私はローストビーフを悠斗の皿に戻した。どうして食べないのか、一言くらい聞いてくれると思っていたが、悠斗が私に声をかけることはなかった。顔を上げると、悠斗は莉奈と楽しそうに言い合いをしていた。二人は軽口を叩き合うのに夢中で、私のことなど眼中にないようだった。食事が終わると、莉奈は「お腹いっぱい」と言って、悠斗に会計を急かした。悠斗は呆れたようにため息をついた。「まったく、お前にはかなわないな」そう言いながらも、素直に伝票を手に取り、レジへ向かった。結局、誰も私にお腹いっぱいになったか聞いてくれなかった。レジでは、店員が期間限定の周年記念キャンペーンを案内していた。20万円分をチャージすると、今後の食事が半額になる会員カードがもらえるという。悠斗は迷わず20万円をチャージした。店員に登録する電話番号を聞かれると、ためらいもなく莉奈の番号を伝えた。そして発行された会員カードを真っ先に莉奈へ渡した。莉奈は嬉しそうにカードをバッグへしまった。悠斗が私の分も作ろうとしたとき、店員が申し訳なさそうに声をかけた。「申し訳ございません。キャンペーンは本日午後八時までとなっております。ただいま八時一分ですので……次回のキャンペーンまでお待ちいただければと思います」たった一分遅れただけで、もう間に合わないこともある。悠斗は振り返り、私の手を握った。「大丈夫だよ。今度来るときは莉奈のカードを借りればいいだろ?」私は何も言わず、そっと彼の手を振りほどいた。後回しにされることには慣れている。次のキャンペーンを待つことだって、別に難しくはない。でも付き合って二年。どうしていつも待たされるのは私なんだろう。レストランを出て、エルメスのブティックの前を通りかかったときだった。店内では、悠斗の母親がバッグを肩にかけ、鏡の前で品定めをしていた。それに気づいた悠斗は、それまで隣を歩いていた私からさりげなく離れ、莉奈の隣に並んだ。鏡越しに二人の姿を見つけた悠斗の母親は、嬉しそうに振り返った。「あら、また二人でデート?そろそろお嫁さんができるのかしら」悠斗は否定しなかった。莉奈も同じだった。この光景には見覚えがあった。初めて悠斗の実家を訪れた日も、彼の母親は莉奈の手を親しげに握り、こう言ったのだ。「
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