INICIAR SESIÓN友人たちとの食事会で、彼氏の高橋悠斗(たかはしゆうと)が私の大好物のローストビーフを取り分けてくれた。 私は思わず小皿を差し出した。 けれど悠斗は私の前を素通りし、親友の石川莉奈(いしかわりな)の皿に先にローストビーフをのせた。 莉奈は満足げに笑った。 「へえ、今日は気が利くじゃん」 悠斗は鼻で笑った。 「こうでもして機嫌取っとかないと、また俺たちを別れさせようとするだろ」 悠斗は二枚目のローストビーフを取ると、ようやく私の皿にのせた。 付き合い始めてからずっと、悠斗は何をするにも私より莉奈を優先してきた。 いつも後回しにされることには、もう慣れたつもりだった。 けれど今、目の前のローストビーフを見つめながら、ふと思った。 もう悠斗にとっての二番目でいるのは嫌だ。
Ver más莉奈は信じられないといった様子でしばらく黙り込んだ。「さっき飛行機を降りたんでしょ?私に会いに来てくれたんじゃないの?」悠斗はそれを否定し、皮肉っぽく笑った。「そっちにも病院くらいあるだろ。救急車だって呼べる。俺が行くよりそのほうが早い」「悠斗、どうしちゃったの?本当に苦しいんだよ……」悠斗は電話の向こうで泣く莉奈を、もう気にかけようとしなかった。そのまま迷わず電話を切った。なんだ。莉奈の頼みを断るのはこんなにも簡単なことだったのか。それなのに何年も、どうしてあんなにも夢中になって、莉奈の言いなりになっていたのだろう。颯太と付き合うようになって、私は誰かを待つことをやめた。颯太にとって私はいつだって一番大切な存在だからだ。何をするにもまず私のことを考えてくれる。誕生日もクリスマスも、どんな記念日も一緒に過ごしてくれる。颯太の友人たちはみんな私のことを知っている。両親の前でも堂々と私の手を握り、恋人だと紹介してくれた。ある日、颯太のお母さんからビデオ通話がかかってきた。そのとき颯太は、ちょうど私のためにステーキを切り分けてくれていた。颯太は少しも気にすることなく、お母さんと話しながら、手を止めずに肉を切り分けていた。私はなんだか恥ずかしくなって、慌てて颯太の腕を軽く押した。「お母さんとゆっくり話して。自分の分くらい、自分でできるから」けれど颯太は聞かず、私のお皿にきれいに切り分けたステーキをたっぷり盛ってくれた。「いいんだよ。うちの父さんも、母さんによくこうしてるから」画面の向こうで、お母さんが楽しそうに笑った。「いいのよ、やってもらいなさい。颯太、ちゃんときれいに盛りつけてあげるのよ」家族の前でさえ、颯太は私を大切にすることを少しも隠さなかった。その後、颯太は私を両親に紹介してくれた。私はお母さんが一番好きだという花を、花束にして持っていった。その日、お母さんはSNSに写真を投稿していた。写真には私が贈った花束が、高価そうな花瓶に大切に生けられていた。それを見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。番外編(悠斗の視点)そもそも悠斗が紗季と付き合い始めたのは、自分の意思からではなかった。莉奈は颯太が好きだった。だが颯太が好きなのは紗季だった。莉奈は颯太に紗季を諦めさ
投稿されたのは、私の後ろ姿を写した一枚の写真だけだった。それでもコメント欄にはたくさんの祝福の言葉が寄せられた。そしてその投稿は思いがけず悠斗の目にも留まった。悠斗と再会したのはある日の夕暮れ時だった。颯太とスーパーで食材を買い込み、夕食を作ろうと帰ってきたところだった。私たちは指を絡めて手をつないでいた。その姿を家の前で待っていた悠斗に見られたのだ。三か月ぶりに会った悠斗は、以前よりずいぶん痩せていて、どこかやつれて見えた。悠斗は目を伏せ、颯太とつないだ私の手をじっと見つめた。しばらくして、かすれた声で口を開いた。「少し、話せないか?」颯太は気を利かせて、二人きりにしてくれた。買い物袋を持ち、私の頬に軽くキスをする。「先に中に入ってるね。寒いから、早めに戻っておいで」私は微笑んだ。「うん」颯太が家に入ると、悠斗は口元をわずかにゆがめた。「あいつと付き合って、幸せか?」私は迷わずうなずいた。「もちろん幸せよ」その言葉を聞いた悠斗は、殴られたかのような表情を浮かべた。声には落胆と悔しさがにじんでいた。「俺たちの二年間は、あいつと過ごしたたった数か月にも負けるのか?」「悠斗、何が言いたいの?」「これからは莉奈とちゃんと距離を置く。だから、もう一度……」「無理だよ」私は最後まで聞かずに遮った。「紗季、俺がいったい何をしたっていうんだよ?こんなの不公平だろ。俺は浮気だってしてないし、お前を裏切るようなことは何もしてない」確かに悠斗は実際に一線を越えたわけではない。でもそれは悠斗にその気がなかったからじゃない。莉奈が悠斗を恋愛対象として見ていなかっただけだ。「悠斗、最初に私に告白したのって、莉奈に頼まれたからじゃないの?」その瞬間、悠斗の顔から血の気が引いた。それを見てようやくすべてがつながった。高校三年間、私はずっと悠斗に片思いしていた。そして大学に入ったある日、悠斗が私に好きだと言ってくれた。高校時代からずっと気になっていたのだと。あの日は人生で一番幸せな日だった。嬉しくて嬉しくて、その言葉に疑問を抱く余裕なんてなかった。何年も胸に秘めていた恋が、ようやく実ったのだ。舞い上がらずにいられるはずがない。付き合っていた二年間、私は片思いが実った幸せに浸ってい
莉奈はいつだって、何も知らなかったという顔をして、自分には何の責任もないかのように振る舞う。悠斗に特別扱いされることを楽しみ、悠斗もまた、喜んで莉奈の望みを叶えていた。二人は「ただの友達」という言葉を盾にして、誰にも文句を言わせなかった。苦しい思いをしていたのは私だけだった。莉奈は何か言おうと口を開いたが、結局何も言えなかった。私は呆然とする莉奈を見つめ、ずっと胸にしまっていた思いをすべて吐き出した。「どうして莉奈が欲しいものも、いらないものも、全部私が譲らなきゃいけないの?もう譲らないよ。颯太を好きなのは莉奈の自由。でも私が誰と仲良くするかは私の自由でしょ」昔の私は単純で、莉奈が本当に私を大切にしてくれていると信じていた。でもようやく本当の姿が見えた。二人の間に私が入り込むような関係は、もうとっくに終わりにしていた。レストランの入口で、颯太と一緒に帰ろうとしたときだった。悠斗が私の腕をつかんだ。その目には、妙な執念が宿っていた。「二人だけで話がしたい。これ以上、俺に余計なことをさせるなよ」悠斗は意味ありげに颯太へ視線を向けた。胸がひやりとした。悠斗なら本当に何かしかねない。裕福な家庭で何不自由なく育ち、昔から思いどおりにならないことが大嫌いな人だ。私の留学枠を一言で奪えたのだから、颯太に嫌がらせをすることだって簡単だろう。私は仕方なくうなずき、颯太には先に莉奈を大学まで送ってもらうことにした。私は悠斗の車に乗り込んだ。少し開けた窓から夜風が入り、車内にこもった熱気を逃がしていく。隣から悠斗の皮肉っぽい声が聞こえた。「お前が奨学金付きの留学枠を手に入れたって、さっき知ったよ。あいつが枠を譲ってくれたから、好きになったのか?」「颯太を好きになったかどうか、元彼の悠斗に報告する必要ある?」悠斗は大きく息を吸い、怒りを必死に抑えているようだった。「お前と莉奈が留学する間、向こうの住まいは俺が用意する。運転手も家政婦も手配してやる。ほかに欲しいものがあれば何でも言え。全部用意してやるから。誕生日のことは俺が悪かった。改めてちゃんと祝わせてくれ」私はようやく悠斗のほうを向いた。薄暗い車内でも、整った顔立ちははっきりと分かった。以前の私はこの人が本当に好きだった。悠斗が少しでも歩み寄ってくれ
悠斗は大股でこちらへ歩いてくると、私の隣の椅子を引き、遠慮なく腰を下ろした。そして顔をこちらに向け、皮肉っぽく笑った。「LINEは返さない、電話にも出ない。おまけにブロックまでして。それなのに、こいつとは楽しそうに食事してるんだな?」まるで私が悪いとでも言いたげな態度に、呆れて笑いそうになった。私は箸を置いた。すっかり食欲が失せてしまった。「もう別れたんだから、誰と食事しようが悠斗に報告する必要はないでしょ」悠斗はふっと笑ったが、その目は少しも笑っていなかった。「紗季、なるほどな。たかが留学の枠に、あんなに必死になってた理由が分かったよ。俺と別れたのも、こいつと一緒に海外に行くためだったのか?いつから俺を裏切ってたんだ?聞かせてくれよ」私が言い返そうとしたそのとき、莉奈も慌ててやってきて席に着いた。「悠斗、変な勘違いしないで。二人は絶対にそういう関係じゃないから」莉奈は焦ったように、それでいて優しい声でなだめた。ちょうどそこへ店員がやってきて、にこやかに二人へ声をかけた。「失礼いたします。お二人がご予約されたカップルコースですが、こちらのお席にお持ちしてもよろしいでしょうか?」その瞬間、場の空気が凍りついた。私は悠斗を見た。「悠斗、莉奈とカップルコースを予約しておいて、よく私の浮気を疑えるね?」悠斗は気まずそうに表情をこわばらせた。「お前が考えてるようなことじゃない。ただのコース料理だろ」莉奈は颯太に誤解されたくないのか、慌てて弁解した。「颯太、私と悠斗はそういう関係じゃ……」だが颯太は莉奈に目もくれなかった。その視線はずっと私に向けられていた。次の瞬間、颯太はいたずらっぽく目を細め、私に目配せした。そして落ち着いた声でゆっくりと言った。「そうなんだ。じゃあ、俺たちもカップルコースを頼んでたら?」悠斗の表情が一瞬で険しくなった。勢いよく私のほうを向き、鋭い目つきでにらんできた。「お前、こいつとどういう関係なんだよ?カップルコースなんか頼んでいいと思ってるのか?」私はテーブルに置かれた伝票を手に取り、悠斗の前に突きつけた。そこにはカップルコースなど載っていない。「へえ。カップルコースがどういう意味か、ちゃんと分かってるんだね」悠斗は伝票に目を落としてそのまま固まった。颯