キッチンでは、北斗の好物であるしじみ汁が、小鍋の中でことことと温められていた。菜箸を握ったまま、私の視線は調理台に置いたスマホの画面に釘付けになっていた。グループチャットでは冷やかしの声が絶えない。同級生たちはこぞって北斗と朋美をメンションし、【早くごちそうしろ!】と囃し立てている。朋美は照れたようなスタンプを送信した。その下には【運命の二人だな】と感嘆するメッセージが続いた。北斗はグループチャット内で自ら否定することはなかった。代わりに、私との個別トーク画面に通知が届いた。【毎日顔を合わせる仲なんだし、俺が否定したら朋美のメンツが丸潰れになる。お前も大人になって、いちいち拗ねるなよ】スマホの画面を長いこと見つめ、私はコンロの火を消した。胸の奥がツンと痛み、息苦しくなる。あの熱々だったしじみ汁がすっかり冷め切ってしまっても、北斗が帰ってくる気配はなかった。壁の時計は午前3時を指していた。スマホがブブッと一度震えた。一通のメッセージだ。送信元は間違いなく北斗の番号だったが、その文面は彼のものではなかった。【北斗ったら酔っ払って、抱きついて全然離してくれないの。今夜は私が面倒を見るから、安心してね】私はすぐに電話をかけた。呼び出し音が一度鳴っただけで、相手に切られてしまった。再びかけ直すと、すでに電源が切られていた。翌朝の早朝、ドアの鍵がカチャリと回った。ドアが押し開けられる。朋美が北斗を支えながら入ってきた。北斗は彼女の肩にもたれかかり、目をうっすらと閉じている。朋美はドアのそばに立つ私を見ると、口元に笑みを浮かべた。彼女は私を避けることなく、あろうことか私の目の前で、乱れた北斗のシャツの襟元を直すように手を伸ばした。そのわざとらしい仕草で、襟ぐりがわずかに引き下げられる。露わになった彼の首筋には、くっきりと生々しいキスマークが残っていた。ひどく目に刺さる。朋美は声を潜めて口を開いた。「昨夜、北斗がどうしてもって暴れて聞かないから、ベッドで休ませるのに一苦労だったわ。この人、胃が弱いから、早く何か温かいものを作ってあげて」そう言い残すと、彼女は北斗の体を私に預け、背を向けて去っていった。私は北斗を支えてソファに座らせ、キッチンから温め直したしじみ汁を運ん
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