に近かった。 誰の席かを示すだけのもの。 今、目の前にある札は違う。 これは、役職を示している。 この机に座る者が、何の権限を持ち、何を担い、どこまで責任を負うのか。 それを王宮が認めた証だった。「お嬢様」 背後でイリスが声をかける。「はい」「触ってみますか」「子どもではないわ」「では、私が触っても?」「なぜあなたが?」「記念に」 クラリスは振り返った。 イリスはいつもどおり無表情だが、目だけが少し楽しそうだった。「浮かれているの?」「はい」「正直ね」「お嬢様が、ようやく王宮の備品から人間になられましたので」「その表現、昨日も似たようなことを言っていたわ」「何度でも申し上げます。大事なことですので」 クラリスは、小さく息を吐いた。 叱る気にはならなかった。 イリスはこの札を、自分以上に喜んでいるのかもしれない。 この十年、隣で見ていたのだ。 クラリスが正式な席もなく、権限もなく、ただ責任だけを背負って
last update最後更新 : 2026-08-16
閱讀更多

第10話 帳簿は、誰よりも正直です

帳簿は、嘘をつかない。 クラリスはそう思っている。 もちろん、帳簿に嘘を書く人間はいる。数字をずらす者もいるし、名目を変える者もいる。必要な支出に見せかけて、別の場所へ金を流す者もいる。 けれど、帳簿そのものは正直だ。 嘘をつかされた帳簿ほど、どこかに歪みが出る。 行間。 日付。 署名。 印の角度。 毎年少しずつ変わる単価。 不自然に繰り返される商会名。 そういうものを、帳簿は黙って差し出してくる。 読める者が読むかどうかは、別として。「……クラリス顧問」 向かいの席で、オスカーが帳簿をめくりながら言った。「はい」「これは、朝から見る量ではありませんね」「では、昼からならよろしいですか」「昼からでも重いです」「夜よりはましでしょう」「夜に見るつもりだったのですか」 オスカーの目が真剣になった。 クラリスは視線を逸らした。「仮定の話です」「イリス嬢に報告します」「それはやめてください」 王宮臨時顧問室の丸卓には、慈善事業関連の帳簿が並んでいた。 王宮分。 神殿経由分。 貴族家からの寄付分。 商会の見積もり控え。 納入記録。 支払い承認書。 以前なら、クラリスはこれらを一人で黙々と読んでいた。 だが今日は違う。 オスカーが隣にいる。 イリスが少し離れた場所で茶を管理している。 さらに、王弟府から派遣された若い補佐官が、年度別に資料を並べ替えている。 一人ではない。
last update最後更新 : 2026-08-17
閱讀更多
上一章
12
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status