「結衣、今日の弁当は少し味が薄かったけど、全部食べたよ」翔太の声が、スマホのスピーカーから聞こえてくる。私は帰りのタクシーの座席に座り、手にはまだあの薄っぺらい検査結果の紙を握りしめていた。「そう」私は静かに口を開く。「塩が少なかったのかもしれない」「いいんだ、薄味の方がいい。医者にも今は薄味の食事にするように言われてるしね」彼は少し言葉を区切り、仕方がないといった口調で続けた。「こっちの療養所は管理が厳しすぎて、テレビすらないんだ。毎日散歩して、あとはぼーっとしてるだけだよ。でも、俺たちのこれからの子供のためだと思えば、耐えられる気がする」私はスマホの画面上で、彼の現在地を示す青い点を見つめていた。それは相変わらず、「ルナ産後ケアセンター」の座標に留まっている。私の今の位置から、車でわずか10分の距離だ。「あとどれくらいそこにいるの?」と私は尋ねた。「あと7日だよ」翔太は即答した。「7日後には退院する。ちょうど結婚式のリハーサルに間に合うよ。最近は結婚の準備ばかりさせて苦労をかけてるね。帰ったら、絶対に埋め合わせをするから」彼の声は、ひどく誠実に聞こえた。もしつい先ほど、彼があの赤ん坊を抱きかかえている姿をこの目で見ていなければ、感動して涙を流していたかもしれない。「わかったわ」私は言った。「待ってる」通話を終えると、運転手がルームミラー越しに私をちらりと見た。「お客さん、どちらまで?」「家へ」私は住所を告げた。玄関のドアを押し開けると、リビングには大小さまざまな段ボール箱が積み上げられていた。掃き出し窓には結婚を祝う飾りが貼られ、ローテーブルの上には書きかけの招待状が散らばっている。ここは、私たちが6年間共に暮らしてきた場所だ。ソファのクッションは彼が選び、壁の絵は私が選んだものだ。私はローテーブルの前に歩み寄り、招待状を1通手に取った。そこにはこう印刷されている。【瀬崎翔太・森本結衣 共に歩む、永遠の誓い】招待状を開き、中に書かれた彼の手書きの文字を見つめた。とても丁寧に書かれている。結婚は一生に一度のことだから、招待状は手書きでなければ誠意が伝わらないと、彼は言っていた。私は招待状を置き、今日買ったばかりのあのベ
Magbasa pa