私・早瀬芽依(はやせ めい)の出国前最後の食事は、親友の松岡結菜(まつおか ゆいな)と一緒だった。「時間が経つのって本当に早いね。前にこの店に来たのは、芽依の彼氏が告白を計画してた時だっけ……」結菜は言いかけて、何かを思い出したように言葉を止めた。しばらく黙り込んでから、小さな声で聞いてきた。「芽依、本当に別れたの?あんた、あいつのこと丸ごと10年も好きだったじゃない」私はきゅうりの酢の物を箸でつまんだ。酢が効きすぎていて、酸っぱさに舌がひりついた。別れた?まあ、そういうことになるんだろう。実際のところ、黒瀬蓮(くろせ れん)と私の間に「別れよう」なんてセリフはなかったし、儀式めいたお別れの挨拶もなかった。ただ、日常となりつつあった冷戦の末、お互いに「これもいつもの喧嘩だろう」と、当たり前のように思い込んでいたに過ぎない。しかし、今回は違った。そのまま、続きはなかった。私たちはそれぞれの生活を続けた。相変わらずご飯を食べて、勉強をして。ただ、お互いに連絡を取らなくなっただけ。……それが、私たちが辿り着いた「別れ」の形だったのだろう。店員が使い終わった皿を下げてから、テーブルの上に焦げ跡が小さく残っているのが見えた。それを眺めていて、箸を動かすのを忘れていた。2年前、同じこの店で、蓮は私の友人を全員集めて、大掛かりな告白を計画した。彼は自分の体を特大の着ぐるみに押し込んで、ハート型の風船を大きな束で抱えながら、そっと私の前まで運んできた。風船の紐の先には、値の張るブレスレットと、1万字にも及ぶラブレターが結びつけられていた。後から蓮が言うには、着ぐるみの中に隠れたのは、もし告白が失敗した時のためだったらしい。あの着ぐるみの中でなら、誰にも見られずに泣けるから、と。けれど、まさか私が頷くとは思っていなかったようだ。彼は嬉しさのあまり、私を抱き上げてくるくると回り、その拍子にテーブルの上の飾り用のキャンドルを倒して、テーブルの端を少し焦がしてしまった。あの時、蓮は店主の桑原丈治(くわばら じょうじ)に頭を下げて謝り、弁償を申し出た。丈治は、蓮が私の手をしっかりと握っているのを見て、気前よく手を振った。「弁償はいらないよ。でも兄ちゃん、付き合うからにはちゃんと大事にし
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