私が「わかった」と言うと、元司は明らかにほっとした。そしてすぐに、一枚のリストを差し出してきた。「怜菜が今夜から主寝室を使う。先に自分の荷物をまとめてくれ」私はそのリストを見つめた。胃の奥が、何度もきゅっと締めつけられるようだ。あの新居の頭金を出したのは私だ。内装だって、私が一つひとつ絵を描いて決めた。私は尋ねた。「どうして私が出ていかなければならないの?」元司は私の目を見ようとしなかった。「怜菜はつわりがひどいんだ。主寝室のほうが洗面所に近い。ゲストルームは狭すぎるし、妊婦が過ごすには向いてない。そのうち、もっといいマンションを用意するから」あまりにも当たり前のように言った。まるで、私が譲るのは当然だと言わんばかりに。もう手放すと決めたはずなのに、それでも、そんな言葉を聞けば胸の奥がずきりと痛んだ。私はスーツケースを引きながら、新居へ荷物を取りに行った。暗証番号式の鍵を開けようと、いつもの癖で自分の誕生日を入力した。けれど、【暗証番号が違います】と表示された。中から元司がドアを開けた。私は玄関の靴箱に貼られた暗証番号のメモを見た。そこに書かれているのは、怜菜の誕生日だ。玄関には、怜菜のためのマタニティサンダルが置かれている。冷蔵庫に貼ってあった、もともとのハネムーンの予定表はなくなっていた。代わりに貼られているのは、怜菜が食べてはいけないものをまとめたメモだ。主寝室の前まで歩いた。足に鉛でも詰め込まれたかのように、重い。ナイトテーブルから、私と元司の旅行記念写真がなくなっていた。その代わりに置かれているのは、ぼやけた妊婦健診のエコー写真だ。ファミリークロゼットへ入った。元々ウェディングドレスを置くはずだった場所が、ぽっかりと空いてしまった。すぐにウェディングドレス店へ電話をかけた。店員は言った。「鷹見様より、真栄城様のサイズに合わせてドレスを仕立て直すようご依頼をいただいております」私は電話を切り、振り返って元司を見た。「このウェディングドレスは、私が3か月かけて自分でデザイン画を描いたものよ。どうして勝手に直させるの?」彼の目に一瞬、ばつの悪そうな色が浮かんだ。そして私のところへ歩み寄り、手を取ろうとした。「杏樹、怜菜は一度
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