親友と別れ、私はそのまま例のレストランへ向かった。店に入ってすぐ、窓際の席で楽しそうに話している二人が目に入った。航は体を少し傾け、向かいに座る女の子と話している。「来週の印象派美術展、もうチケット取ってあるよ。この前見たいって言ってたモネの作品も来るらしい」水野茜(みずの あかね)は私の視線に気づくと、笑いながらフォークの柄で航の腕をつついた。航も茜の視線を追って顔を上げる。私を見つけた瞬間、あれほど楽しそうだった笑顔が消え、眉間に深いしわが寄った。航は立ち上がると、足早にこちらへやってきた。声には露骨な苛立ちがにじんでいる。「尾行してきたのか?忙しくて無理だって言っただろ。わざわざここまで来て何がしたいんだよ。茜とは大事な話があるんだ。今日は帰ってくれ。こんなところで騒いで恥をかかせるな。記念日は仕事が落ち着いたら埋め合わせする。今日は適当に何か食べて帰れ」私が何か言うより先に、航は背を向けて席へ戻っていった。「茜、この店ならキャラメルプリンが有名らしいよ。この前、甘いもの好きって言ってただろ。食べてみる?」私はその場に立ち尽くし、頭を寄せ合ってメニューを眺める二人を見つめた。気づけば、バッグの中の書類を強く握りしめていた。紙の角が手のひらに食い込んで痛い。私は口元を歪め、乾いた笑いをこぼしながら首を振った。せめて今日くらいは、きれいに終われると思っていた。八年間の恋に、ちゃんと別れを告げられると思っていた。まさか航には、取り繕う気すらないなんて。ただでさえ重かった気分につられるように、体までどっと重くなる。これ以上考えるのも嫌になり、私は背を向けて、あらかじめ予約していた席へ向かった。そして、好きな料理を好きなだけ注文した。航と一緒にいるとき、私はいつも自分の好みを後回しにしていた。航はパクチーが嫌い、辛いものも苦手、甘すぎるものも食べない。私は八年間、全部覚えていた。けれど以前、私の好きな食べ物を聞いてみたとき、航は散々考えた末にこう言った。「お前って、何でも食べるよな」茜が好きなイチゴ味のキャンディーも、ドライマンゴーも、甘さ控えめのタピオカ入りミルクティーも、航は一つ残らず覚えているのに。だから今日は、私が好きで、航が嫌いなものを片っ端から頼んだ。たっぷり唐辛
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