「−1,042円」 その数字を、私は三度見した。 マイナス。赤字。 画面の光が、暗い電車の中で私の顔を照らしている。周囲の乗客は、誰も私を見ていない。みんな、自分のスマホに夢中だ。 数日前までは、まだギリギリプラスだったはずだ。確か、2,000円くらいは残っていた。 朝のコンビニで買った108円のおにぎりが、最後の一押しだったのかもしれない。 ツナマヨ。私の好物。それが、口座をマイナスに突き落とした。 笑えない。全然笑えない。 私の名前は天道美咲。 まもなくアラサーに突入する、中小企業につとめるしがない会社員。 朝の通勤電車は、いつものように混んでいた。スーツ姿のサラリーマンたちに押されながら、私は吊り革にしがみついている。 電車の中で項垂れる私の横では、制服姿の女子高生がイヤホンをつけて、スマホでSNSを眺めていた。 画面が、ちらりと見えた。「秒で億り人になれる方法。これが最後の募集」「貯金ゼロだったシンママが副業で月収100万♡」「新NISAで成功! 毎月5万円の配当生活」 派手なサムネイルが、次々とスクロールされていく。 私は思わず目を背けた。胃の奥が、きゅっと締め付けられる。 ——私はそれを、信じた側だった。 ◇ あのときのアカウントは、完璧だった。 アイコンは清楚な女性の横顔。女性限定の副業情報を紹介していて、DMで相談したら、ものすごく丁寧に返してくれた。「最初は自己投資が大事ですよ」 「私も最初は不安でした」 優しい言葉と、成功体験のスクショの山。 信じた。やっと人生が変わると思った。 そして、教材費と称して50万円を振り込んだ。 50万円。私の貯金の、ほとんど全部だった。 送られてきたのは、ネットで拾ったようなPDF資料と、今はもう繋がらないLINEアカウント。 どこかで見たことのある無料noteの内容に、「月収100万」とか「再現性あり!」とか、色だけ変えて上書きしただけのクズ情報。 ——騙された。その事実を認めるまで、一週間かかった。 それでも諦めきれず、次に参加したのが「新NISA活用セミナー」だった。 会場にはスーツ姿の男たちと、明らかに"勧誘されてきた"ような女性たち。 まあ私も、そんなバカな女の一人だったわけだけど。 紹介された投資先は、何をどう見ても新
Last Updated : 2026-08-26 Read more