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第8章

Author: ベリーラディッシュ
「いま私、幸せなの。毎日、人の命を救って。同じ志を持つ仲間たちに囲まれて。もう誰かの好みに合わせる必要もないし、誰かの顔色をうかがって生きる必要もない。

航。私、もうあなたのこと好きじゃないの」

その言葉を聞いた瞬間、航の体から、最後に残っていた力まで抜け落ちたようだった。

がっくりとうなだれ、顔を涙で濡らしながら、それでも必死に言葉を重ねる。

「……いいんだ。大丈夫だよ、優奈。俺、待つから。いつかお前が帰りたいって思ったときまで、ずっと待ってる。俺はここにいるから」

もうそんな後悔の言葉を聞く気にはなれなかった。私は立ち上がり、そのままカフェのドアを押し開けた。

あの日から、航は活動拠点の近くに残った。

小さな部屋を借り、毎日のように医療チームの拠点までやってくる。

朝食を届けたり、水を持ってきたり、医療機材を運ぶのを手伝ったりもした。

茜とはもう完全に縁を切ったという。

国内にあった2軒の家も売り払い、もう戻るつもりはないらしい。

自分が変わったことを証明するように、メッセージも次々と届いた。

私は一度も返事をしなかった。

その言葉は風のようにスマホへ流れ
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  • あなたのいない季節を生きていく   第8章

    「いま私、幸せなの。毎日、人の命を救って。同じ志を持つ仲間たちに囲まれて。もう誰かの好みに合わせる必要もないし、誰かの顔色をうかがって生きる必要もない。航。私、もうあなたのこと好きじゃないの」その言葉を聞いた瞬間、航の体から、最後に残っていた力まで抜け落ちたようだった。がっくりとうなだれ、顔を涙で濡らしながら、それでも必死に言葉を重ねる。「……いいんだ。大丈夫だよ、優奈。俺、待つから。いつかお前が帰りたいって思ったときまで、ずっと待ってる。俺はここにいるから」もうそんな後悔の言葉を聞く気にはなれなかった。私は立ち上がり、そのままカフェのドアを押し開けた。あの日から、航は活動拠点の近くに残った。小さな部屋を借り、毎日のように医療チームの拠点までやってくる。朝食を届けたり、水を持ってきたり、医療機材を運ぶのを手伝ったりもした。茜とはもう完全に縁を切ったという。国内にあった2軒の家も売り払い、もう戻るつもりはないらしい。自分が変わったことを証明するように、メッセージも次々と届いた。私は一度も返事をしなかった。その言葉は風のようにスマホへ流れ込み、やがて埃のように、何の痕跡も残さず積もっていった。私は変わらず決まった時間に働き、手術をした。仲間たちと巡回診療へ向かい、一緒に夕日を眺めた。航はまだ、過去の中でもがいている。でも私はもう、ずっと先を見ていた。それからさらに1年、再び雨季が訪れた頃、医療支援チームでの任期が終わった。私は荷物をまとめ、母国へ帰る準備をしていた。そのことを知った航は、朝早くから活動拠点の入り口で待っていた。手には、私が昔から好きだった白いバラの花束。花びらには、まだ雨粒が残っている。「優奈、俺も一緒に帰国する。今はまだ俺に会いたくないのも分かってる。いいんだ。待つから。いつか許してもいいと思えたとき、そのときにまた会いに行く」私は航の持つ白いバラを見て、静かに首を横に振った。「航、もうやめて。次の医療支援にも参加することにしたの。私はあと2年ここに残る」航の手から花束が落ちた。ぽとりと地面に落ちた白いバラはばらばらに崩れ、雨に打たれて見る影もなく濡れていく。航は信じられないものを見るように、私を見つめた。「どうして?あとどれくらいここにいるつも

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