INICIAR SESIÓN大学の同級生グループチャットで、匿名の暴露話が流行り出した。ルールは、ある人物の特徴を描写し、それが誰かをみんなで当てるというものだ。 誰かがこんなメッセージを送信した。【大学1年の新入生歓迎フェスで司会を務めた、クール系イケメン】 話題は瞬時に私の彼氏、九条北斗(くじょう ほくと)に絞られた。 続いて、その匿名の人物は爆弾発言を連発する。 【左の肩甲骨に火傷の跡がある。ある女子を熱湯から庇ってできたものだ】 【酔うと甘えん坊になって、ベタベタくっついてはハグをせがんでくる】 皆は騒然となり、次々と北斗をメンションして【本当なの?】と問い詰めた。 北斗は呆れたようなスタンプを送信した。【誰だよ、暇なやつ。でたらめ言うな】 しかし匿名の人物はさらに図に乗って送信した。【彼の背中には隠しタトゥーがある。アルファベットのTだ】 これにはグループチャットも蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。なぜなら、クラスのマドンナの名前が橘朋美(たちばな ともみ)だからだ。 タイミングを見計らったように、朋美が本アカウントでメッセージを送ってきた。【もうみんな、からかわないで。北斗が怒っちゃうから】 北斗は怒るどころか、私に個人メッセージを送ってきた。【同級生同士の冗談だから、本気にしないで】 私は呆然と北斗のアイコンを見つめていた。 彼の背中にある「T」は、そもそも彼が私を引っ張って彫りに行ったものだった。 「T」は私の名前である高梨紬希(たかなし つむぎ)のイニシャルで、私を一生守るために体に刻むのだと彼は言っていた。 今になってようやく分かった。あれは彼が他の女のために体に刻んだ証だったのだ。 私たちの秘密の交際は2年になり、彼はいつも「大学を卒業したら公表しよう」と言っていた。 だけど今回は、もう無理に求めるのはやめようと決めた。
Ver másこれで、すべてが終わったわけではない。私は分厚く束ねた告発資料を、母校の学術委員会、ならびにS市とW市の彫刻家協会へ実名で直接提出した。資料の中には、あの意図的な傷害事件の監視カメラ映像だけでなく、最も致命的で決定的な証拠も同封してある。朋美を無事に卒業させたあの半身像の彫刻――全体の骨格から作品の纏う気品に至るまで、すべて私がアトリエのゴミ箱に捨てたデッサンの盗作だという動かぬ証拠。彼女が誇らしげに出展していた数々の粘土彫刻も例外ではない。削り出された彫り跡の一つひとつに、私の原稿の面影が克明に刻み込まれていた。わずか3日後、調査結果が公表された。処分を告げる公式文書が、大学の公式サイトのトップページに掲示された。朋美の学位は正式に取り消され、業界団体からは追放処分が下り、彼女はアート界から永久に締め出された。ギャラリーからも多額の違約金で提訴され、朋美は完全に発狂した。彼女は北斗の滞在先であるホテルまで押しかけ、エントランスに土下座をして助けを乞うた。だが、北斗は無表情に彼女を見下ろすだけだった。その瞳には、深い嫌悪しか宿っていない。彼は冷淡な声でロビーの支配人に告げた。「この汚らわしいゴミを叩き出せ。ここが汚れる」駆けつけた数人の警備員が朋美の腕を両脇から強引に掴み上げ、そのまま路傍の泥水の中へと放り投げた。北斗はきびすを返し、雨の中へと歩き出した。そのままS市で最も寂れた路地裏にある、地下のタトゥースタジオへと向かう。錆びついたドアを押し開けると、彼は上着を脱ぎ捨て、みすぼらしいレザーチェアにうつ伏せになった。背中に彫られた黒い「T」の文字を指差し、彫り師に向かって口を開いた。「この文字を、跡形もなく消し去ってくれ」彫り師が麻酔の準備をしようとするのを、北斗は手で制した。「麻酔はいらない。このままやってくれ」処置が始まると、焼き付くような激痛が背中を貫いた。麻酔なしの痛みに、彼の筋肉は激しく痙攣した。彼は一本のタオルを噛み締め、額に青筋を浮き出させて耐え抜く。裏切りの証を消し去るため、彼はその過酷な痛みを、自らへの罰のようにただ耐え続けた。処置が終わった後、背中にはあの文字の代わりに、痛々しく生々しい傷痕だけが残されていた。その日の夜。S市美術館の最上階に
朋美は一瞬言葉を失い、その瞳に明らかな動揺を走らせた。だが必死で平静を装い、声を張り上げる。「どうやってって、あなたが誰かの恨みでも買って、仕返しされたに決まってるじゃない!」私は彼女の言い逃れを意に介さず、振り返ってバッグからタブレット端末を取り出した。画面を操作し、再生された動画を彼女と北斗の目の前へと突きつける。それは、復元された大学のアトリエ棟の防犯カメラ映像だった。当時、アトリエ棟の監視カメラはずっと故障したまま放置されていた。湊真がトップクラスの技術者を探し出し、半月かけてすべてのデータを復元してくれたものだった。画面に映し出された映像は、極めて鮮明だった。廊下の奥、給湯室の死角――そこには、私に隠れて密会していた北斗と朋美の姿が映っていた。大学2年の時、イラストコンペの結果が発表され、私が唯一の推薦枠を勝ち取った日のことだった。朋美は北斗の服の裾にしがみつき、ふたりは薄暗がりで激しく揉み合っていた。そこへ、廊下の向こうから私が歩いてきた。私の姿に気づいた朋美の顔に、見るに堪えない嫉妬と悪意が歪むように浮かんだ。彼女は台にあった、熱湯で満たされた大ぶりのマグカップをひったくり、私を狙って死角から飛び出そうとした。私に見つかるのを恐れた北斗が慌ててその場を離れようと、死角から身を乗り出した、まさにその瞬間だった。朋美は私に向けて熱湯をぶちまけようと腕を突き出し――飛び出してきた北斗と衝突しそうになり、咄嗟に彼を前へと力任せに突き飛ばした。その反動で、熱湯はすべて、前によろめいた北斗の背中へとまともに浴びせられた。偶然の事故などではない。悪意に満ちた傷害行為だった。私は映像を一時停止した。そして、すでに顔面蒼白になっている北斗へと冷たい視線を向ける。「北斗。自分がその時、そこで何をしていたか、よく見たらどう?」北斗はずっと、私の命の恩人を気取ってきた。あの火傷の痕を盾にして、私が抱え込んだ罪悪感からくる献身を、さも当然のように享受し続けていた。この2年間、彼が朋美を露骨にひいきし、私に惨めな思いをさせても耐え忍んできたのは、かつて彼が言ってくれた、「紬希、怖がるな。俺がお前を守るから」という言葉があったからこそだった。だが今、白日の下に晒された真実が、彼が身に
夕暮れ時、S市は激しい土砂降りになった。個展が終わる頃には、美術館の外にはいくつもの水たまりができていた。湊真は、黒い大きな長傘を広げた。彼は傘を私の方へ傾け、濡れないように差し掛けてくれた。自分自身の右半身はずぶ濡れになっているというのに、まったく意に介していない。ガラスの扉を抜けた先、雨の中に北斗が立っていた。頭の先からつま先まで雨に打たれ、髪が額にへばりついている。彼は傘もささず、その手にはクラフト紙に包まれた何かを大切そうに抱えていた。私の姿を見るなり、すかさず歩み寄ってくる。顎の先から、雨水が絶え間なく滴り落ちていた。彼は手にしたクラフト紙の袋を私に差し出した。「紬希、これ……焼き栗だよ。ずっと並んで、やっと買えたんだ。まだ温かい」大学1年の頃と同じ哀れみを誘うやり方で、私から同情を引き出そうとしているのだ。私は、寒さで紫色に変色した彼の唇を冷ややかな目で見つめた。湊真は足を止め、私を庇うようにして水たまりを迂回した。私は北斗に一瞥もくれることなく、湊真が開けてくれたドアからまっすぐ車内に乗り込んだ。黒いセダンが発進する。水たまりを踏んだタイヤが泥水を跳ね上げ、北斗のズボンの裾を汚した。バックミラー越しに見る彼は、それでも頑なにあの焼き栗の袋を抱きしめたまま、微動だにせずその場に立ち尽くしていた。翌日の早朝。湊真の運転する車で、私は自分のアトリエへと向かった。車が敷地のゲートをくぐり抜けた、その直後だった。道端から不意に人影が飛び出し、車の前に立ちはだかった。湊真が急ブレーキを踏み込む。タイヤが路面と擦れ、けたたましいスキール音を響かせた。北斗だった。両目は真っ赤に血走り、目の下にはどす黒い隈がくっきりと浮かんでいる。彼はふらつく足取りで助手席側に近づき、窓ガラスをバンバンと力任せに叩いた。私がパワーウィンドウを下ろした。すると北斗は、すかさずポケットから赤いベルベットの小箱を取り出した。パチンと蓋を開ける。そこには、私が捨てたはずのあのペアリングが並んでいた。彼は両手で小箱を捧げ持ち、膝の力を抜いて今にも地面に崩れ落ちそうになっていた。その掠れた声には、すがりつくような嗚咽が混じっている。「紬希、指輪、見つけてきたよ。もう一度だけチャンスをくれ。誓うよ
2年後。S市は相変わらず、雨が降り続いていた。私は美術館の休憩スペースに座り、温かいコーヒーの入ったカップを両手で包み込んでいた。個展の準備はすでに最終段階に入っている。これは、S市芸術大学を卒業してから初めて開く私自身の個展だった。展示室のちょうど中央には、今回のメインとなる作品「新生」が飾られている。その画風は鋭く冷ややかで、決意に満ちていた。かつて北斗の好みに迎合しようと、無理に描いていたような柔らかいタッチは、もう微塵も残っていない。神崎湊真(かんざき そうま)が資料を手に、私の方へ歩いてきた。彼は今回の個展のキュレーターであり、この2年間を共に過ごしてきた、私の恋人でもある。物腰が柔らかく知的な彼は、仕事となれば一切の妥協を許さないプロフェッショナルだが、二人きりになると、惜しみない愛情と甘やかしのすべてを私だけに注いでくれる。湊真は私の隣のソファに腰を下ろすと、私が持っていたコーヒーカップを極めて自然な動作で取り上げた。「少し冷めちゃったね。温かいのに替えてくるよ」私は微笑みながら、彼の服の裾をそっと引いた。「このままでいいよ。ちょうどいいから」彼はそのまま私の手を取り、親指の腹で手の甲を優しく撫でた。その瞳には、私への労わりと底なしの甘やかしが浮かんでいる。「今夜はメディアの取材も多い。疲れたらすぐに言ってね、僕がうまく対応するから」私は小さく頷き、彼が私の少し乱れた髪を整えてくれるのに身を任せた。その時、入り口から騒がしい足音が聞こえてきた。顔を上げると、スーツを着た一行が展示室へと入ってくるところだった。先頭を歩く男は、長身で体格が良い。彼の視線は室内を品定めするように巡り、最後に中央に飾られた「新生」でピタリと止まった。北斗だった。彼も彫刻チームを率いてS市の展示会に来ており、偶然にも私の個展会場へと足を踏み入れたらしい。2年ぶりに見る彼は、ひどく痩せこけていた。その眉間には、拭い去れない濃い陰鬱さが深く刻まれている。彼はその絵を食い入るように見つめ、瞳の奥に驚愕の色を走らせた。そして、弾かれたように展示室内で何かを血眼で探し始めた。ちょうどその時、メディアの記者たちが一斉に私の方へと詰め寄り、フラッシュが次々と瞬いた。湊真はとっさに私の前へ立
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